第4話 修学旅行

「おはよー。莉央りおちゃん、何塗ってるの?」


「日焼け止め。寝坊して塗る時間なかったからさ」


「あ、そーいえば家出るときお母さんに渡されたわ。私も塗ろー」


 とある空港での会話。そう、今日は待ちに待った修学旅行である。行き先は沖縄。だというのに空那は、『日焼け止め?めんどくさいからいい』と言って、朝、呆れた母親に夏の沖縄の紫外線についての説明(説教?)を受けていた。そのせいで日焼け止めを塗る時間が無くなり、母親がこれでもかというほど絶対に塗るようにと念押しして、日焼け止めを空那に持たせたのだ。

 そうだというのに空那は、クラスメイトである高橋たかはし莉央が日焼け止めを塗っているのを見るまで、日焼け止めを持たされたことすら忘れていた。ズボラな娘を持って、空那の母親はどれほど大変なことだろう。


「おはよ、空那」


「あ、おはよ、優ちゃん」


「空那ちゃん、おはよー」


「おはよーさくらちゃん。眠そうだねー」


「うん、めっちゃ眠い。4時間しか寝てない」


「さくは夜型人間だからね。今日も夜中の1時とかに連絡きてたし」


「でも今日は早く寝たほうだって」


「1時半は早く寝たとはいいません」


 桜は、優花と同じクラスの優花の友人である。小学校が同じなので空那も喋れないことはないのだが、桜は少し自己中心的なところがあるので、空那はどうも苦手らしい。

 まあ、空那が桜を苦手とする理由としてはそれだけではなく、3年になってから、優花と桜が親しくするようになったことにより優花と2人で話したりといった時間が少なくなったこともあるだろう。

 空那の人見知りは大したもので、1番仲の良い優花でさえも遊びに誘うということがなかなか出来ない。それに対して桜は、毎週末のように優花を遊びに誘う。もちろん、優花は他の友人たちとも遊ぶ。それにより、ようやく空那が誘っても、優花の予定は埋まってしまっているということが多いのだ。優花が大好きな空那としては、これはストレスが溜まるのに充分な出来事である。

 先週末は、お年玉で貰った1万円を手に本屋と古本屋を巡り、買った約7千円分の小説や漫画(1万円を全て使い切るというのは少し抵抗があったらしい)を2日で読み切るということを成し遂げた。そのせいで少々寝不足ではあるが、ストレスが溜まったときの空那はだいたいこんな感じである。1度ストレスが限界まで溜まったときは本を読むことすら出来なくなったので、そうなる前に多少寝不足になったとしてもストレスを発散してくれた方がいいと、母親公認の夜更かしである。といっても、空那は最低でも7時間は寝ないと起きられないので、遅くても12時には必ず寝る。普段は10時半なので空那にとっては大分遅いが、優花に言わせてみれば「それが普通」だそうだ。


「そーいえば空那、駿しゅんのこと、どうしたん?」


 ついさっき到着した凜佳りんかが、空那に近づきコソコソと喋る。


「ああ、別れようと思ってる。どうせほとんど喋らないし、好きでもないしね」


 駿とは、空那の彼氏であり、空那のストレスの原因その2である。

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