第12話 試合観戦
試合開始のホイッスルが鳴り響く体育館。その観覧席に、ルールブックを持って座る空那。
「
話は数日前に遡る。
夏休みも中盤に入ってきた頃、いつもの通り自室でごろごろしていた空那。スマホの着信音がなり画面を開くと、同級生らしき人からのメッセージ。
「かえこって誰だっけ」
メッセージにはこんなことが書かれてあった。
『突然なんだけど、空那ちゃん、一緒にバスケの試合見に行かない?
「ああ、新宮さんか」
鈴木理久と新宮
「伊藤の試合ねぇ。そーいえば観たことないや。確かレギュラーメンバーだとか言ってたっけ」
そう。空那は伊藤の試合を観に行ったこともなければ、日程を聞いたことも、誘われたことだってない。だから、「バスケしてるときの伊藤くん、かっこいいよね」と言われても観たことがないから分からない。「そーらしいね」と言うしかない。伊藤がバスケをやっているということさえ忘れかけていたほどだ。
「新宮さんと、か。まあそれはなんとかなるとしても、伊藤の試合興味ないしなぁ。そもそもバスケのルール知らんし・・・。あっ」
空那は何かを思いついた様子で、立ち上がり部屋を出て、兄の部屋の前に立つと
ドンドンドンドンドンドンドンドン!!!!
「お兄ちゃん!お兄ちゃん!お兄ちゃん!ルールブック貸してぇぇぇ!」
怖い怖い怖い。ふざけてるんだろうが、ふざけ方が意味分からんうえにいきなりすぎて怖い。
「え、何?借金取り?」
そう言いながら透也がドアを開けると、
「バスケのルールブック持ってる?」
と何事も無かったかのようにするりと部屋に入った。
「分からんけど、多分あると思う。本棚探してみて」
「うっわ、並べ方下手くそすぎるでしょ」
透也の本棚は、シリーズものがバラバラになっていたり、上下逆になっていたりと、冊数が少ないにも関わらず酷い有様だった。
「いいだろ、べつに。題名が分からないわけでもないし。というか急にどうしたの?バスケのルールブックがどうのって」
急に借金取りかのように襲撃してきた妹に対して、だいぶ冷静な兄である。こういうことは日常茶飯事なのだ。
「いやぁ、バスケの試合観に行こって誘われたんだけどさ。ルール知らんしって思って。で、よく考えたらお兄ちゃんバスケ部じゃん?だから借りようと思って。で、普通に入るのもなって思ってああなった」
「いや、怖すぎるから。ドア壊されるかと思ったわ」
「あ、あったあった。ねえ、なんで3つもあんの?どれが一番分かりやすい?」
「俺がまず買ってきて、それを知らずに父さんも母さんも買ってきて俺にくれたから3つになった。分かりやすいのはこれじゃない?確か父さんが買ってきたやつ」
空那の手からルール―ブックを2つ取ると、
「試合、来週の土日だっけ?それまでに覚える気?」
と笑いながら言う。
「うん、土曜らしい。さすがに覚えられないけど、なんとなくでも知ってたほうが面白いかなと思って。まあ当日も持ってくけどね。とりあえず、これ、お借りします」
そう言って透也の部屋を出ると、自室に戻り、新宮楓のメッセージに返信をした。
あのあと返信があり、10時に現地集合とのことだったのでその通りに体育館に来たは良いのだが、新宮楓が一向に現れず、それどころかチームのなかに鈴木理久の姿も見当たらないというのが今の状況である。
新宮さんの付き添いという形にすれば良いだろうと試合を観に行くことを伊藤に伝えていなかった空那は、伊藤に見つからないようにと一番後ろの席に座り、ルールブックを読んでいるふりをして下を向いているのだが、試合がはじまったにもかかわらずルールブックを読み続けるというのはなかなか失礼な話である。
(新宮さん、どうしたんだろ。全然メッセージ見てくれないし)
これは、空那の心の声である。evaにかかればこんなことは朝飯前だ。まあ、朝飯を食べることはできないが。
まあ、これから分かるように、メッセージへの返信もない。
(新宮さんが言うから差し入れまで買ってきたのに。これで見つかったりしたら最悪なんだけど)
そう思いながらも帰らないのが空那である。せっかく来たしもったいないとか、もうちょっと待ったら来るかもとか思うのだ。
(なんか今目が合った気がするんだけど・・・。もう嫌だぁ。早く来てよぉ)
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