第11話 悩み事

 勉強机に積まれてある終わっていない問題集たちを見て、ため息をつき、頭を悩ませる。といっても、私にはため息をつく口も、悩ませる頭もないのだが。

 いきなりで申し訳ないが、私の悩みをお聞き頂きたい。空那のではなく、私の悩みだ。自己紹介?いやいや、前にもう済ませてあるじゃないか。・・・まあ、名前を覚えるのが苦手な者もいるだろうからもう一度だけ。私はevaだ。

 ではもう一度言うが、今回は、私の悩みをお聞き頂きたい。聞いてくれるだろう?では早速、気が変わらないうちに。



 私の悩みは、まあいくつかあるにはあるのだが、最近特に悩んでいるのが空那の高校受験についてである。

 空那は、前にも話したかとは思うが頭が良いほうだ。良いほうなのだが、性格が全く受験勉強に向いていないのだ。どういうことかというと、計画的に行動することが出来ない。

 最近でいうと、

 7:00 起床

 9:00 勉強

 10:30 ピアノ

 12:00 昼休憩

 14:00 勉強

 15:00 おやつ

 16:00 勉強

 18:00 入浴

 といったように、1日の計画を立てた日のこと。


 空那は7:00に起床し、9:00に勉強を始めた。

 9:30頃、勉強に飽きてきた。9:40にもなる頃には、全く集中出来ていない。それでも10:00までは勉強机に向かう(向かっているだけということもよくあるが)。

 10:00を過ぎた頃、空那はもう家にはいない。気分転換に散歩に出掛けたのだ。でも散歩にもすぐに飽きる。歩くだけというのはあまり好きではないからである(なら散歩に行くなという話だが、そこには触れないでやってほしい)。家に戻ると、もうピアノの練習をする時間がすぐそこに迫っている。

 もちろん守らない。スマホで音楽を聴き始める。基本的にはボカロが好きだが、最近は洋楽にハマっているようだ。

 そんなことをしていると、母親に怒られる。

「受験生なんだから勉強しなさい。宿題ちゃんとやってるの?」

 空那は適当に返事をする。怒られる。渋々自分の部屋に戻り、勉強机に向かう。問題集を開く。問題を読む。目から耳へ問題が抜けていく。読む。抜ける。読む。抜ける。嫌になる。

 嫌になった空那は、母親対策として問題集は閉じずに、目覚まし時計を合わせ、そのまま机に突っ伏す。そのまま寝ることもあるため、夜は寝付きが悪いことが多い。そのせいで朝はさらに起きられず、母親に叩き起こされる。だが、しっかり寝られていないので勉強にも集中できず、前日と同じようなことになる。空那は休日をうまく使えないタイプの人間なのだ。


 それをさらに悪化させているのが、反抗期だ。

 空那は今中学3年生で、去年頃から反抗期が始まった。もともとそんなに重度ではないし、終わりかけというのもあってか母親に逆切れしたりすることはなくなったが、やはり反抗期は反抗期である。母親に勉強しろと言われると、したくなくなる。さらに、母親は空那とは性格が全く違い、しろと言われたくないから言われる前にするというタイプの人間である。計画を立てたらその通りにきっちり動きたくて、トラブルがあればすぐに予定を立て直さなければ嫌だ。そんな性格なので、空那が何故ちゃんとしないのかが理解できないのだ。だから怒る。受験生の頃の母親自身を引き合いに出して怒る。それが空那には耐えられない。空那は人と比べられるのが大嫌いなのだ。テストの際には自分より下の成績の人と比べて安心するくせにである。まあ、そんなこんなでなかなか勉強が進まない。

 空那が趣味を封印し、勉強を中心に生活できた最長期間はテスト前の2週間であり、それ以上は挑戦したためしもない。しかも、その2週間でさえも趣味を封印できていたとは言い難く、受験までの約7カ月など、到底続く気がしない。

 そもそも空那は受験に対してそこまでの危機感を持っておらず、きっと何とかなるだろうという根拠のない自信だけがあるのだ。その根拠のない自信を持ってしっまった原因としては、空那がそこそこ器用であることがあげられる。

 空那は、何に関しても理解が早く、なんでもすぐにこなせてしまう。だから、学校の授業において苦労したことはほとんどなく、テストだって、学校から出される課題をこなすだけで点数が取れてしまった。学校の授業のなかで空那が唯一不得手な美術に関しては、あまりにもひどいので諦めがついてしまっている。よって、うまくなろうなどと頑張り、苦労したことなどない。このような経験たちのせいで空那は『大抵のことはなんとかなるものだ』という考えを身につけてしまったのだ。

 もちろん、母にも父にも兄にも先生にも「受験は甘くないぞ」と散々言われているので頭では分かっているのだ。だが、根本的な考えがそうなってしまっているため、なかなか行動に移すことができない。

 これをなんとかしないと、空那は受験で確実に失敗する。もしくは志望校のレベルを絶対安全圏まで下げるしかない。そうならないためにも母親には頑張ってもらいたいが、空那の反抗期がもう少し収まるのを待つしかなさそうである。



 以上が私の最近の悩みだ。私が悩んでも仕方がないのだが、これをほぼ毎日見ていると悩まずにはいられない。優花に誘われたからって、するべきことも終わっていないのに嬉しそうにカラオケになんか行かないでほしい。せめて帰ってきてからでもいいから問題を解いてほしい。問題集を終わらせてほしい。

 空那と話せたらどんなにいいだろうと、思う今日この頃である。

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