第22話 高校説明会

「やっぱり電車通学はやめたほうがいいんじゃない?」


 最初の方、ろくに説明を聞くことも出来ずに吐き気と戦っていた空那に母が言う。


「これは効くかも知んないから。全部試してから決める」


 そう言って、行きの電車で飲んだ酔い止めとは別の酔い止めを取り出す。ちなみに、空那は錠剤タイプ派である。キャンディータイプは飲むのに時間がかかるからだ。


「霞ヶ丘よりこっちがいいの?」


「いや、まだ決めたわけじゃないし。それに、選択肢は多いほうが良くない?」


 この間まで高校選びを面倒臭がっていた空那が言う。


「そうかもしれないけど、選択肢は絞れるとこは絞ってたほうが楽だと思うよ。まあ、どうしても語学研修でイギリスに行きたいとか言うなら別だけど」


「あぁ、他は大体オーストラリアだもんね。でも語学研修には興味無い」


「なら高江にこだわらなくてもいいでしょ?」


「いや、だから高江にこだわってるわけじゃないってば」


 そんな会話をしながら最寄りの駅へ向かう。高江高校から最寄りの高江駅までは徒歩7分ほどと近い。さらに自宅の最寄り駅までは3駅、最寄り駅から自宅までが徒歩5分なので、あっという間に自宅に着いた。


「ねえ、霞ヶ丘じゃだめなの?電車通学は向いてないわよ。ほら、他にもちょっとレベル上げれば自転車で通える距離に2校もあるんだから」


 帰りの電車でも例のごとく酔ってフラフラになった空那に、母が呆れたように言う。


「・・・まだ全部試してないから」


「ほんっとに、変なとこで意地っ張りなんだから」


 誰に似たんだか、と言いながら、夕食の準備をしにキッチンへ入っていった。空那はというと、フラフラしながら階段を上り、自室ではなく透也の部屋の前に立った。


「お兄ちゃん、ちょっといい?」


「いいよ、入って」


 空那が入ると、今まで勉強していたらしいのをやめ、透也が顔を上げた。


「進路?」


「え、なんで分かったの」


「だって、駿が高江か松葉谷行くって言ったの聞いた後に霞ヶ丘って言ってた空那が酔い止めの話しだすんだもん。一緒に行くか悩んでるんでしょ?」


 透也がくすくす笑いながら言う。


「・・・うん」


 ムスッとして空那が言う。


「お兄ちゃん、井口さんと同じとこ行ってるでしょ?やっぱり、一緒で良かったって思う?」


「そりゃあ、一緒に登校したりとかって楽しいし、良かったって思うけど、デメリットだって多いと思うよ?」


「例えば?」


「万が一別れたとき、めっちゃ気まずいとか」


「私たちは別れないもん」


「万が一があるかもしれないだろ?まあそれだけじゃなくて、他のとこにすれば良かったって後で後悔するかもしれない、とかさ。色々あるわけ」


 それはまあ、そうだけど、と空那が口をとがらせる。


「ちなみに、俺と井口は両方とも受けるとこ決まるまで一切高校の名前出さなかったよ」


「は?でも一緒のとこ行ってんじゃん」


「うん。両方とも決まってから同時にって言ってたからそうしたら、一緒だった」


「え、奇跡じゃん」


「そ。運命感じるだろ?空那もさ、駿が高江か松葉谷のどっちかに行くかだって変わるかもしれないんだから、秘密にしといてもらえば?それで色々考えて、最終的に出した答えが一緒だったらラッキーくらいにしといてさ」


「やっぱそうだよね」


 高校選び面倒くさいなー、と一瞬テンションが下がったのを隠すように言う。


「あ、でも、ここに行けば修学旅行がパリ、みたいなノリで、ここに行けば彼氏と登校できる、とかってその高校に行くメリットにしちゃうのもナシではないとは思うよ」


 空那は高校行ってまで勉強したくないやる気のない受験生だからね、と透也が笑って言う。


「アリ、かな」


「ナシではない、と思う」


「ありがと」


 空那はそう言って微笑むと、透也の部屋を出た。


「とりあえず、あと2回は電車に乗る必要があるな」


 そう言いながら学校で配られた高校の資料を引っ張り出すと、地図と、偏差値の書かれたサイトを見ながら品定めを開始した。

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