第40話

「ウォン!」

「あ、お帰り」


 しばらくの間、オリジナル魔法の『風刃』の練習をしながら過ごしていると、シロたちが帰って来た。

 その後ろには、ネクロたちスケルトンが、たくさんのドロップアイテムを抱えている。


「お、おお。ずいぶんと倒したみたいだな?」

「ウォン」


 俺の言葉に、シロたちはどこか誇らしげに胸を張った。


「どうしようかな……ドロップアイテムを確認するなら、安全な家の方がいいけど……」


 【魔法創造】もどんなスキルか分かったので、こちらも色々考えるなら家の方がいいだろう。

 あと確認するべきことと言えば……。


「やっぱり【経験値獲得量増大】の効果だよな」


 レベルが上がっているのを確認した時点で、SPを消費して【経験値獲得量増大】を手に入れていた。

 ちなみに、このスキルを手に入れる前に、シロたちのレベルも上昇しており……。


【シロLv:2→4】

≪霊能力≫≪索敵Lv:1→3≫≪気配遮断Lv:1→3≫≪近接戦闘術Lv:2→4≫


【グラスウルフLv:2→3】

≪連携≫≪索敵Lv:2→3≫≪気配遮断Lv:2→3≫≪探知Lv:2→3≫


 順調に強くなっている。

 ただ、本来ならグラスウルフたちより、シロの方がランク的にもレベルが上がりにくそうだったのだが、やはり簡易契約の弊害か、グラスウルフたちの方がレベルの上りは遅かった。

 それでもレベルが上がってることを考えると、よほどたくさんの魔物を倒したのだろう。

 そんなシロたちと合流し、一緒に行動していたネクロたちだが、終始ドロップアイテムの回収に徹していたためか、レベルの上昇はなかった。

 ただ……。


【ネクロLv:10】

≪剣術Lv:7≫≪盾術Lv:7≫≪頑強≫≪運搬≫


【スケルトンLv:5】

≪採掘≫≪格闘Lv:3≫≪運搬≫


 いつの間にか、【運搬】というスキルを獲得していたのだ。

 ……本当にどんだけドロップアイテムを回収したんだ?

 それはいいとして、この後のことなんだが……。


「そうだな……一度、次の階層を見ておくか」


 【経験値獲得量増大】のスキルを手に入れたから、その効果を確認したい気持ちもあるが、どうせレベル上げするなら効率よくいきたい。

 もし次の階層が、この階層より少し強い程度の魔物なのであれば、次の階層でレベル上げしたほうが早く強くなれるだろう。

 それに、新たなドロップアイテムも手に入るかもしれない。


「もしとんでもなく強い魔物がいても、『リターンホーム』で帰ればいいわけだし……視察しておこうか」

「ギャ!」


 次の階層のレベルがどんなものか、その基準を知るためにも先へ進もうと決めた瞬間だった。


「ん?」


 俺は微かに嫌な予感がした。

 それは、間違いなく【不幸感知】が働いている証拠である。

 しかし、いつものようにハッキリとした嫌な予感ではない。

 この感じも、幾度となく経験してきたものだ。


「これって……いい面もあれば、悪い面もあるときの感覚なんだよな……」


 長年【不幸感知】のスキルと付き合ってきた俺にはよく分かる。

 今スキルが俺に伝えているのは、この先に進むと、いいこともあるが、悪いことも起きるといったことだ。

 ただ、一つ、分からない点が存在する。


「どっちだ……? いい方と悪い方……どっちの比率が大きい……?」


 今までこの手の感覚で損したことはないので、いい面の比率が大きいのだろうけど、今回はダンジョンが絡んでいる。

 もし悪い面の比率が大きいなら、大変な目に遭うわりに、リターンが少ない可能性もあるのだ。

 今までの【不幸感知】のことを信じるのであれば、多少リスクを負っても向かうべきなんだが……。


「そもそも、この悪い面ってのは、レベルアップすれば解消するのか?」


 もし、とんでもなく強い魔物がいるから危険だという意味でこのスキルが発動しているのだとすると、レベルを上げれば解決できることになる。

 しかし、【不幸感知】はそれを否定していた。

 レベルアップの方に意識をシフトしたにも関わらず、まだ嫌な予感が続いているからだ。

 俺がレベルを上げたところで、この感覚はなくならないと……。


「ならなおさら先に行かないと分からないな……」


 正直、リスクが大きいってのはある。

 だが俺は、今までのことを含め、【不幸感知】を信じてきた。

 多少のリスクを負ってでも、先に進む方がいいかもしれない。

 それに、仮に命の危機に陥っても、【危機脱出】のスキルや『リターンホーム』、それに【身代わりペンダント】がある。死ぬことはないだろう。


「……よし。先に進もう」

「ギャ!」


 俺はそう決意すると、そのまま七階層へと転移するのだった。


***


「がぼっ!?」


 七階層に転移した瞬間。

 そこは――――水の中だった。

 今まで陸にいたため、突然水の中に転移させられると思っていなかった俺は、思いっきり水を飲み込むと同時に、パニック状態になる。

 何だ、何が起きている!?

 慌てて手足を動かすも、上下左右、まったく方向が分からない。

 ひとまず上を向いてみるが、まるで水面というものが存在しないかのように、ただただ水の空間が広がっていた。

 いきなりのことでパニックになった俺だったが、【精神安定】のスキルが発動したことで、途端に冷静になる。

 すると、息が全くできない中、ソウガたちの姿が目に入った。


「――――」

「!」


 ソウガたちもこの状況に恐慌状態に陥っており、皆溺れていた。

 俺は慌ててソウガたちの召喚を解除すると、俺も急いでこの空間から出るべく、『リターンホーム』を発動させようとする。

 だが――――。


「ぐぼぁ!?」


 ――――魔法を唱えることができなかった。

 今まで俺は、魔法を口に出して唱えてきた。

 しかし、ここは水の中であり、口を開けば水が体内に侵入してくる。

 【精神安定】スキルで冷静な状態とはいえ、体は溺れており、俺の意識がどんどん遠のいていくのを感じた。

 すると……。


『スキル保有者の生命の危機を感知しました。【危機脱出】が発動します』


 そんなメッセージが出現したのを最後に、俺はその場から一瞬で転移するのだった。


***


「かはっ! ごほっ……おえっ……!」


 一瞬の浮遊感の後、俺はあの水中から、家の中まで転移させられた。

 ようやく空気を得たことで、俺は必死に呼吸を繰り返す。


「がはっ……ごほっ……こ、これが悪い面だってのかよ……!」


 咳き込みながらも、俺は【不幸感知】に向けて思いっきり悪態を吐いた。

 空気を求めて藻掻いた俺は、やがて息が整い始めると、その場に転がる。


「はぁ……はぁ……」


 最初は【不幸感知】がまともに仕事をしなかったのだと本気で思った。

 しかし、だんだん息が整い、頭が冷静になって来ると、重要なことに気づく。


「……完全に油断してたな……もし、あの階層が水の中じゃなくて、毒が充満してるような階層だったら、こうして脱出できても死んでいたかもしれない。それに、魔法の弱点も分かった……」


 俺の未熟さゆえの不幸であり、その対価として、俺は大切な情報を手に入れることができたのだ。

 ……そう頭で頭で分かってはいても、納得いかないのも事実である。

 いや、全面的に俺が悪いんだけどさ……。

 結局、死にかけて手に入れたのは、準備が足りないということだけか……そう思った瞬間だった。


『称号【死に挑みし者】を獲得しました』


「……なるほど、情報とこの称号がいい面ってわけね。ただ、死に挑んだんじゃなく、間抜けに死にかけたってだけなんだけど……」


 俺は気怠い中、手に入れた称号を確認する。


【死に挑みし者】……世界で初めて必死の状態から生還した者。

効果:蘇生薬のレシピを解放。蘇生魔法の解放。


「!?」


 その身体の気怠さが一気に吹き飛んだ。


「蘇生薬!? それに魔法も!? いや、待て、蘇生って……死者を生き返らせられるってのかよ!?」


 元々、どこかゲームっぽい世界になったとは思っていた。

 しかしそれでも、死んだ者は生き返らない。

 それだけが現実として重くのしかかっていたからこそ、冒険者は命を懸ける代わりに、莫大な富や名声を得るのだ。

 だというのに、蘇生魔法なんてものが存在するのであれば、話は大きく変わって来る。

 驚く俺をよそに、突然、俺の目の前に紙切れが一枚出現した。


「こ、これが……蘇生薬のレシピってことか……?」


 その紙には『世界樹の雫、不死鳥の羽、黄泉の桃、竜の心臓』といった、まったく知らない素材や、その分量などが記されており、それを見た後、紙は燃えるように消えていく。

 ただ、そのレシピは俺の脳内にしっかりと記録されたようで、一度しか見ていないにも関わらず、完璧に覚えていた。

 他にも、蘇生魔法というものを意識すると、その効果が脳内に流れてくる。


「……無条件に生き返らせられるってわけじゃないんだな」


 その条件とは、死んで三日以内の者、遺体が存在する者といったものだ。

 遺体に関しても、傷だらけの状態で蘇生すれば、また死んでしまうが、遺体にも回復魔法は通じるようなので、傷を治してから蘇生する必要があるらしい。

 他にも、病で死んだ場合は、蘇生後にその病を治療しなければ結局意味なく、老衰は蘇生できない。

 ちなみに、再使用間隔など存在するのかと思えば、それはなかった。

 ただ……発動には魔法使用者のMPの9割を消費するらしい。

 これが大きいかどうかは人によるだろうが、少なくとも俺には大したデメリットではなかった。

 むしろ、MP9割消費するだけで人を生き返らせられるのだ。

 ただ、この魔法を手に入れるためには、必ず死ぬ状況から生還するという、矛盾した行動を達成しなければならない。

 もしこれが瀕死状態からの生還とかなら、他の人がすでに達成してただろうが……少なくとも、この矛盾を達成するにはユニークスキルである【危機脱出】を使うくらいしか方法がないだろう。

 なんせ状況的にこのスキルがなければ、本当に死んでいたんだから。

 諸々の効果を確認した俺は、どっと疲れが現れる。


「や、ヤバい……このまま寝てしまいそうだ……」


 最後にステータスを確認しようとするも、疲れに抗うことはできず、俺はそのまま眠ってしまうのだった。

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