第3話 “私”が生まれた時


あいつらを見返してやるーーー

そう決めたからには、まずは自分磨きをしなければならない。

どこから手を付けるか…全身鏡を見て気になったのは、ムチムチの太もも。

そして、肉付きの良いパンパンの頬。

まずはダイエットからだ。

そうと決めたら、すぐに実行。私は自分に厳しい食事制限を課した。

朝はコーンフレークとヨーグルト、昼は母が作ってくれた小さいお弁当、夜はこんにゃくゼリーのみ。

更にお風呂は半身浴を1時間、寝る前にはストレッチと無酸素運動を行った。

朝は起き抜けに無酸素運動をして、ご飯を食べてから雑誌を見ながらメイクをする。

その時愛読していたのは当時流行っていたギャル雑誌で、私のメイクは日に日に濃くなっていた。

スカートの丈もパンツが見えそうなくらい短くし、足元はルーズソックス。

そうすると 、スカートから覗く太ももがどうしても気になり、意地でもほっそりとさせたくて、ますますやる気が出た。

1ヶ月程で、成果は出た。

体重はマイナス5キロで、増えた分を全て落とせた訳ではないけれど、服のサイズが1サイズ落ちる程にはダイエットできた。

スカートから覗く太ももが、綺麗だ。

調子に乗ってそれからも食事制限を続けていたが、ある日太ももに謎の黒い斑点が出てきたので、ダイエットは母から強制的に打ち切りにされた。

多分、栄養失調だったのだろう。

その頃確かに肌はガサガサだったし、顔色は常に悪く、体調もよく崩していた。

さすがに自分でもヤバいと思ったから、ダイエットは辞めて次はメイクを極めることにした。

バイトを始め、貰ったお給料は全て雑誌や化粧品、服などに費やし、いよいよ本格的に新しい“私”を作り始めた。

当時の女子高生は大きく分けると小麦肌のギャル系か、色白清楚系のどちらかだったので、地黒の私は迷わずギャル系に走った。

それに、ギャルの方が強そうに見える。

私は、サヤカのような強い女になりたかったのだ。

つけまつげをつけて、アイラインはオーバーに引いて、髪の毛は明るい茶髪にして盛る。

始めこそ酷い顔になっていたけれど、諦めずにメイクを勉強することで、なかなかいい感じに仕上げることができるようになった。


丁度顔が変わる時期と、ダイエットで痩せたのが重なったからか、私のすっぴんは少し変化していた。

顔の余計な肉が落ち、本来の顔の小ささを取り戻せた上に、瞼も肉が減ることでほんの少しパッチリとした目になった。

鼻筋は、父親に似て元々通っていたし、形も綺麗だ。

口は小さいけれどそれなりの厚みがあり、これもバランスの良い位置にきちんと配置されていた。

そこにメイクを施すことにより、コンプレックスだった目の小ささをカバーすることができ、剛毛なくせ毛も毎日きちんとセットすることで気にならなくなった。


高校1年の冬頃には、新しい“私”が完全に出来上がった。

その頃になると、高校ですれ違った男子生徒や、駅のホーム、遊びに出掛けた先などで、声を掛けられることが多くなった。

「ねぇ、何してるの?」

「可愛いー」

と、今まで1度も言われたことがないような言葉を言われると、嬉しいという気持ちもあったけれど、それよりもまず強い達成感を感じた。

私の努力は報われたのだと、そんな言葉たちが証明してくれているみたいで、やっとあいつらを見返すことができたのだと思った。



ーーーこの時はまだ私自身、気付いていなかった。


自分の中に刻まれた過去の傷口が、未だに閉じることなく赤黒い血を流し続けていたことに。





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