第4話 初彼


高校1年の冬、初めての彼氏が出来た。

サヤカの彼氏の友達で、名前は裕人(ゆうと)。

同い年だけど学校は別々で、メールを数回重ねた後にふたりで会い、帰り際に告白された。

「茉由梨のこといいなって思うんだけど、フラれるのが怖くて告白できない」

なんて、殆ど告白みたいなことを言われ、少し考えた後、私は笑顔でそれに応えた。

「大丈夫。フラないよ」

別に、裕人のことを好きだと思ってた訳ではなかった。

あどない顔立ちにひょろっこい体付きで、あんまりタイプじゃないし。

第一、フラれるのが怖くて告白できないなんて言ってくるヘタレな奴、例え顔がタイプだったとしても願い下げだ。

けれど、私は早く男というものを知ってみたかった。

深くその生態を知ることで、私の根底に植え付けられた“男に対する憎悪”が消えるかもしれない。

そしたら、ドラマや漫画で見るような、素敵な恋愛が、私にもできるようになるのかもしれない。

そんな気持ちで裕人と付き合い始めた。

学校が違うので毎日顔を合わせられない分、毎日メールや電話をした。

たまに会えば、ファーストフード店でお喋りをしたり、自転車を2人乗りして遊びに出掛けたりした。

付き合って半月で、始めてキスをした。

大した感動はなく、ああ、こんなもんかと思っただけだった。

初めて体を重ねたのは、クリスマスの時だ。

裕人の家で買ってきたケーキを食べ、プレゼント交換をした。

貰ったのはマフラーとポーチで、私があげたのは彼が欲しいと言っていた通学用の鞄だった。

ふたりで並んで座り、とりとめのない話をして、ふいに訪れた沈黙のタイミングで、唇を重ねた。

そのまま、裕人の手が私の太ももに触れる。

ひやりとした感触に体が震えたが、心は落ち着いていた。

ベッドに倒れ込み、唇を這わせながら体の隅々まで撫で回され、着ていた服を1枚ずつ剥ぎ取られていく。

過剰なダイエットでお尻に肉割れの跡がある私は、裸を見られることに抵抗があり、唇が離れた一瞬の隙に、電気を消してほしいとお願いした。

彼は黙って電気を消して、また夢中で私の体を弄り始める。

初めての男性経験は、なんの感情も沸くことなく終わった。

キスをした時と同じで、こんなもんかって思っただけ。

「茉由梨はほんとに可愛いなぁ」

ベッドの上で私を抱き締めながらそう言われた時、心の中が疼くような感じがしたけれど、それは気持ちいいというよりは、不快感を伴うような動きだったように思う。

薄暗い静寂の中、気だるい微睡みを体に巻き付け、そっと目を閉じた時。

「…茉由梨ってほんとに初めてだよね?」

そう、遠慮がちに裕人が聞いてくる。

私たちは、お互いが“初めて”同士だった。

けれど、体が繋がった時、初めてなら出るらしい血が出なかったし、私は少しも痛がらなかったから、彼は不安に思ったらしい。

「そうだよ」

と、その事実だけを簡単に伝えた。

それに納得したのかどうかはわからないけれど、彼は「そっか」と返事をして、また私を強く抱き締めた。


実際、私にこの時まで男性経験はなく、正真正銘、処女だった。

けれど、この質問がのちに私の中にある“欲望”をひけらかす爆弾になるなんて、この時の私には知る由もなかった。






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