第1話

殺風景なうえに静寂に包まれている一室に私はいた。ここは、世界の管理人たちが活動する拠点である。が、今いるのは私だけ。


窓から景色を見ても癒しを感じれるわけでもない。小鳥の泣く声、木々がなびき、青々と生い茂る花たち。素晴らしい景色だというのに気分が晴れない。


それもそのはず、窓から見る景色はすべて映像である。


青く澄み渡る空を泳ぐ小鳥たち、風になびかされ空に舞う花びらでさえすべてが作り物の映像だからだ。


私はこの空間で何百年、何千年と過ごしている。


何か変わったことが起きてほしいと願う毎日の中、突然部屋の中心にあるポータルに向かって青い光の柱が直撃した。


「おかえり…」


俺はため息交じりだが少しばかりうれしさを隠しきれない迎えの言葉を吐いた。


だってずっと暇だったんだもん。たまには、誰かと話したくなるもんね。


だけど、このように拠点に帰ってくるメンバーは決まっている。戦闘狂の「キウン」だ。


俺は何度も彼女が死にこの場に帰ってくるのを見ている。もう何度死んだのかわからないぐらいだ。


「何回死ねば気が済むんだ?何度もあっちの世界に送り込むのつらいんだけど。しかもグロい姿何度もみさせるなよ。もっとましな死に方してくれよ。」


こいつはいつも無茶してえげつない死に方をする。今回はモンスターに頭をえぐり取られ、頭をモンスターの寝床に飾られていた。前回は口から鉄串で貫かれモンスターたちのバーベキューの食材になり死亡。もう散々な死に方だ。


このように死んで拠点に帰ってくるのは彼女だけ。だからまだ仕事は回ってるのだが…転送という儀式がとても大変な作業であり、それに割く時間が一番無駄なのだ。


拠点から世界に転送するのに必要なマナは、とんでもない量である。俺ぐらいの魔術師でさえも最低で1年、マナの再充填に時間がかかる。なのにこいつは、年々に死亡期間が速くなっている。もうやめてほしい。


「しょうがないじゃない。今回のタスク、かなり高難易度なんだもん。そんなにグロい姿見たくなかったらあんたが代わりに私のタスクこなしてよね。ただ拠点で監視してるだけで飽きたでしょ?暇ならやってよ!」


「そんな無茶な!!俺が持ってるのは、支援系の恩恵だけで戦闘系一切持ってないから絶対無理!!もし連れてくなら俺に戦闘系の祝福を与えてくれよ。」


「あんたに祝福を授けるわけないわよ。あんたはおとなしくここで私たちを眺めてなさい!!」


「さっきと言ってることが違うじゃないか…」


タスクというのは、世界を正確な終着点に導くために必要な歴史の転換期を発生させるトリガーのことだ。

例としては、アーサー王伝説のアーサー王が選別の剣、エクスカリバーを抜けなかった場合、別のだれかが今後引き抜く可能性が出てくる。

そんなことが起きた場合、その世界線で歴史の混乱が起こり特異点が発生する。

そしてアーサー王ではない別の何者かが、強大な恩恵や祝福を手に入れる可能性が出てくる。

やがてその歴史の乱れが世界の発展を遅らせたり速めたりするため、世界の終着点が大きくずれる可能性がある。

特異点を発生させる要因、それは正しい歴史から脱線する要因である。それをタスクと呼んでいる。


次に恩恵というのは、生まれ持った能力のこと。祝福は、アーティファクトや私たちワールドエンダーが恩恵の一部を授けたものことを言う。

アーサー王の話から説明するとエクスカリバーを引き抜いて手に入れた力を祝福と呼び、エクスカリバーを引き抜くために必要だった王の器としての才能は、生まれ持ったものである。これを恩恵と呼ぶ。まぁ説明はこんな感じだ!


「てか。世界の終着まであと少ししか時間ないんだから早くタスク攻略しに行かないと!さっさと転送してよ!」


「はいはい。わかったよ。儀式中に変なことだけはするなよ?失敗したら1年マナの再充填しなきゃいけないんだからな。」


「わかってるってばー。じゃあ転送よろしくねー」


「本当にわかってんだろうな?この作業意外とキツいんだぞ?」


「わかってるって!じゃあ始めよか!」


彼女はにやりと笑った。少し不信感を覚える笑みだ。

この時、俺は彼女の違和感に気付いていたが気に留めることなく儀式の準備をしていた。

どうせ、また1年後、最悪な死に方をして帰ってきて俺を不快にさせるようと企んでるに違いないと考えていた。


今回ばかりは違ったんだ。


「じゃあ始めるぞ…」


俺は詠唱を始めた。


「……summon world portal……」


ポータルが青白く光る。そして彼女を光が包み込む。


「準備完了だ。行くぞキウン。」


「オッケー!いつでもいいわよ!」


「よし。では行くぞ。転送開…始…?」


転送しようとした途端ポータルがおかしな挙動をした。


「にっひっひ。ひっかかったね!今回は私の代わりにタスクをこなしてきな!!タスクをこなすまで帰ってくるのを禁止にするよ!では楽しい旅になることを祈ってバイバイ!」


先ほどまで彼女を包んでいた光は赤くなり、俺の方に向かって飛んでくる。

あっという間に俺の体を包み込んだ。

全てが突然で俺は、何が起きているのかまったく理解できなかった。


徐々に俺自身の体が粒子になり光にのまれていく。焦る俺は、とりあえず叫んだ。


「まってくれ!おい!お前の恩恵じゃどうやっても監視者が務まらないぞ…俺を戻せ!早くここからだ…せ…」


しかし、この声は届かないまま私は、知らない地へと転送させられるのだった。

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世界はやがて終わるので終わらせても良いですか? たんしょー @omikuji2328

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