第45話

 宝貝を見つけてから二時間。

 新たな魔物と戦闘をしていた。


「シュ!」

「うおっ!?」


 俺たちの前にいるのは、5メートルを超える巨大な蝦蛄シャコ

 しかも、一体だけでなく、三体同時に戦闘していた。


【バトル・シュリンプLv:10】……Cランク。弱点:雷属性魔法、打撃。

説明:魔力のあふれる水域に生息する蝦蛄。ダンジョンの魔力の影響により、魔物化した。通常の蝦蛄とは異なり、魔力によって呼吸をしているため、空気を必要としない。硬い甲殻に覆われており、高い防御力を誇る。さらにその二つの前足から繰り出される殴打は、音速を超える。優れた視覚機能を持ち、この魔物から隠れ逃げるのは不可能。また、非常に獰猛な性格で、獲物を見つけると格上だろうと容赦なく襲い掛かる。


 バトル・オルカと同じく、と名の付くだけあって非常に凶暴だ。

 そして説明通り、先ほどからこの蝦蛄たちの繰り出す拳撃に苦戦させられている。


「シュ!」

「きゅいっ!?」


 バトル・シュリンプはノーモーションで拳を放った瞬間、少し離れた位置を泳いでいたドライが、大きく吹き飛ばされた!

 そう、この蝦蛄、多少の距離があっても、その強烈な拳の拳圧だけで俺たちに攻撃できるのだ。

 俺はドライに『ヒール』を発動しつつ、バトル・シュリンプには『スロー』を発動させる。


「シュッ!」


 だが、バトル・シュリンプはそんなもの気にしないと言わんばかりに拳の勢いを緩めず、何度も拳打を繰り出した。


「おいおい、遅くなってコレかよ!?」


 確かに『スロー』を発動する前に比べれば遅くなったが、それでもまだまだ全然早かった。

 幸いなことに、こいつらは防御力と攻撃力こそ高いが、パンチ以外の動きは遅いので、攪乱することは可能である。

 俺はまた別に用意していたオリジナル魔法、『水流槍』を発動させると、バトル・シュリンプに向けて放つ。

 この魔法は、水流を極限まで圧縮し、それをぶつける。

 水流の先端は回転しながら突き進むため、バトル・シュリンプの硬い甲羅であっても貫けるだろう。

 だが……。


「シュッ!」

「マジかよ!?」


 バトル・シュリンプは再度拳を放つと、その拳圧による水流をぶつけ、相殺してきたのだ!

 しかし、俺の攻撃の本命はそこじゃない。


「今だ!」

「――――」

「シュッ!?」


 今まで息を潜めていたネクロとツヴァイのペアが、バトル・シュリンプたちの背後から奇襲をかける。

 バトル・シュリンプの攻撃は強力だが、二回目を放つのには少し時間がかかるのだ。

 その隙をついての攻撃に、バトル・シュリンプは慌てるものの、それを俺も逃さない。


「こっちもいるぞッ!」

「シュッ!?」


 手にした【流水棍棒】をフルスイングし、バトル・シュリンプの顔面を打ち抜いた。

 すると、その先にいたドライが、さっきの仕返しと言わんばかりに顔面をかみ砕く。

 その一撃が決め手となって、ようやく一体のバトル・シュリンプを撃破した。

 ただ、一体倒せたことで一気に形勢が傾き、そのままバトル・オルカたちによる連携に翻弄されると、俺がバトル・シュリンプの首をへし折り、ネクロはバトル・シュリンプの甲殻の隙間に上手く剣を滑り込ませ、そこから断ち切った。

 すべての魔物を殲滅したところで一息つくと、レベルアップの通知が届く。


「レベルも上がったことだし、今回はこれくらいにするかー」


 初の探索だったためか、中々疲れた。

 しかも、その割には探索があまり進んだ感じもしない。


「これ、いつになれば終わるのかねぇ……」


 思わず顔をしかめた俺は、バトル・オルカたちの召喚を解除すると、『リターンホーム』で帰るのだった。


***


 あれから三週間。

 地道に七階層の攻略を続けてきた俺たちは、ようやく七階層のボスと対峙していた。


「オォォオ!」


 全長30メートルは超えるであろう巨体に、十本の長い触腕。

 その一本一本が大型トラックくらいの太さがあり、あんなもので殴られればひとたまりもないだろう。

 コイツの【解析】結果はこれである。


【テイオウイカLv:3】……Bランク。弱点:雷属性魔法、斬撃。

説明:魔力のあふれる水域の深淵部に生息する烏賊。ダンジョンの魔力の影響により、魔物化した。通常の烏賊とは異なり、魔力によって呼吸をしているため、空気を必要としない。非常に強力な腕力と吸盤を持っており、捕まれば逃れるのは非常に困難。また、独特な弾性の皮膚を持ち、打撃に対して強い耐性を持つ。亀系の魔物すら容易く嚙み砕く歯を持っている。泳ぎは得意ではない。優れた擬態能力を持ち、獲物を待ち伏せる。高い再生能力を持つ。


 ――――とんでもない巨体の烏賊だ。

 地球にもダイオウイカがいるが、これと同じサイズは果たして存在してるのだろうか。

 ともかく、コイツがボスであることに間違いないはずだ。

 この三週間は探索する中で当然魔物たちとも戦ってきたわけだが、コイツは完全に初見である。

 ちなみにコイツがいた場所は説明にもある通り、水中の奥底の方だった。

 最初は延々と真っすぐ探索していたが、何も変化がないので、一番何かありそうな下層へと向かうことにしたのだ。

 そしたら擬態していたコイツに襲い掛かられたわけだが……そりゃあもう、めちゃくちゃ怖かった。

 【高性能マップ】で居場所は分かっていたとはいえ、いきなり目の前に現れたのはマジでビビった。

 それはともかく、こうしてボスらしき存在を見つけたのだ。早速倒そう。

 そんな俺の思考を読み取ったのか、テイオウイカは触腕を素早く振るい、襲い掛かって来た!


「散開ッ!」


 俺の指示を受け、バトル・オルカたちはいっせいに散開すると、テイオウイカはそれぞれのバトル・オルカに照準を合わせ、一本一本触腕を使い、攻撃してくる。

 だが、今の俺の戦力はバトル・オルカだけではない。


「チャージフィッシュ! ツヴァイたちの援護をしろ!」


 そう、この三週間で魔物と戦う中、新しい仲間ができたのだ。

 その一つが【チャージフィッシュ】であり、全部で五体、簡易契約を結んである。

 そして――――。


「ケンガ! 俺がテイオウイカに近づくのを手伝ってくれ!」

「シュッ!」


 普通の契約に成功した【バトル・シュリンプ】のケンガである。

 名前の由来は……拳と蝦を合わせただけ。

 ともかく、この頼もしい仲間と一緒に、テイオウイカとの攻略に挑んでいるのだ。

 指示を受けたチャージフィッシュたちは、大きく水中で旋回すると、そのまま勢いをつけ、テイオウイカの触腕に突撃する。


「オォオオ!?」


 その威力はすさまじく、テイオウイカの触腕を貫いた。

 しかし、テイオウイカは再生力が強いらしく、せっかく貫いた部分も徐々に塞がっていく。

 ただ、今の攻撃でチャージフィッシュを明確に敵と認識したことで、意識がそちらに向いた。

 その隙を逃さず、ツヴァイたちやネクロが襲い掛かる。

 俺もアインスの背に乗り、テイオウイカの胴体部分まで向かうと、それに気づき、触腕を伸ばしてきた。


「ケンガ!」

「シュッ!」


 すると、前衛として俺たちの前に立っていたケンガが、パンチを繰り出す。

 まさに目にも止まらぬスピードで繰り出されたパンチは、俺たちに向かって来ていた触腕を弾き飛ばした!


「オォオ!?」

「これは……どうだっ!?」


 ケンガによって、テイオウイカの胴体までたどり着いた俺は、その頭の部分に掌を当てると、『水流槍』を発動させた。


「食らえっ!」

「オオオオオ!?」


 密着した状態からの『水流槍』は、回避できないどころか、最大の威力となり、テイオウイカを貫く。

 だが、生命力が非常に強いため、致命傷であるにもかかわらず、テイオウイカは必死の抵抗を続けた。

 ただ闇雲に触腕を振るっているだけだが、それだけでも非常に脅威であり、少しでも当たればただじゃすまないだろう。

 とはいえ、この場から離れてしまえば、強い再生能力で回復してしまうかもしれない。

 そこで、最後のダメ押しとして、俺はまた別のオリジナル魔法……『水流爆』を発動させるべく、『感覚共有』でツヴァイたちに距離をとるよう指示する。

 これは密着した状態かつ、相手の体内に水流を送り込める状態でなければ発動しないものの、非常に殺傷能力の高い魔法である。

 効果は相手の体内に水流を流し込み、その水流で体内からズタズタに斬り裂くだけでなく、最後は体内の中心に集中させ、一気に外へと膨張させるというものだ。

 その魔法が発動した時点でテイオウイカに勝ち目はなく、最後は俺の目の前で思いっきり弾け飛ぶのだった。


「うおっ!? っと……これ、もう一つの難点は密着して発動させるから、余波をもろに受けることだよなぁ……」


 幸い、俺の近くにはケンガがいるので、その余波の一部をパンチで相殺してくれた。


『レベルが上がりました。【水中の間】の攻略に成功しました』


「よっしゃあ!」


 結構長く続いた七階層の終わりに、俺たちは歓声を上げると、テイオウイカのドロップアイテムを回収して、帰還するのだった。

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