第41話

 第七階層に挑み、そのフロアによって死にかけた俺は、【危機脱出】のスキルで何とか帰還した後、そのまま寝てしまった。

 だが、二時間後くらいに目を覚ました俺は、何とか気力を振り絞り、いったん風呂に入ると、一息つく。

 風呂から上がったところで、ようやく気力がわき始めた。


「……さて。色々考えることがあるし……そろそろ動くか」


 まだ体が何となく気怠いものの、引き伸ばしても仕方ないしな。

 一度庭に出ると、俺はソウガたちを召喚した。


「ギャ……」

「みんな、ごめんな。俺が油断したばかりに……」


 俺はまず、皆にそう謝罪すると、ソウガが皆を代表するように首を振った。


「ギャギャ」

「……本当にごめん」


 皆、気にするなといった表情で俺を見つめてくる。

 彼らと俺の関係は、ただ契約しただけというわけではない。

 俺が死ねば、彼らも死ぬのだ。

 そのことを今一度肝に銘じておかなければいけない。

 俺は重いため息を吐くと、切り替えるように首を振った。


「……よし。これからは本当に気を付けるよ」

「ギャ。ギャギャ!」


 そんな俺の言葉に同意するように、ソウガたちも頷いた。

 それはまるで、ソウガたちもより気を引き締めることを表しているようだった。


「さて、色々とやることはあるんだが……まずはシロたちが倒してくれた、魔物のドロップアイテムを確認するか」

「ウォン!」


 俺は回収していたドロップアイテムを取り出し、一つずつ確認していく。

 すると……。


「……ん? 魔石が一つしかない?」

「ガウ?」


 何度確認しても、ドロップアイテムの中には魔石が一つしかなかった。

 今まで俺は魔石を手に入れると、すぐに契約、または簡易契約をしてきた。

 だからこそ、倉庫の中には魔石の在庫はない。

 そして、そこにシロたちが倒してくれた魔物のドロップアイテムを収納していたので、魔石の数え間違いはあり得なかった。

 つまり、本当に一個しか魔石が手に入らなかったらしい。

 ちなみにその魔石はゴーレムの魔石である。


「どういうことだ? ざっと他のドロップアイテムを確認するだけでも、30体以上倒してそうだが……」


 いつもそれくらい倒せば、運が悪くても五つくらいは手に入っている。

 何故、魔石が少ないのか考えたところで、俺はある推測が浮かんだ。


「まさか……俺の【鬼運】か!」


 元々ステータスには運という項目は存在しない。

 しかし、俺にはオリジンスキルの【鬼運】が存在している。

 今まで【鬼運】の効果を強く実感できたのは、契約するときだけだと勝手に思い込んでいた。

 しかし、実際は少しずつとはいえ、【鬼運】の効果が発動していたのである。

 【鬼運】は確かに大きな場面であればあるほど強い効果を発揮するが、普段から発動しないわけではない。

 それは決して大きな運の働きではないものの、確実に運をもたらしていたのだ。

 そんなスキルを持つ俺が、今まで戦闘に参加して倒していたから、ドロップアイテムの魔石が多かったのだろう。

 つまり、シロたちだけで倒した魔物には、俺の【鬼運】の効果が及ばないのだ。


「ってことは……これが本来のドロップ率なのか? 低すぎるだろ……」


 いや、どこぞのアプリゲーのようなドロップ率と比べれば、全然高いのだろう。

 だが、現実はゲームのように一瞬で敵を倒せるわけでも、高速周回ができるわけでもない。

 労力に比べて、手に入るドロップアイテムの率が低いのは致命的だった。


「他にも、俺には称号の効果で魔物からのアイテムドロップ率が上昇してるし……やっぱりシロたちに任せきりにするのはよくないな」


 改めて俺はそのことを確認することができた。

 そんな中で、魔石以外に気になるアイテムが一つだけ存在した。

 それは……。


【スキルオーブ『脱皮』】……スキルが込められた宝珠。使用すると『脱皮』スキルを習得できる。


 なんと、スキルオーブが一つ入っていたのだ。

 魔石のドロップ率は低かったが、運よくレアドロップアイテムを手に入れられたのだろう。

 ……逆に言うと、そこで運を使い果たした感じかな? とにかく、スキルオーブはこれで二度目の獲得だ。

 ただ……。


「脱皮って……俺が習得してもいいものなのか……?」


 恐らく、リザードマンから手に入れたスキルだと思われる。リザードマンって爬虫類っぽいし。

 しかし、リザードマン自身にはこのスキルがないんだよな。あれか、スキルじゃなくて、特性みたいなもんかね?

 どちらにせよ、このスキルはどう見ても人間に使えるようには思えなかった。


「かといって、このスキルオーブってソウガたちには使えないし……」


 もし使えるのなら、誰かに使ってもよかったが、そういうわけにはいかない。

 ……いや、でも、こうしてスキルになってるってことは、人間に使えるんじゃないか?

 ここであれこれ考えても仕方ないので、俺は【スキルコンシェルジュ】を発動させ、【脱皮】スキルを確認した。


【脱皮】……爬虫類系の魔物からのみ入手可能なスキル。肌を最高の状態に保つことが可能。本来、爬虫類型の魔物が特性として獲得している物が、人型用に変化したスキル。本当に皮膚が剥がれることはない。


「美容系か?」


 まさかの戦闘スキルでも何でもなかった。

 これ、肌に気を遣ってる人にはすごく嬉しいスキルなんじゃないかな?

 ひとまず爬虫類のように、本当に皮膚が剥がれるわけじゃないのが分かっただけでも大きい。

 となると、習得してみるのもアリだろうか。

 もしかしたら、何かしら有用な効果があるかもしれないし……。

 そう決めると、俺は早速【脱皮】スキルを習得した。

 すると、俺の肌が一瞬光ったかと思えば、そこにはつるつるモチモチの肌が。


「す、すげぇ……マジで美容系じゃん……スキルってこんなものまであるんだな……」


 スキルの幅広さに驚くしかない。

 スキルオーブがあったのは収穫だが、それ以外はこの間手に入れたドロップアイテムと何も変わらなかった。

 ここまでドロップアイテムを確認し終えた俺は、昨日の段階で必要だと思ったスキルを習得することに。

 再び【スキルコンシェルジュ】を発動させると、俺の思い描くスキルを確認した。


「どんな環境でも活動できるようにするにはどうしたらいい?」


『習得推奨スキル【炎熱無効】、【氷冷無効】、【清浄】、【重力制御】、【抗体】、【水中適性】、【水中機動】』


 やはり、色々な状況に適応するためのスキルが用意されていた。

 一応、一つ一つ効果を確認していくと……。


【炎熱無効】……炎熱を無効化する。魔法攻撃にも適用される。

【氷冷無効】……氷冷を無効化する。魔法攻撃にも適用される。

【清浄】……常にスキル保有者の周囲の空間を浄化する。

【重力制御】……スキル保有者にかかる重力を制御する。

【抗体】……様々な病原体に対する抗体を瞬時に作り出す。

【水中適性】……水中で呼吸ができるようになり、水圧などの影響を無効化する。

【水中機動】……水中を自在に動き回ることができるようになる。



 どれを見ても、これからダンジョンに挑むうえでは必須ともいえるものだった。

 しかし、無効化スキルはその効果がすさまじいことから、SPはそれぞれ5も必要としており、そのほかのスキルはすべて2も消費しなければいけなかった。

 ただ、獲得すべきスキルはこれだけではない。


「あとは……魔法を詠唱しないで済むようなスキルだ」


 そのまま【スキルコンシェルジュ】を発動させると、新たに別のスキルが提示される。


『習得推奨スキル【無詠唱】、【完全詠唱】』


【無詠唱】……言葉による詠唱を必要とせず、魔法を発動することが可能。

【完全詠唱】……詠唱を中断されることなく、完全に魔法を発動することができる。


 これは水中でパニックになりながら、『リターンホーム』が使えなかったことで、必要を感じたものだ。

 ただこのスキル、習得するにはそれぞれSPを5も消費しなければならない。

 【経験値獲得量増大】のスキルを獲得した今の俺のSPは8なので、あと22……つまり、5回はレベルアップが必要となる。


「……いや、これも運がいい。確かに【経験値獲得量増大】を習得してなかったら、そのまま全部習得できたけど、逆にこのスキルを手に入れてるおかげで、レベルアップも前より早く達成できるんじゃないか?」


 どのみち【経験値獲得量増大】は習得予定だったのだ。そう考えると、この流れは非常にいいだろう。


「よし、次の目標ができたな。ひとまず5回レベルアップすることを目指そう」

「ギャ!」


 俺の言葉に、ソウガたちもやる気満々といった様子だった。

 その姿を微笑ましく見つめていたところで、あることに気づく。


「そうだ……目標を達成して、すべてのスキルを手に入れれば七階層に再挑戦するわけだが……ソウガたちはどうするんだ?」

「ギャ」


 ソウガたちも「あ」といった様子で固まった。

 そうだよな……【スキルコンシェルジュ】でスキルを獲得できるのは俺だけなのだ。つまり、水中にソウガたちを連れていくことはできない。


「い、一応訊くけど、この中で水中で動けるのは……?」

「――――」

「あ、ネクロは動けるのか!?」

「……」

「アッシュも!?」


 恭しく頭を下げるネクロと、主張するように震えるアッシュを見て、俺は目を見開いた。

 そ、そういえばスケルトンとスライムは呼吸もしてないし、水中でも活動できるのか……。

 【岩石の間】でも思ったが、スケルトンの活躍できる場が広すぎる!

 いや、俺の称号とかの効果で、昼間でも活動できるようになってるからそう感じるだけで、本当は夜間でしか使えないはずだ。

 しかし、あの水中はそもそも光すらなかったように思える。

 俺には【夜目】のスキルがあるので、暗闇でも問題なく見えていたが、あそこは完璧に水だけの空間なのだろう。おそらく陸地も呼吸できる場所すらないはずだ。


「そっか……二人が動けるのが分かっただけでも収穫だな……」

「ギャ……」

「そ、そう落ち込むなって! いつもソウガたちに助けられてるからさ。こういう時は適材適所だよ」


 ソウガたちを慰めつつ、俺は再度これからのことを考えた。

 まず、レベルアップは最優先だが、【危機脱出】のスキルが再発動できるようになるまで十日かかる。

 その間はダンジョンなどには近寄らず、大人しくしておくべきだ。何かあってはこまるからな。

 そしてスキルが再発動できるようになったら、ダンジョンに挑んで、レベルアップをしよう。

 それと……新しい武器も必要だな。

 今まではスケルトンを倒して手に入れた骨を、武器として使ってきた。

 でも、その武器が水中で使えるとは限らない。

 そこで【システム】のショップを利用して、水中で戦えそうな武器を探そうと思った。

 DMで探してもいいんだが、そうなると必然的に金策のための素材の入手経路を隠蔽したり、色々面倒くさい。

 それなら少し勿体ないかもしれないが、魔石を換金して、ショップで武器を購入すべきだろう。ショップの武器の方が性能もよさそうだし。

 あとは……水中で焦らないように、水中でも使える魔法を用意すべきだな。

 さらに、アッシュたちの水中での立ち回りも事前に打ち合わせしとくべきだろう。

 何となくの流れが決まったところで、俺はようやくBPを振り分けることに。

 とはいっても、いつも通り均等に振り分けるだけだが……。


名前:神代幸勝

年齢:22

種族:人間Lv:31

職業:召喚勇士Lv:25、トレジャー・マスターLv:15、ネクロ・ロードLv:15、武闘戦士Lv:15、オリジン・スペラーLv:1

MP:360→366(+620)

筋力:171→177

耐久:171→177

敏捷:172→180

器用:170→178

精神:171→177

BP:40→0

SP:58→8

【オリジンスキル】

≪鬼運≫≪不幸感知≫

【ユニークスキル】

≪システム≫≪スキルコンシェルジュ≫≪魔力支配Lv:7≫≪魔法創造≫≪危機脱出Lv:1→2≫≪高性能マップ≫≪時属性魔法Lv:3≫≪経験値獲得量増大≫

【スキル】

≪精神安定≫≪鑑定Lv:7≫≪気配遮断Lv:7≫≪契約≫≪罠解除Lv:5≫≪隠匿Lv:7≫≪夜目≫≪超回復・魔≫≪超回復・体≫≪受けLv:4≫≪魔物図鑑≫≪強制起床≫≪即時戦闘態勢≫≪脱皮≫

【武器】

≪棒術Lv:7≫≪投擲Lv:2≫

【魔法】

≪火属性魔法Lv:3≫≪水属性魔法Lv:3≫≪風属性魔法Lv:5≫≪土属性魔法Lv:3≫≪木属性魔法Lv:3≫≪雷属性魔法Lv:4≫≪神聖魔法Lv:3≫≪空間魔法Lv:5≫≪生活魔法≫≪召喚術≫

【称号】

≪先駆者≫≪未知との遭遇≫≪原初の超越者≫≪原初の魔術師≫≪魔と友誼を結ぶ者≫≪悪意を見抜く者≫≪制圧者≫≪孤高≫≪暴き見る者≫≪ザ・トレジャー≫≪着飾る者≫≪不死者を従える者≫≪ユニーク・ハンター≫≪無名の兵≫≪魔法の創造者≫≪死に挑みし者≫

【装備】

身代わりのペンダント、白狼の外套

【所持G《ゴールド》】

4G

【契約】

ブルーゴブリン×1、レッドゴブリン×1、ゴブリン×6、スケルトン・ソルジャー×1、スケルトン×8、メタルスライム×1、ダーク・バット×1、白狼×1、グラスウルフ×10、ゴーレム×3、キックバード×2、ハイ・リザードマン×1、リザードマン×5


 BPを均等に分けた後の余りは、キリがよくなるから敏捷と、一番低い器用に振り分けておいた。

 ちなみに【経験値獲得量増大】は消費SPが50だったこともあり、ユニークスキルに入っている。

 はぁ……【魔の神髄】とか神髄系が欲しかったが、まだまだ先は長そうだ。

 ――――こうして七階層攻略の準備のため、動き始めるのだった。

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