第20話 友達付き合い
「空那ー、今日一緒に帰れる?」
SHRが終わり、優花が教室にやってきた。
「帰れるけど、桜ちゃんは?」
「ううん、早退。だから問題なし」
「熱でも出たの?」
思わず上がりかけた口角をなんとか抑え、空那が聞く。
「いや?ズル早退だよ。よくやってる」
優花がなんてことないような顔をして答える。
「ズル早退・・・。まあ桜ちゃんはやりそうだけど」
「でしょ?
路夢くんというのは、桜の好きな歌い手のことである。実際、桜は過去に2回ほどそのライブのためにズル休みを働いている。さすがに一週間ではなかったが。
「ああ、そういえばあったね。次の日からはマスクして登校してきて」
「そう、一応ね。生徒には絶対バレてるけど、わざわざ告げ口するやつもいないから先生にはバレないし。まあ、1回や2回ズル休みして怒られるってこともないだろうけど」
「確かにね」
そう言いながら、リュックを背負い、教室を出る。受験生にはなったが、教科書は基本教室のロッカーに置きっ放しなので荷物の量は去年までとさほど変わらない。もちろん、優花も同じくだ。
「ところでさ、篠山と清風ってレベル全然違わない?篠山くらいなら優花行けるでしょ。なんで清風?」
さっそく高校の話題に入る。空那は話し下手だが、優花が相手だと遠慮なくスラスラ喋り出す。
「いや、『篠山くらい』じゃないから。あたしのレベルでそれ言ったら多方面から怒られるから」
「いやいや。テストではいっつも課題とか手抜きしてるせいで点数落としてるだけで、ちゃんとやったときは取れてたじゃん。ちょっとするだけでいいんだって」
「その『ちょっと』すらしたくないグータラ人間だからいっつも点数落としてるんだよ」
「いや、きみ受験生だから。『ちょっと』くらいは頑張ってよ…。まあ、にしてもさ、清風は落としすぎじゃない?どんだけ勉強サボる気よ」
「いや、それはそうなんだけどさ」
優花がまた口ごもる。
「桜ちゃんに誘われたとか?」
「いや、まあ、うん」
優花が口ごもるのは、空那が桜のことをあまり好いていないというのを薄々察しているせいだ。それなら最初から言わなければ良かっただろうという話だが、優花は上手く誤魔化すというのが下手なのだ。
「それで進路決めるのは危険だと思うけど…。今のとこ清風を受ける可能性は?」
「結構高い、かな。まあ、勉強したくないし。最近だんだん塾のテストも点数落ちてきてるし。制服も可愛いし?あ、それにね!弓道部あるの!弓道部。かっこよくない?」
優花は勉強嫌いだが、塾には行っている。ただし、親に言われて行っているだけで、決して真面目に勉強しているわけではない。授業中にスマホをいじるタイプだ。
「まあ、それはかっこいいけどさ。絶対弓道部に入るの?入らなかったら制服しか清風にいる理由なくなっちゃうけど」
「いや、まあ、うん、そうだよね。それは、分かってるんだけど」
「桜ちゃんと同じ高校に行きたい?」
「絶対に桜がいいってわけじゃないんだけど、仲良い友達がいるってやっぱりちょっと楽じゃん?1から友達作り始める必要性もないし。それに、高校選びとか難しいしよく分かんないし」
空那が口を開きかけ、少し止まってから喋り出す。
「…学力で決めたらいいじゃん、そんなの。私だってよく分からんけどさ、学力と通学距離で絞るだけでもだいぶ候補少なくなるよ」
「そうだねぇ。やっぱりそのほうがいいよねぇ」
「少なくとも私はそう思う。優花次第だけどね、結局は」
学校から家までは、空那のほうが少し近い。優花が帰っていくのをある程度まで見送ると、家に入り、自分の部屋へと直行する。
いつものように布団へダイブすると、優花と喋りながらずっとモヤモヤしていたことについて頭の中で考え出す。
(なんで、霞ヶ丘受ければいいじゃんって言えなかったんだろう)
口を開きかけてやめたとき、言いかけていたことだ。
(自信ないんだろうな、結局。優花、友達多いもん)
空那はCDラジカセのスイッチを入れると、入れっ放しにしてあるCDを流す。明るい曲調の恋愛ソングが流れ出した。
(仲良いって思ってるのも私だけなのかもしれない。多分、やたら自分を特別視してくるめんどくさい奴って思われてるだろうな)
こうなると、空那のネガティブ思考は止まらない。
(話しかけてくれるのだって、ただたまたま私だっただけで、私である必要はないんだろうな)
などと自分を卑下しまくったあと、泣いて腫れぼったくなった瞼を閉じて眠り始める。少しのきっかけですぐにこうなるのだ。前に結びついた人間はこんなことはなかったのに。むしろポジティブすぎるくらいだった。楽観的すぎるとよく怒られてはいたが、ああいうタイプのほうが楽なのかもしれないと、最近よく思う。まあ、
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