第19話 第1回進路希望調査
「調査票、今日持ってきた人は先生のとこに出しにきて」
空那の担任である社会科教師の
それはともかく、奥野先生の指示を聞いて立ち上がる人はまだ2、3人しかいない。まあ、昨日配られたばかりだし、提出期限は来週の金曜日なので問題はないのだが、この2、3人の中になんと空那が入っているのだから驚きなのだ。
「空那いる?」
「いるよ。空那ー」
世奈が空那を呼んだ。
「はいー?あ、優花。どしたの?」
HRが終わり、優花が訪ねてきた。
「空那さ、高校どこにした?」
「とりあえず
「霞ヶ丘って、なんか特殊な学科ばっかりじゃなかったっけ?国際なんとか科、みたいな」
と、横で聞いていた世奈が言う。
「いや、普通科もあるみたい。その、国際なんとか科と、総合科学科?みたいなのと普通科と」
「へぇ。まあ、霞ヶ丘近いしね。自転車で行けるんじゃない?」
電車で行っても一駅でしょ、と優花が言う。
「そうそう。それに、坂が結構きついから受かったら電動自転車買ってくれるらしい」
「ああ、それはもう霞ヶ丘受けるしかないね」
無駄に納得した顔をして世奈が言う。
「でしょ?電動自転車はねぇ。ポイント高いよねぇ」
「うん。なんてったって電動自転車だからねぇ」
「でも、電動自転車って充電切れたらくそほど重いよ?」
優花が流れを止めた。
「ここは流れに乗るもんでしょーよ」
世奈が笑う。
「そーだよねぇ。私ズボラだからなぁ。充電絶対忘れるだろうなぁ」
空那が無駄に深刻な顔で、考え込むポーズをとる。
「でもさ、霞ヶ丘より上でも空那なら余裕で目指せるでしょ?ほら、もう一駅行ったら
「いや、二駅って言っても高江って山のほうにあるじゃん?だから自転車で行くには遠いし、電車とかバスっていうのも嫌だしさ」
「ああそっか。空那乗り物酔い酷いもんね」
そうなのだ。修学旅行のときのようにバスでも酔うし、電車でも酔うときがある。空那いわく、「問題は揺れじゃないんだよ。匂いなんだよ。無臭だったら人並みになれるんだよ。だから別にタイヤの上の席でも問題ないから。一番前に固定するのはやめて」だそうだ。
ちなみにこれを言っていたのは修学旅行前、バスの座席決めのときだ。タイヤの上は酔いやすいらしいとかいう意見により、酔いやすい人はくじ引きでタイヤの上に当たらないように前の席(通路を挟んで先生の隣)に決めてしまおうということになり、真っ先に空那の名前が挙げられてしまったのだ。実行委員だった凜佳に必死に訴えた結果、前に固定は免れていた。結局くじ引きで先生の後ろになってはいたが。
「うん。だから徒歩か自転車がいいんだけど、せっかくなら自転車通学してみたいじゃん?小中ずっと徒歩通学だから、なんか憧れる」
「それは分かる。徒歩って疲れるしね。飽きたし(笑)」
「そ、飽きたし(笑)」
「あ、優花はどこいくか決めたの?」
「あたし?あたしはねぇ、
「え、清風って私立でしょ?優花、なんとか公立には行くって言ってなかった?」
「いやぁ、それがさぁ」
優花が苦笑いする。
「あ、やば、もうチャイムなるよ」
「ああ、ほんとだ。じゃね。またあとで」
「うん。頑張れー」
「空那もね。寝るなよ?」
「それはこっちのセリフ(笑)」
優花は自分の教室に、世奈は自分の席に戻ったので、空那はあと1分ほどでチャイムが流れるであろうスピーカーを一人で見つめてボーッとし始める。
(篠山と清風ってかなり差あるよね。優花なら篠山くらいは行けると思うんだけどなぁ。テストの順位は低いけどさ)
などと考えていたらチャイムがなり、授業が始まった。
1時間目は理科で、白髪のおじいちゃん先生だ。
(
そんなことを考えながら配られたプリントを後ろに回そうとして、ふと止め、プリントをとりあえず後ろの机に置く。そして後ろの席の人の背中をトントンと叩き、小声で言った。
「
授業開始から約3分後の出来事だった。
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