第25話 ちょっと期待してたのに

 携帯が鳴っていたことに気づいて、画面を開く。『待って、携帯にまで手を出してしまったらもう勉強には戻れないわ』なんてささやいてくれる天使は、空那にはいない。


「クーポンか。・・・あ、ガトーショコラおいしそう」


 どうやら、コンビニのクーポンが送られてきたようだ。空那の家の近くにはコンビニが5軒ほどあるが、そのうち特に近い3軒は同じコンビニである。受験生になってからというもの、必然的にそのコンビニに行く回数が増えた。増えたといってももともとあまりコンビニに行く方ではないから、常連と言うほどでもないが。


「今月のお小遣いってもう貰ったっけ?」


 行く気になったようだ。重い腰は上がっていないが、上半身は動き出した。ちなみに、空那のお小遣いは1か月1,500円である。コンビニによく行くようになってから、500円増やしてもらった。まあ、どうせ本かお菓子かにしか使わないし、もともと吟味してから買うタイプなので、増やしてもらわなくても大して減りはしない。たまっていく一方である。なので、1か月分もらっていなくても大してダメージはない。近い未来に、少し悩む時間が増えるかもしれないだけだ。

 青いショルダーバッグに財布を入れると、中学生だというのに「よいしょ」と言わないと上がらないくらい重い腰を上げる。白いダウンジャケットを着てマフラーを巻き、玄関に降りて、靴を履く。今日は寒いので、内側がもこもこのブーツにした。


「行ってきます」


 家には誰もいないが、なんとなくそう言って家を出る。ドアノブを2、3回ガチャガチャとして、鍵が閉まっているのを確認する。自転車に乗りかけて、風が冷たいからやめた。息が白い。大分しっかり白い。あと、手がすごく痛い。自分じゃないが、すごく痛い。


「あ、手袋忘れた。カイロもないし。あー、しまった」


 そう言いながらマフラーで手を包む。空那は、ダウンジャケットのポケットは冷たいからと、あまり手を入れない。それこそカイロを入れているときくらいだ。


「ガトーショコラかプリンパフェか。どっちがいいかなー」


 そう言いながら、一番近いコンビニを通り過ぎた。クーポンは遠いほうのコンビニのだったらしい。それより、ガトーショコラかプリンパフェか。ガトーショコラ一択かと思っていたが。ああ、ガトーショコラは自分でもよく焼くからか。なら普段食べないプリンパフェにするのもいいな。・・・ん?ああ違った。よく焼いていたのは前の人間か。空那は、お菓子作りといえばバレンタインにクッキーを焼くくらいだったな。まあ、そんなことはどっちでもいい。コンビニに着いた。


「やっぱりプリンパフェかなー。甘いの食べたいし」


 ガトーショコラとプリンパフェの戦いはあっさりと終わった。いつも通りなら本番はここからだが、今日はクリスマスだ。空那も100円くらいなら奮発するかもしれない。


 ~~♪~♪

「ありがとうございましたー」


 店員の声を聞きながら、コンビニを出る。


「りんごもぶどうも買ってしまった、、、」


 というのは、寒天のことだ。いつもコンビニに来るたびに、りんごかぶどうかで悩みに悩むのだが、今日はやっぱり奮発したらしい。ちなみにこの寒天にはみかんもあるが、それはあまりお気に召さなかったようで、いつもりんごかぶどうかで悩んでいる。最近はりんごが勝つことが多い。


「寒っ。やっぱり自転車で来ればよかったかなー」


 そう言いながら歩いていると、後ろから聞き馴染みのある声が聞こえてきた。


あきちゃん!」


 空那がぱっと振り返る。


「びっくりしたあ。そんな懐かしい呼び方するから一瞬誰かわかんなかったよ」

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