第1章 3『再び天界へ』
「あは、いいよ。確かにこの二択をハッキリ決めるってのは、ちょっと意地悪すぎたかな」
「本当ですか?!」
なんとセルメントは、いとも簡単に承諾してくれたのだった。茂は、信じてはいたもののやはり心のどこがで都合のいい話しすぎると思っていたのだった。セルメントは、淡々と話を続ける。
「まぁ地上の人間なんて天神登録すりゃすぐ天人になれるし、それを外したらまた元の人間に戻れるしな。とりあえず、天人に一ヶ月だけ登録して、選べばいいさ」
どうやら天人ってのは登録をすればなれるらしい。簡単なシステムなのかな、と茂は思っていた。それと素直な感謝を込めて
「ありがとうございます。でもそんな簡単に天人になれちゃうんですね」
と言った。
「まぁね。んで俺としては、もう今すぐでも連れて行って登録して、仕事を一緒にしたいところなんだけどいいかな?」
「ええ、はい。でもちょっと支度していいですか?さすがに寝巻きで行くって訳には···」
「そうだな。じゃあちょっと待ってるわ」
セルメントが言い終えると茂は、ダッシュで階段をのぼり二回の自室へ行く。そしてタンスから適当な服をサッと出すと、すぐに着替えて階段を降りる。
その時にふとおもった。
(学校どうするんだ?)
そう、高校生の茂には、学校が当たり前だがある。もしこのまま天使になって学校を欠席し続けたら退学になるのではないかと思った。でもセルメントも学校入っているはずだ。あくまで柊史也という架空人物でだが。
階段を降りて居間に入る。セルメントはそのままの位置で待っていた。
「準備終えました」
するとセルメントは頭だけこっちを向き、
「んじゃ、そろそろ出発するか」
「あ、はい。それはいいですけど···」
「ん、どうした?まだ何かあるのか?」
茂はここでさっきの質問をするか一旦悩んだがさすがに知らないとまずいと思い質問することにした。
「ええと、気になっていたんですが···」
「何を?」
「学校、いや人間としての河野茂は、どうなってしまうんですか?」
「ああ、その事なら」
セルメントは、薄く微笑みながらこう続けた。
「君が天界へ来ている時だけスペアロボットを置いていけばいいだけの話しさ」
(スペアロボット!)
茂は、その単語を昨日セルメントから天界で聞いていたことを思い出した。それからあの選択肢をつきつけられたせいで『スペアロボット』という単語について聞くのをすっかり忘れていた。
「スペアロボットって何ですか?」
するとセルメントは、「あー」と言い左手で頭を掻きながら、右手を懐に入れ西洋人形のような型のものを取り出した。
「それについての説明もしてなかったっけ。これがスペアロボットさ。地上にいる時体内に挿入するんだ。すると天界に行ったと同時に、自分の姿に変化して自分が元々行っていたことを続けてやってくれるんだ。行動パターンは、その人と全く一緒。しかも地上に戻ったらスペアロボットが体験したことが、自分の記憶として残るんだ。昨日の君にもしくんだからよく分かるんじゃないかな」
なるほど。茂は、昨日の地上に帰ってきた時の奇妙な違和感の理由に納得がいった。確かにそのスペアロボットを使えば地上での活動にも支障はなさそうだ。
「じゃそろそろ行く?」
「分かりました」
「よし、レッツゴー!」
そうセルメントが言った途端茂は、体が上にゆっくり上昇して行く二度目の奇妙な体験をして、天界に着いた。
************************
目を開けるとそこには、大きくて白い天井。この前と同じようにやけに座り心地が良いソファーに座っていた。セルメントも目の前にいる。どうやら今回は、意識が途切れたのは数秒程度らしい。これが慣れなのかと茂は思った。セルメントは、身をこちらに乗り出して話し始めた。
「まず天使についての基礎知識を教えるからよく聞いて欲しい。まず位が大雑把にいう三つあってだな。上から大天使、中天使、小天使の三つだ。数はそれぞれ五十、五百、五千。君はこの中の中天使になってもらう」
「いきなりですか?!」
「そうだな。君の才能は天界から見る限り小天使は、軽く超えられると僕達は思っている」
茂はその事を聞いて嬉しいとは思ったものの少し怖くなった。なぜなら今の説明上自分は、くらいをひとつとばして天使になるという事だからだ。しかも五千もいるという大勢を抜いて。いきなり元人間の自分が天使になったらその人たちは本当に納得するのだろうか。
「いきなり中天使になることが怖いのか?」
「え!?」
茂は、自分の悩んでいたことをセルメントは、見透かしているような口調だったので、驚き咄嗟に声を上げてしまった。
「そうだろう?」
セルメントは、確信したような口調で尋ねてくる。茂は、セルメントに悩みを話した。
「まだ天使の強さとかは全然わかんないんですけど五千人もの人をおきざって、地上から来た人間がその上の位に着くってのはさすがに納得しないなんてことを思ってしまって···」
「確かに最初は避難の声が上がるだろうな」
セルメントは、こう続けた。
「でも前にも言った通り天使ってのは軍事機関なんだ。強いやつが上に立つ、それは常識。だから簡単な話さ。君が強いってことを皆に証明すればいいってことさ」
セルメントが言ったことは、当然のことだった。でも茂は、ちょっと前向きに考えることにした。まだ天人にもなってないのに最初からひたむきでどうするんだと。セルメント曰く、自分には才能が埋まってるんだ。もしかしたらとてつもなく強くなれるかもしれない。そう考えると少し楽になった気がした。
(そう言えばセルメントのくらいってなんだ?)
茂は、中天使くらいって言われている自分を呼びにくるくらいだから相当強いと思った。
「じゃあセルメントって何天使なんですか?」
茂が聞くとセルメントは、少し考えような仕草をしてから
「ああ、タメ口でいいよ俺には。でもやっぱり気になるよな。うーん、実はさっき説明しなかったんだけど大天使の上にもうひとつくらいがあるんだ」
「最高位って事?」
「そう」
セルメントは、そう頷くと少し躊躇って言った。
「俺は四大天使の一人にして、天使軍第一将セルメント·ガブリエル」
「第一将!?それって天界最強って事?」
茂は驚きすぎてついつい声を大きくしてしまった。
「まぁそうやって解釈するのが普通かな、やっぱり。世間的にはそうだしそう在らなくてはきけないんだけど、天使、天界にはまだまだ俺より強いやつがいる」
「え、でも天使って天界の軍事機関なんだしょう?」
「だからタメ口でいいって。あとその事は、複雑だからまた今度でいいかい?今は早く君を天人に登録して任務に出て欲しいんだ」
「任務って?」
「今天界で大量に放たれてしまった魔獣の討伐さ」
************************
セルメントの家を出るとそこには、眩しい太陽が浮かんでいた。
「天界にも太陽があるのか?」
「あれは擬似太陽さ。日照時間とかは東京と一緒だ。東京が冬で寒い時はこっちも寒い。気候は、変わらないから安心しな」
「へー」
茂は、素直に感心した。
そしてこれから自分が天人になることに、ワクワクと人間離れすることへの少しの恐怖感が相対していた。
また、さっきセルメントに言われたことが脳内でよぎる。天人に登録するためリーク塔という天使の最大施設へ行き、天人にとうろくすること。天人に登録したら、すぐに魔獣討伐をしに森へ行くこと。自分が天使になることを決断された理由が、四大天使だけが持っている十人の直下兵のうち大天使が一人魔獣に殺されたからであったことなどだ。
(俺が活躍するのはその人の弔いになるのかな)
茂は、そんなふうにも思い始めていた。
「よし、行くか」
「どうやって行くんですか?」
「こうだよ」
セルメントがそう言うと茂の体がいきなり少し浮き始めた。
「俺の風魔法で連れてってやるよ」
そして体はどんどん上昇していく。茂は、いきなり現実離れしたこの状況が自分がこれから過ごす場所だと考えるとやはりワクワクと恐怖感が相対する。
「俺もこんな魔法が使えるようになれるのか?」
茂は、少し期待していたがセルメントの返答はその期待に応えたとはいえなかった。
「それは分からない。天使として戦う才能があると分かっているがどの能力が眠っているかまでは、俺らも把握していない」
「魔法だけじゃないのか?」
茂はてっきり能力って言うのが魔法だけかと勘違いしていた。セルメントと茂の上昇は止まり真っ直ぐ進み始めた。その直線の先にとても高い建物がある。茂は自分達の進行方向の先にその建物があることから、そこがセルメントの言うリーク塔ということは容易に想像出来た。そしてセルメントは、さっきの返答をこちらに見ないでする。
「そうだな。天人の能力は、魔法だけじゃない。だけど話すととてつもなく長くなるから順に覚えていけばいいさ」
「天人って全員魔法とかの能力に目覚めたりするんですか?」
「いいや、そういう力に目覚めるのはわずかひと握りさ。その大半が生まれつき持っている。だからそういう人達が天使になって国を防衛する」
「防衛?そう言えば天使って治安維持意外にも活動しているんですか?」
「まぁそうだな。天使ってのは言わば警察と自衛隊が合併したみたいな機関なんだ。国の治安維持と他国からの防衛」
「他国って天界ってくにひとつじゃないんですか?!」
茂はまた驚いて声を荒らげてしまった。他国からの防衛ってことは、他国と戦争するってがは分かる。つまり自分が天使になったらそういう戦いにも出ないといけない。
そんなことを考えると茂は、背中に寒気を覚えた。セルメントも茂の様子に気づいたのか、話を打ち切ってくれた。
茂は二人の間の沈黙は嫌だとは思はなかったが、前の塔にはあと1分くらいあるので、下の景色を見ることにした。
今茂達は、高度八十メートルくらいを飛んでいる。普通なら平常心を保てなくなりそうなくらい高いのだが、何故か恐怖心を感じられない。
下は何やら繁華街みたいでとても賑わっていた。何人かの人達がこちらを見て指さしたり、手を振ったりしてくれる。
しかし空を飛んでいるのは自分たちだけで他は見渡しても誰も飛んでいない。茂はやはりこのことも気になって質問してみた。
「なぁ、空を飛ぶ能力って天人全員持っていたりしないの?」
セルメントはこちらの方を見ると苦笑いして言った。
「空を飛ぶってのは能力のついでみたいなもんだ。そもそも能力に目覚めると、自分の体の構成とかを深く感じ取れるようにもなる。つまり肉体強化や反射神経とかな。どんな種類の能力でも同じだ。そらをとぶもその一環」
茂は、またも少し期待して質問してみた。
「じゃあ、俺も能力が使いこなせるようになれば空を飛べたり出来るようになれるの?」
「ああ、すぐになれると思うぜ」
茂は、その言葉を聞きとても嬉しくなった。
『人間の限界は空を自力で飛ぶことかもしれない』そんなことを言っていた人もいたっけ。でもそんなことを超えて空へ飛べる。それは茂にとってとても嬉しいことであった。
そして塔はもうすぐ目の前に迫る。
ついに茂は天人、天使になる時がやってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます