第8話 修学旅行5
修学旅行最終日、自由観光の日がやってきた。班ごとに決めたプランで、タクシーで移動する。空那たちは、奥村と空那の要望により最初に決まった首里城に来ている。そのあとは、いろいろな体験ができる施設に行ったり、鍾乳洞に行く予定だ。
「奥村!顔出しパネルあるよ。やってみたら?」
「そーだね。せっかくだし。
奥村が手招きする。
「え、俺が女のほうなの。まあいいけどさ」
「はい、ちーず」
カシャっという音がして、世奈がカメラを確認する。
「よし、オッケー。じゃ、次私らね。名倉、頼んだ」
「任せとけ。ここ押したらいいんだよな」
「そ。次の人待ってるから、早く撮って」
「はい、ちーず」
またカシャッという音がして、名倉がカメラを確認する。
「オッケーだと思うよ。はい、カメラ」
「ありがと。さて、中に入ろうか」
チケットを買い、列のほうに向かって歩く。すると、急に列がなくなった。ちょうど列に並んでいた同級生に声をかける。
「何があったの?ここ、入口じゃないの?」
「うん。なんかよく分かんないんだけど、ここじゃないみたいで」
周りを見ると、他の観光客もみんな入口を探してうろうろしている。
「うーん、まあ、探すしかないか。行こ、みんな」
仕方がないので、4人で入口を探し始めた。
「観光地に来て入口が分からないとか、こんなことあるんだね」
「こんなに有名な観光地で、観光客全員がってなんか面白いな」
「面白がってる場合じゃないんだけどね」
そんな会話をしていると、別の観光客に声をかけられた。
「入口、あっちにあったみたいですよ」
「あ、ありがとうございます」
お礼を言うと、教えてもらったほうに向かう。
「なんかいいな、こういうの。見知らぬ人同士の助け合いっていうの?」
名倉がそう言うと、空那がほほえんだ。
「そーだね。なんか嬉しいよね」
建物の中に入った。土足禁止なので、ビニール袋を借りる。階段を上がると、陶器などが展示されているフロアだった。奥村と空那はこういうのが好きらしく、2人とも自分のペースでじっくりと見ているが、名倉と世奈はさらっとだけ見てすたすた行ってしまった。まあ、それを見越してあらかじめ出口集合になっているからはぐれたりすることはないが、夢中になった空那は時間を忘れてしまうきらいがある。今回は世奈に釘をさされていたから今はまだ気にできているようだが、はたしてそれが最後まで続くだろうか。
家族旅行の時などは、家族全員がそういう気質なのであまり問題はないのだが、その中でも空那は見終わるのが遅い。文章を読むのが遅いのだ。本はよく読むのに、なかなか速く読めるようにならない。だが、なぜか声に出すと速くなる。ただ、こういう場所で説明を全て声に出して読むわけにもいかない。だからいつも遅くなる。
ああ、もう奥村が見えなくなってしまった。やはりもう時間のことを忘れているようだ。全く時計を見る気配がない。完全に夢中になってしまっている。世奈に迎えに来てもらうことになりそうだ。まだ、何部屋かあるらしい展示室の1部屋しか見ていないのだから。いや、1部屋すらまだ見ていない。去年まではこういうとき、優花が必ずそばにいてくれたので大丈夫だったのだが、今年は残念ながらその優花はいない。先程優花もここを見ていたが、お互い気づいていないようだった。・・・いや、空那は気づいていたかもしれない。少し、寂しそうな顔をしていたようなしていなかったような。まあ、同じクラスになったところで同じ班になれたとはかぎらないのだが。空那は少し優花に依存している
誰かに肩をたたかれ、空那が顔を上げる。
「空那、時間」
「あれ、ほんとだ、8分も過ぎてる。ごめん。ありがと」
世奈だった。戻ってきてくれたのだ。
「別にいいよ。何となく分かってたし。優花にもさっき忠告されたし」
「優花に?」
世奈にうながされ、歩き出す。
「うん、さっき出口のとこで会って何してるのって聞かれたから、空那待ってるって言ったら、空那に1人で見させてたら絶対時間忘れると思うよって言われた。待ってても多分来ないよって」
「そっか。私全然信用されてないね」
空那が笑う。
「実際忘れてたしね」
「すみませんでした。ありがとうございました」
「うむ、許そう。そうだ、奥村ね、時間ぴったりに出口来たんだよ。すごくない?」
「時間配分とか考えるの得意そうだもんね。頭いいし」
「空那も頭は良いはずなんだけどなぁ」
「ごめんって。私計画立てるのとか苦手でさ」
そうこう話していると、出口についた。奥村と名倉にも謝ると、少しお土産を見て、駐車場に戻ると、居眠りをしていた運転手さんを起こし、タクシーに乗り込んんだ。
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