第1章 4『目覚める能力』
塔は、茂が考えてたより何倍も高かった。おそらく二百メートルくらいは、あるだろう。
今茂達が入ろうとしているのは、その二十階くらいだろう。そして茂をもっと驚かせたのは、その塔が一フロアごとにひとつずつ自動ドアと思われるものが、ついていることだ。つまり空を飛べるならどの階からも出られるし、入れるだろう。天使にとっては、空を飛ぶのは当たり前なのだろうと茂は推測する。
「よし、入るか」
セルメントと茂がそのドアの前で並ぶとそのドアは勝手に開いた。セルメントと茂は一緒に塔に入る。中は、普通の会社のようで、いくつかの部屋が取り付けられている。
セルメントが前と右、左に別れている廊下を左に向かっていくので茂もついて行く。その先には、ドアがひとつしか着いていない。セルメントは、そのドアの前に立つと軽くし三回ノックをして、中からの返答も待たずに入っていた。しげるも恐る恐る入る。
その部屋には、本の匂いで満ちていた。部屋の中には、左右にでかい本棚が置いてあり、真ん中にでかい社長が使っているような机が、置いてあるだけなシンプルな部屋だ。そのテーブルには、パソコンなどの電子機械が沢山置いてありしかし綺麗に整理されている。そしてその奥には、一人の男が腰をかけていた。
短いブルーの髪に、黄色い瞳。左目にしているモノクルと鋭い目つきにどこか迫力も感じられる。そしてセルメントと同じ白い服に身を包み胸には金色のバッチが付けてある。
「よぉ、スナプス。連れてきたぜ」
セルメントは、軽くスナプスと呼ばれた男に話しかける。
「ご苦労。無理やりじゃないよな」
「もちろん同意をもらったぜ。そのために丸一日考えさせたんだからな」
男はセルメントの話を聞くと、こっちに顔を向け、自己紹介をした。
「私はスナプス·エルフェル。四大天使の一人で天使軍第二将。よろしく」
そんな丁寧な自己紹介に対して、茂も一応自己紹介しなくては、失礼だろうと思った。
「えーと、東京都在住の普通の高校生です。今後よろしくお願いします」
「今後長い付き合いになることを願うよ」
「俺もそうなることを願うよ」
セルメントも二人の会話に入った。そしてスナプスの方を見て
「なぁ早く登録しちゃおうぜ」
「そうだな。じゃあ早速最後の説明を始める。天使になるために必須なことだ。よく覚えてくれ」
(さっき結構されたけどまだあるのかな?)
と茂は思っていた。しかし何せ人間を超えて天使っていう二次元にしか登場しないような存在になるのだ。他にも覚えなくては行けないことも沢山あるだろう。茂は、スナプスの言うことをしっかり聞いて覚えるよう集中する。
するとスナプスは、机の下から何やらアニメに出てくるようなレーザー銃のようなものと銅色のバッチ、さらにスマホを取り出した。そしてスナプスはまずレーザー銃のようなものを指して説明を始める。
「これは『忘天銃』って言う。君はよく地上に行くからしっかり持っていてくれ。これは地上に住む人間に対して使うものだ。もし君が天使の能力などを使ったり天界に関することが誰かにバレたりした場合、これを撃て。この中のレーザーに当たったらその人間は、天界に関する記憶を全て忘れる」
スナプスの言葉が少し途切れたので、茂は気になったことを質問する。
「ええと、能力って地上でも使えるんですか?」
「もちろん普通に使えるとも。もし使わないといけない状況でも絶対見せたり見られたりするなよ。もし見られたと思ったらすぐこれを撃て。体には害は一切ない。見られたらどんな混乱が起きるかわからない。特に今の時代、地上ではすぐ撮影されたりするからな」
スナプスの迫力の前に茂は、ただ「は、はい」と小さな声で返事するのが精一杯だった。
スナプスは、そんな茂をちらりと見て視線をセルメントに移して
「バックワールドについての説明は?」
と質問した。
「あー、まだだった」
とセルメント。スナプスは、また視線を茂に戻すと今度は銀色のバッチを指して話し始める。
「これは、天使であることを示すバッチ。大天使が銀色、中天使が銅色、小天使が白色。そして見ての通り我々四大天使は金色。それとこのバッチは絶対なくすな。このバッチにはもう一つとても大事な機能がついている」
茂は、さっきのスナプスとセルメントの会話からおそらくこのバッチが『バックワールド』という単語に関係があると予想した。そしてその予想は当たった。
スナプスは、バッチの裏を見せてくれた。そこには安全ピンとその左に赤、右に青というボタンがついていた。スナプスは、説明を続ける。
「基本天人は、地上から天界は自由に行けるが、その逆は直接行けないようになっている。まず地上ではなくさっき言ったバックワールドという地上と全く同じ世界に着く。そして、バックワールドに入ったことをこのリーク塔の三十階にある機械が読み取り、天使が行き事情を聞くことになっている。その事情が相当な理由ではない限り許可はしない。しかし天使はそういう仕事もあるため、地上へ直接行ける。この赤いボタンを押すと地上、この青いバタンを押すとバックワールドへ行ける。分かったか?」
またしても鋭い視線が送られてきたので茂も「だ、大丈夫です」としか言えなかった。
「最後はこれか」
そう言ってスナプスが持ち上げたのは、唯一残されたスマホだった。そして茂に向かってこう言う。
「これは知ってるよな?」
どうやらスナプスも茂がスマホを認知していることくらい分かってるらしい。
「はい、もちろんです」
「これは天界専用のスマホで連絡用にしか作られてない。以上だがなにか質問は?」
「いいえ、ありません」
茂がそう言うとセルメントが口を開く。
「よしそろそろ登録するか」
「最後にもう1回確認をする」
そうスナプスが言うと茂にさっきよりいっそう厳しく睨みつけて茂に話し始めた。
「天使が軍事組織って言うのは聞いたよな?」
「は、はい」
「軍事組織ということは分かってると思うが戦争をしたり命をかけた戦いを我々はしなければいけない。もし君が任務や戦争などで命を落としてもそれは自己責任だ。入ると決めたのはお前自身だからな。地上から来たお前ならいつでも辞めることは出来るがいつ死んでもおかしくない。そう思ってくれ。さぁどうする」
スナプスは、いっそう目を鋭くした。しかし茂は動じなかった。昨日一日かけてもう結論を出していたから。
「なってみます」
「まず1ヶ月体験したいんだとさ」
セルメントがそう付け加える。スナプスは、
「分かった。その顔を見ればわかる。覚悟はとっくに決まっていたみたいだな。無用な質問だった。では始める」
と言うとすぐにパソコンを打ち始める。カタカタというキーボードを打つ音やカチカチとクリックの音がこの書斎のような部屋に響く。そして待つこと三十秒。
「準備は出来た。あとはここをクリックするだけだ。もしかしたら天人なった瞬間体に何か変化があったらすぐ言ってくれ」
「分かりました」
そう茂が言うとスナプスは、すぐにクリックした。そして河野茂は、人間という存在を超えついに天人、天使になった。
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茂は、視界が眩しい光に当てられているかのように真っ白になって、いきなり体中が熱くなった。しかしやけどとかそういう熱さでは無い。まるで優しい炎に包まれたような感覚だった。気持ちいい、と思うと同時に自分のどこか大切なことがどんどん変わってきいくような、そんな感触が体中で起きている。そしてどんどん熱さが抜けていく。
目を開けるとさっきと変わらぬ光景。二つの巨大な本棚と二人の男。しかし光景は、同じでも体には、明らかに変化が怒ったことを自覚した。体中から力が込み上げて来る。そして右手に強い違和感。足にも少しの違和感があったが、右手はまるで暴れたい、と言ってるかのように疼いている感じがする。
「どう、なんか変化があったか?」
そう聞いたのはセルメントだった。茂は、今の間隔を具体的に説明する。
「なんか全身から力がみなぎってきたような感じです。今なら5メートルは、跳躍出来そうな」
そう言うとセルメントは、一回スナプスと目を合わせてから満足そうに頷いて、
「大成功だ」
「だな」
スナプスも相槌をうつ。セルメントは、
「どこかに強い違和感が無いか?例えば胸のあたりが存在感をましたとか」
「はい、胸ではないですけど右手がさっきからどうも疼いているんです。まるで暴れたいと言っているかのように」
するとセルメントは、少し驚いた顔をした。スナプスも同じような表情だ。そして少し間を置くと
「すごい才能を秘めていると思ったらやっぱりだな。天術だったとは」
「なるほど。かなりのレアケースだな」
それぞれのコメントをする。茂はよく分からなかったが、どうやら珍しい能力らしい。セルメントが説明をしてくれる。
「多分それは天術だ。天術というのは、体の内部に術式がもう刻まれていてそれを具現化して武器にする」
「口で説明するより見せた方が早いんじゃないか?」
とスナプス。セルメントは「そうだな」と頷くとこっちを見て「よく見ておけよ」と言うと右手を前に出す。その瞬間セルメントの右手が一瞬強く光った。そしていつの間にかセルメントの右手には、一本の美しい真剣が握られていた。
「これは天剣だ。俺の手にはこの剣を生み出す術式が刻まれている。そこに意識を集中して力を込めると発動する。天術は生まれつきのもので、持っているものは、この天界でもそう居ないだろう」
そう言うとセルメントの手から剣が消える。そして茂に
「早速やってみっか」
と言ってきた。
「どうやって?」
「全身の力を手に集中するようなイメージで、手に力を込めろ。そうすると自然に出てくる」
言われた通りやってみる。
(手に集中。手に集中)
そう頭のなかで念じる。すると手にどんどん力が込められていると感じられた。
(もっと、もっとだ)
全身の神経を全て右手に込めるような感じでやる。そして集中を始めて三十秒くらいしたらついに右手から何か出てくるような違和感が感じられた。違和感はどんどんでかくなっていく。
そしてついに右手が光り始めた。光はさらに輝きを増していき拳が何かとんでもないようなものを纏ったように、力がこもっていく。
光が消えた。そして茂は自分の右手を見るとセルメントのような剣などの武器はなかったものの何やら銀色に鈍く光るなにかに包まれていた。茂は驚いてきのあまり「わっ」と声を上げてしまった。その瞬間集中力が切れて元の手に戻る。
そしてセルメントとスナプスの方を見ると二人は、とても驚いているようだった。
「ええと、どうしたんですか?」
茂が質問すると、セルメントとスナプスは
「それは天拳だ。天術の中でも特にレアなケースだ」
「この天界に五人もいないだろう」
とコメントする。どうやらとてもレアなものらしい。茂はもう一度自分の手を見る。集中すればまた出せそうな感覚だった。
(自分にこんな力が)
茂はこの時、本当に自分が天使になったことを、初めて実感した。
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