第5話 修学旅行 2

 修学旅行1日目の観光が終わり、ホテルに着いた。窓からは少し向こうに海が見え、景色も良い。だというのにベランダに出てはいけないという指示が出され、中3にもなってベランダから落ちたりなんかしないなどと各々の部屋に戻ってからは文句たらたらだったが、その話題もすぐに終わり、今はもう明日の海についての話題で盛り上がっている。

 友達と旅行ということで気分も高揚しているのだろう。1日中動き回ったのにまだまだ元気がありそうだ。


「世奈さ、スーツケース大きすぎない?何入れてるの」


 結芽乃ゆめのが世奈の青いスーツケースを指さして言う。


「何って別に、服とかお菓子とかカメラとかそのくらいだけど」


「それじゃあ中スカスカじゃない?だってほら、あたしのスーツケースの1.5倍はあるもん。あたしこれでもまだ余裕あるのに」


「それはあれだよ。ほら、もりもっちゃんって収納苦手でしょ?いっつも教室のロッカーギチギチになってるじゃん」


 桃子ももこが7人分のスーツケースを並べながら言う。ちなみにもりもっちゃんとは、世奈の苗字である森本もりもとから桃子がつけたあだ名である。


「それよりもこのスーツケースに全部入ってるってことの方が驚きなんだけど」


 桃子が指さしたのは小さな小豆色のスーツケースだ。世奈のスーツケースの半分ほどしかない。いや、半分も無いかもしれない。


「え、ほんとにそれに全部入ってんの?別のカバンとか持ってきてるんだと思ってたんだけど」


「でも、これ以外には持ち運び用のリュックしかないもん」


 この部屋にいる7人のうちの6人全員の視線がが1人に集中する。意を決したように、結芽乃が口を開いた。


「中、見ていい?」


「いいけど、別に何も面白くないよ?」


 答えたのは、津田空那。日焼け止めを塗ることすらめんどくさい、ズボラ野郎だ。

 こうして、空那のスーツケースの中身の整理整頓講座が始まった。

 ご存知の通り、空那はとんでもないズボラ野郎である。自室も、あまり綺麗とは言えない。だが、なぜか空那は、スーツケースのような入れ物に決められたものを詰めるという作業がすごく得意なのである。

 例えば、学校で大量の荷物を持ち帰らねばならない時。大勢の生徒が4つ5つのカバンを持っているにも関わらず、空那はリュックとトートバッグの2つしか持っていないということがあった。だからといって重いのは変わらないのだが、カバンが4つもあるのは歩きにくいという理由で、空那に詰めてもらっている人もいた。

 空那は、整理整頓は得意なのだ。部屋が汚いのは、面倒くさがって片付けをなかなかしないからである。まあ、そもそも整理整頓が得意になったのもズボラなせいではあるのだが。小学生の頃、学期終わりで大量の荷物があるというのに、前日に準備を面倒くさがってしなかったせいで袋を忘れ、ランドセルと、奇跡的にランドセルに入っていたビニール袋に全て詰めなければいけなくなったのだ。この整理整頓術は、そのときの反省を全く生かせない空那だからこそ身につけられたものなのである。

 それはそうと、さっきから空那が時計をチラチラと見ている。


「ねえ、お風呂って7時からだよね?」


「え、うん。あぁっ!!やばいよみんな!あと5分しかない!」


 慌てて準備を始める。大浴場は1階で、空那たちの部屋は6階。エレベーターを使ってはいけないと言われているので、のんびり歩いていては5分ではつかない。


「やばい、あと3分しかない!」


 そう言いながらも楽しそうに、バタバタと部屋を出ていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る