第18話 幸せ
タピオカを飲みながらただただ喋ったり、服屋さんでお揃いのTシャツを買ったりと、すっかり伊藤とカップルらしくなった空那だが、夏休みが明けた今、空那の目の前には強大な敵が立ちはだかっていた。
「みんなはもう決めてるもんなの?」
机に突っ伏しながら、空那が言う。
「いんや、私も全然決まってない」
「だよね?凜佳は?」
「私は第一」
「あー、去年にはもう決めてたっけ?」
「うん」
「じゃあさ、決め手は?第一に行きたいと思った決め手」
「うーんとねー。そーだなー。・・・勘?」
空那がガクッと項垂れる。
「あ、でも、行事が楽しそうっていうのも理由かな。文化祭がさ、全学年が出店できるんだ。クラスごとに劇するとか展示するとかいう学校も多いじゃん?中学もそーだし。だから、うん。行事かな、決め手は」
「なるほどねー。私も第一って書いちゃおっかなぁ。でも第一って進学校だったよね?それは嫌だなぁ。私勉強したくないし」
「進学校って言っても空那なら余裕のレベルだよ?いけるって。私はちょっと危ういけど」
「うっそだぁ。凜佳この前全教科80以上取ってたじゃん!絶対いけるでしょ」
私なんて社会62だったんだよ?と世奈が言う。
「この流れではなんか言いたくないんだけど、私数学70だったんで」
「70!?凜佳が?数学得意でしょ?」
「今回は苦手なとこばっかりでたの!図形苦手なんだよー」
「あれ?凜佳図形得意じゃなかったっけ?」
空那は図形が超がつくほど苦手で、この間も凜佳に教えて貰ったばかりだ。まあ、空那の場合は図形というよりも数学自体が苦手なのだが。
「平面はね。立体は無理。訳わかんない」
「入試問題って立体結構出るよね」
「そーなの!だからさー、やばいなって思って。頑張らなきゃなー。第一行きたいよー」
「ただいま」
まず洗面所に向かい、手を洗ってうがいをする。それから自室に行き、荷物を置いてクッションにダイブする。空那のルーティーンである。といっても、ここ1ヶ月くらいだが。
「高校ねぇ。高校。・・・高校かぁ」
そう言いながら、リュックを手繰り寄せ、今日貰った高校のパンフレットを取り出す。
「公立、私立、まずはそこから絞るか。・・・まあ公立かな。私立、学費高いし。私みたいな勉強嫌いのやる気ないやつのために何十万何百万って出してもらうのも気が引けるしねぇ」
『〜♪〜〜♪』
「あ、伊藤だ」
そう言って携帯を手に取る。ちなみに、カップルらしくなってもまだなお、お互いに苗字呼びである。
「もしもし?」
『もしもし、津田?今何してた?』
「高校のパンフレット見てた。今日配られたヤツ」
『もう決めてるの?候補とか』
「いや、全く。高校ってなんでこんなにあるのかねぇ」
『ははっ、確かにね。一応、就職するっていう手もあるけど』
「中卒で働き出したいほど興味のある仕事もなければ、別に家がお金に困ってるわけでもないから就職はないな。働くのって大変だろうし?それに、高卒より絶対お給料低くなるだろうし」
『確かにね。義務教育じゃないとはいえね。中学は就職の可能性なんかほとんど視野に入れずに話すしね』
「そうそう。ほぼ義務じゃない?って思ってたとこ。実際、私達の学年は全員進学らしいし」
『え、そうなの?なんで知ってんの』
「数少ない友人の中に学年TOPを争う情報通がいましてですね」
『ああ、
「正解。
『あるある(笑)あの柊さんが言ってるってことはってね。そういえば俺もこの前聞かれた気がする。でもそっかぁ、300人もいて全員進学なんだ。なんかどうしても進学しなきゃいけない気がしてくる(笑)』
「だよね?もういっそのこと義務にしてくれたらいいのに。中学みたいにこの高校へ行けって勝手に決めてくんないかな」
『津田が議員になって制度変えたら?』
「私は結局自分で決めなきゃじゃん(笑)」
『今のところは自分で決めるしかないよ。頑張れ』
「頑張る〜。ありがと」
その後もどーでもいい話を10分ほどして、通話は終了した。
『コンコン』
「空那、ご飯だって」
透也が呼びに来た。
「分かった。すぐ行く」
そう言って、なるべく皺がつかないようにするために制服のスカートからジャージに履き替える。
「あ、伊藤に高校決めたか聞くの忘れてた」
そういえば優花はどこに行くのかな、などとぶつぶつ言いながら階段を降りていった。
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