第21話 優先事項
「空那、今日勉強したの?」
リビングのソファーに寝転がってスマホをいじっている空那に、身長171センチメートルの母が聞く。ちなみに父は178、兄である透也は172。
「うん。したよ」
スマホから目を離すことなく、身長154センチメートルの空那が答える。
「もう受験生なんだからさあ、宿題終わらせるだけじゃだめだからね」
「分かってる」
空那が面倒くさそうに答える。
「分かってるってあんた、参考書進んでるの?最近スマホ見すぎじゃない?」
「してるってば」
空那は不機嫌そうな顔をして立ち上がると、母の小言から逃げるように自分の部屋へ入った。
そのままクッションに倒れ込もうとしてふと勉強机に置いてある英語の参考書へと手を伸ばす。クッションに落ちるようにスマホから手を離し、付箋の貼ってあるページをめくると、ため息をつく。
「テスト範囲広すぎ。あ"あ"ーーーもぉ"っ」
そう言いながら英語用のノートを広げる。最近サボりまくっているため、全く進んでいないのだ。いや、決して母に嘘をついた訳では無い。国語はやったのだ。得意な国語は。あと社会と理科も一応やってはいる。ただ、苦手な教科になるとどうも先へ進まない(理科も苦手だが、今している範囲は得意なんだそうだ)。
―――20分経った。空那はまだ勉強机に向かっている。が、全く進んでいない。最初に開いたページのままだ。ノートには1問だけ解かれてあって、後は問題番号が書かれてあるだけ。こうなるともう進まない。もう少しでスマホか本棚に手を伸ばすか、そうでなければうたた寝を始めるはずだ。
「無理。分かんない」
そう言ってスマホに手を伸ばした。通話アプリを開き、名前を検索する。
―――♪♪♩♬♪♪♪♩♬
『もしもし?どした?』
「伊藤ぅー、助けて」
『え、なになに。勉強?数学?』
「勉強だけど数学じゃない」
『英語か?』
「うん」
電話の向こうで、ガサゴソと何かを準備する音がする。
『えーと、問題集やってんの?』
「一応したんだけど、間違いだらけ」
だんだんと不機嫌そうな声になっていくのが空那自身も分かっていながらも、どうしても高い声に戻せない。
『どこが分かんない?』
「・・・全部」
『全部?』
「全部!」
『ンフッ』
「え、今笑った?」
『ご、ごめんごめん。めっちゃ不機嫌そうだから、思わず』
伊藤が笑いをこらえるように少し震えた声で言う。
「別に、不機嫌じゃないし」
『ングフッ』
「笑うなっ。ってか笑い方キモい」
『ごめんて。あのさ、時間ある?今から図書館行かない?』
「図書館?」
『うん。教えたげるからさ』
「ほんとに?」
『うん。時間ある?』
「ある。駅のとこのでいい?」
『うん。先行って待ってるから』
「分かった。すぐ行く!」
そう言って電話を切る。参考書を鞄に突っ込むと、鏡台の前に座って髪を整えて服装もチェックし、大急ぎで家を出た。
自習スペースに入ると、奥のほうに伊藤が座っているのを見つけた。
「ごめん、お待たせ」
「全然。参考書持ってきた?」
「分かんないの全部持ってきた」
そう言って鞄の中身を取り出し、全て机の上に置く。
「英語の問題集と、あ、数学もある」
「教えてくれるって言うから」
何か文句でも?とでも言うような目で伊藤を見る。
「分かった分かった。教えるけど、空那門限6時半だよな?あと4時間くらいしかないから全部は無理かも」
「うん。大丈夫」
「じゃあ、どっちからやる?」
「英語からお願いします」
問題集を開き、勉強を始める。家では全く進んでいなかった空那も、伊藤の説明が分かりやすいのか割とスラスラ進んでいく。
あっという間に3時間が過ぎ、勉強も一段落したので休憩タイムに入った。
「テストできそう?」
「うん。すごい分かった気がする」
「なら良かった。いっつも思うけどさ、津田、理解早いからめっちゃ教えやすい」
「いやいや、伊藤が教えるの上手いだけだよ」
「そ?ありがと」
「いや、こちらこそありがと。・・・ごめんね?すごい、不機嫌になっちゃって」
「全然。俺も出来ないときって、イライラするし。それに、か、面白、かったし?」
「ひどっ」
「あ、そーいえば津田は高校決めた?」
「え?あー、霞ヶ丘かなって思ってる。伊藤は?
綾原高校はこの付近では一番偏差値の高い難関校である。私立で、部活動も盛んだ。
「いや、綾原は無理。レベル高すぎるだろ」
「学年5位が何を言うか」
「いや、5位っていってもそんなに点数高いわけじゃないし」
「えぇー?高いでしょ、普通に。で?高校どこにするの?」
「高くない。えーと、高校はなぁ、
「へぇ。もっと上行くのかと思ってた」
「いや、安全圏行って大学は推薦狙おうかと思って」
「おぉ、さすが。色々考えてるねぇ。高校でもバスケやるの?」
「そのつもり。だからそれ考えると高江かなとか考えてるとこ」
「へぇ、高江・・・。あぁ、松葉谷ってバスケ強いらしいもんね」
「そ。勉強絶対出来なくなる」
「強豪は練習絶対キツいもんね」
そんなことを喋りつつ、勉強を再開し、とうとう4時間が経った。
「今日ありがとね」
「どういたしまして。テスト頑張ろーな」
「うん。じゃあね、ばいばい」
「おう。また明日」
テストは来週の水曜日からだ。空那は、家に帰るとさっそく参考書を開き、勉強を始めた。伊藤に教えてもらい、やる気が出たのもあるのだろう。ちゃんとページも進んでいる。
コンコン
「空那、もうすぐご飯だから、降りてきて」
透也が呼びに来た。
「了解。すぐ行く」
途中だった問題を解こうとし、手を止めると、部屋から出た。
「お兄ちゃん!」
「え、何?」
「あのさ、おすすめの酔い止め、とか、あったりする?」
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