第35話

 もろもろの確認を終えたあと、その日は五階層で野宿をする際に消費した消耗品類を新たに買い足したり、家の中を掃除したりして過ごした。

 ちなみに白狼を倒した後に出現したメッセージから、五階層を攻略したことが分かった上に、転移魔法陣を見つけていないのに、何故か六階層へ挑戦できるようになっていたのだ。

 まだ確証はないが、五階層には次の階層へ続く転移魔法陣はなく、移動するにはボスを討伐する必要があり、その場でダンジョンの設定を操作することで、次の階層に行けるのだろう。もしかしたら隅々まで探索すれば転移魔法陣はあるのかもしれないが、あの広さを探し回るのは面倒……というより、見つけるのにどんだけ時間がかかるのか分からない。

 でも六階層に挑戦できるようになったんだから、深く考えないことにした。

 それと、ボスに関しても推測でしかないが、その階層の魔物を一定数倒したりすることで、出現するタイプだったりするのかもしれない。

 ここら辺は完全にゲームやラノベなどのサブカルチャー的部分からの推測になるので何とも言えないが、ボスの部屋がない以上、普段からあの階層を徘徊しているか、俺の推測した通り何かしらのトリガーで出現するかの二択だと思う。違ったらその時考えよう。

 そんなこんなで色々と準備を終えた俺は、翌日に新しく解放された六階層を挑戦することにした。

 五階層は『草原の間』って言葉通り、辺り一面草原だったが……一から四階層までは挑む前から階層の名前が分かっていたのに対し、五階層はクリアするまで伏せられていた。六階層も同じで、現段階ではどんな階層なのか分からない。


「さて……行くか」


 新しい景色にワクワクしつつ、俺はソウガたちを召喚し、六階層へ転移した。

 六階層を選択し、そのまま転移が開始すると、俺たちの体を光が包み込む。

 そして光が消えると、俺たちの目の前にはゴツゴツとした、岩山が広がっていた。


「ここは……」


 五階層が『草原の間』という草がたくさん生えていたのに対し、六階層のここは、逆に草木の一本も見当たらない。

 周囲はゴツゴツとした岩壁に覆われ、足元にもたくさんの石や岩が落ちている。

 空は曇っており、全体的に薄暗かった。


「アンネ、行けるか?」

「キィ……」


 日の光が出ていないので、アンネを召喚してみたところ、残念ながらアンネはこの曇り空でも難しそうだった。うーん、アンネは完全に夜か洞窟で一緒に戦うのがよさそうだな。

 ひとまずアンネを帰還させつつ、グラスウルフたちも確認する。


「グラスウルフやシロも大丈夫そうだな」

「ウォン」


 草原とは真逆の環境に、グラスウルフたちは戸惑ったりするかと思えば、特に気にする様子もなく普通にしている。

 ソウガたちも俺と同じで多少歩きづらさはあるだろうが、問題ないだろう。

 それよりも驚いたのは……。


「ネクロたちって、実は対応できる環境が多いのか?」

「――――」


 俺の問いかけにネクロは何とも言えない感じで首を捻っていたが、思わずそう感じてしまった。

 というのも、ネクロやスケルトンたちはその身に肉体がないので、足の裏を怪我したりとか、そう言った心配がない。もちろん骨で歩いてるんだから衝撃はあるだろうが、少なくとも裂傷の心配はないのだ。

 それにアンデッドであるネクロたちに果たして痛覚があるのかも疑問なところで、こうしてみると、ネクロたちは多くの環境に対応できる存在なように思える。何なら毒ガスとかも効かなさそう……息してないだろうし。


「まあいいや。それよりもここの魔晶石は赤色が多いし、所々紫もあるな……」


 五階層までの中で見かけた魔晶石といえば、一番純度の低い青色が基本で、時々赤色が見つかるかなといった様子だった。

 だが、この六階層では、逆に青色の魔晶石は見当たらず、赤色がほとんどで、所々に紫色の魔晶石も確認できる。


「この感じからすると、また一段と危険な場所なのかな」


 このダンジョンは俺しか知らないから、ダンジョンのランクを測る術はないものの、この六階層は五階層より危険なのは間違いなさそうだ。魔晶石の純度が濃いということは、それだけここに漂う魔力や生息する魔物の保有する魔力が濃いのだろう。


「ひとまず紫色の魔晶石を中心に採掘していこう」


 早速昨日手に入れた『感覚共有』でスケルトンやゴブリンたちに採掘の指示を出し、グラスウルフたちには【探知】スキルを用いて周囲に何かないか探してきてもらうことにした。

 その間、俺も採掘に参加してもいいのだが、とあることを思いついた。


「そうだ! せっかくだし、ここで魔法の練習するのもありじゃないか?」


 五階層は草原地帯だし、家は森の中で、さらに一階層から四階層までも空気のことを考えた結果、火属性魔法なんかは全然使っていなかった。

 それに対し、ここは周囲に燃えたりするようなものは見当たらないし、魔法を放っても大丈夫だろう。


「……あ、でも一応、ガスとか充満してたらヤバいよな?」


 特に変な匂いもしないし、体に不調がでたりしてないので、変なガスが出てるってこともなさそうだが、可燃性の何かが充満してても困る。

 果たして空気を【鑑定】できるのか不明だったが、試してみたところ、何と空気を【鑑定】することに成功した。


「……ん。大丈夫そうだな」


 まさか空気を【鑑定】できるとは思ってなかったが、これから新しい場所に行く時は気を付けた方がいいかもしれない。まあ気づかなくても【不幸感知】のスキルで最悪なことにはならないだろうが、用心するに越したことはない。


「よし、それなら早速、魔法の練習でも――――」


 そう考えた瞬間だった。

 突然【高性能マップ】の索敵範囲に、敵性反応が出たのだ。


「お、この階層で初の敵か」


 グラスウルフたちはこの場にいないが、ひとまずスケルトンたちの作業を止めさせ、周囲に集める。

 敵性反応は今のところ一つだが、念のためだ。

 それぞれ武器を構えて待ち構えていると、それは姿を現す。


「これは……」


 現れたのは体長8メートルほどの岩の巨人だった。

 全身が岩で覆われている、というより、岩でできていると考えていいだろう。


『オオオオオ!』


 岩の巨人は俺たちを見つけると、腕を振り上げ、雄たけびを上げる。

 ひとまず俺は【鑑定】を発動させた。


【ゴーレムLv:2】……ランク:C。弱点:魔法攻撃。耐性:打撃、斬撃。

説明:周囲の魔力が固まり、その土地の大地が疑似的な命を得た存在。土地の大地から体が作られているため、土地ごとにその体を構成する物質が異なる。基本的に魔法攻撃に対して弱いが、体を構成する物質によっては、効かない属性も存在する。基本的に打撃と斬撃に耐性があるが、体を構成する物質によって異なる。力が強く、疲れを知らぬ存在だが、鈍重。熟練の魔法使いや錬金術師はゴーレムを召喚したり、造り出したりすることが可能。


「ゴーレム……!」


 これまたゲームなどでお馴染みの存在だ。

 しかも、説明を見る限り魔法で生み出したり造ったりもできるらしい。

 それよりも、土地ごとに性質が変わるのも厄介だし、疲れないなんて恐ろしいにもほどがある。幸い動きは遅いみたいだが……。

 様子見というわけじゃないが、今回新しく仲間になったシロは、目の前のゴーレムと同じくCランクの魔物だし、何より動きが速いので、最初にシロに攻撃するよう『感覚共有』で指示を出した。

 すると、シロは俺の指示を受けてすぐに駆け出す。


「グルル……」


 やはりその動きはとても俊敏で、現状俺たちの中だと最速だろう。

 そんなシロを迎え撃つようにゴーレムは腕を振り上げ、一気に叩き潰すように振り下ろした。

 だが、その攻撃をまるで予知していたかのようにシロは軽やかに跳びあがると、振り下ろしたゴーレムの腕に着地し、加速する。

 そして、そのままゴーレムの首元まで到達すると、その鋭い爪を振るった。

 その瞬間、ゴーレムの首は容易く切り飛ばされると、地面に転がる。


「え!?」


 首を失ったゴーレムはそのまま体の制御を失い、光の粒子となって消えてしまった。

 一瞬にしてゴーレムを片付けたシロは、何事もなかったかのように戻ってくると、顔を摺り寄せてくる。


「は、ははは……お前、やっぱり強いんだな……」


 相性も良かったんだろうが、まさか一撃で倒すとは思わなかった。

 というより、説明には斬撃に耐性があるって表示されていたのだが、シロの爪は岩くらいなら簡単に切り裂けるということだろう。あとは同じCランクでも、シロは特殊個体ってのも関係しているのかな。

 ……なるほど。たとえ相手に耐性があったとしても、それを超える技量さえあれば関係ないんだな。

 まさかのシロの初戦闘シーンで、そのことを強く実感した俺は、現状唯一の武器スキルである【棒術】を鍛えようと思うのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る