第34話

 五階層から無事に帰還した俺は、そのまま風呂に入るとその日はすぐに布団で寝てしまった。

 本当ならドロップアイテムの確認とか、したいことはいくつかあったのだが、それ以上に疲れていたのである。

 そんなこんなで翌日。

 すっきりとした気持ちで朝起きると、朝食やらを用意し、ソウガたちと食べ終え、ようやく確認したい作業に移ることができた。


「そうだな。先にドロップアイテムから見ていくか」


 五階層に挑戦中はグラスウルフから手に入るドロップアイテムは一切確認せず、ただ回収するだけにとどめていたのだ。

 それに合わせて白狼のドロップアイテムもあるので、期待が大きい。

 そしてこれが、今回俺の入手したドロップアイテムだった。


【魔石(グラスウルフ)】……ランクDの魔石。魔力の結晶。この魔石にはグラスウルフの情報が刻まれている。

【魔石(白狼)】……ランクCの魔石。魔力の結晶。この魔石には白狼の情報が刻まれている。

【草狼の牙】……グラスウルフの牙。非常に鋭利であり、先端は返しがついている。

【草狼の爪】……グラスウルフの爪。非常に鋭利であり、表面に小さな突起がある。

【草狼の毛皮】……グラスウルフの毛皮。水を弾き、臭いを消す性質を持つ。

【白狼の大牙】……白狼の大牙。非常に鋭利で丈夫。

【白狼の大爪】……白狼の大爪。非常に鋭利で丈夫。

【白狼の外套】……C級防具。白狼の毛皮の外套。白狼の霊能力が宿っており、装備者への遠距離攻撃を一定確率で防ぎ、敏捷力を上昇させる。


「え、魔物も装備品落とすのか!?」


 俺はドロップアイテムの中にある、白狼の外套を手にしながらそう口にした。

 てっきり装備品類はダンジョン内の宝箱か何らかの方法で素材を加工する以外、手に入れる方法がないとおもっていたからだ。

 正直他のドロップアイテムは素材ばかりで使い道がないのだが、この外套は違う。

 見た目は非常に高級感のある白色のマント? っぽい見た目で、首元に白狼のサラサラフワフワな毛皮のファーが付けられている。

 効果を読む限り、とても魅力的なのだが……。


「これ、夏場暑くねぇか? それにちょっと中二病っぽいというか……」


 ファー付きの上着なんて冬場になればいくらでも着るが、この外套に関しては見た目が洗練されつつカッコいいからこそ、着たら中二病感が出そうで……。


「……まあ【成長する迷宮】を挑戦するのは俺だけなんだし、いいか」


 誰かに見られるわけでもないんだ。それなら性能重視で装備しよう。

 それにしても、今回はスキルオーブもなければ職業ボードもなかったし……そこは残念だな。

 軽く外套を着てみたりしつつ確認を終えた俺は、今度は魔石との契約に移る。


「うーん……グラスウルフは100体以上は倒したはずなんだけどなぁ……」


 かなりの群れを相手にし、すごい数のドロップアイテムを手に入れた俺だが、魔石自体は10個ほどしか手元にない。だいたい10体倒して1個出るか出ないかって感じか。【鬼運】を持つ身としては、これが果たして運がいいのか悪いのかは何とも言えないな。


「白狼は普通に契約したいところだが、グラスウルフはどうするかな……」


 今までの流れから考えると、白狼に関しては【鬼運】が働いて契約は成功するだろう。なんてったって白狼は特殊個体だ。それに対してグラスウルフは通常の魔物で【鬼運】が働かない。本当に扱いづらいスキルだな。

 まだ【経験値獲得量増大】スキルも獲得するのは先だし、できれば普通の契約をしてしまいたいが……。


「……仕方ない。白狼とは普通に契約して、グラスウルフは簡易契約にするか」


 召喚勇士のレベルが上がったりすると、もしかしたら簡易契約から本契約に移行する何かが技能として手に入るかもしれないし、そのためにも仲間として増やすことを先に考えよう。それに簡易契約でも俺のMPは増えるからな。

 そうと決まれば早速契約に移りたいところだが、さすがに家の中で契約するのはサイズ的に無理なので、外に移動する。

 最初にグラスウルフの魔石を使い、サクッと簡易契約をした。

 簡易契約を終えると、俺たちの目の前にはあのグラスウルフの群れが現れる。いきなり10体もの戦力増強だ。これはありがたいぞ。

 そして、最後に白狼の魔石に対し、少し緊張しながらも契約を発動させる。

 するとやはり特殊個体は失敗しないのか、成功した。


「――――ガウ」


 光が収まると、あの巨大な一匹の白狼が、俺たちをじっと見つめている。

 ただし、戦った時とは違うのは、目の前の白狼はとても穏やかな目をしており、尻尾が小刻みに揺れていた。

 かなり大きいので少しビビりながらも、俺は白狼に近づくと、首元を撫でる。

 手に伝わる感触は少しひんやりとしつつ、それでいてサラサラかつフワフワで、外套を触った時にも思ったが、肌触りが良すぎた。

 思わず感動しながら撫でていると、白狼は気持ちよさそうに目を細めつつ、俺の手に顔をこすりつける。……ヤバい。ただの大きな犬に見えてきた。


「っと、そうだ。お前には名前を付けないとな」


 白狼は普通に契約したので、名前を付けることができるわけだが……さて、どうするか。

 いつも通り色と見た目でつけてもいいが、犬っぽいからなぁ。


「……よし。お前はシロ……シロでどうだ?」

「ウォン!」


 安直かつどこか犬っぽい名前にしてしまったが、白狼――改め、シロは特に気にしていないようで、それどころか名前をもらえたこと自体が嬉しいらしく、尻尾が千切れるんじゃないかと思ってしまうほど激しく振れていた。

 じゃれついてくるシロを撫でていると、グラスウルフの群れも同じように近づいてきて、俺はもみくちゃにされる。


「うわっ!? ちょっ……く、くすぐったい……」


 俺は特別犬や猫が好きってわけでもなかったが、こうも懐かれると嬉しいな。

 ソウガたちもグラスウルフたちと触れ合いつつ、親睦を深めている。

 ひとまず全員仲良くやっていけそうだと思った俺は、グラスウルフとシロを【鑑定】した。


【グラスウルフLv:1】

≪連携≫≪索敵Lv:1≫≪気配遮断Lv:1≫≪探知Lv:1≫


【シロ(白狼)Lv:1】

≪霊能力≫≪索敵Lv:1≫≪気配遮断Lv:1≫≪近接戦闘術Lv:1≫


「なるほど……主に索敵とか斥候系の能力が高いんだな……」


 グラスウルフもシロも、どちらも敵を見つけたり、逆に身を隠したりするのが得意なようで、これからダンジョン探索の時は非常に助かりそうだ。一つ不明なのは【探知】スキルだが……もしかしたらダンジョン内で何かを見つけてくれるのかもな。

 シロに関してはあの未来予知みたいな能力も気になるが、近接戦闘術なんてスキルを持ってるんだな……色々戦う様子を見るのが楽しみだ。

 無事にシロたちとの契約や確認を終えた俺は、今度は俺のステータスの確認に移る。

 とはいっても、BPの割り振りなんかも何に振り分けるか決まってるので、サクッと終えた。

 その結果が以下の通りである。


名前:神代幸勝

年齢:22

種族:人間Lv:25→26

職業:召喚勇士Lv:19→20、トレジャー・マスターLv:11→12、ネクロ・ロードLv:11→12、武闘戦士Lv:11→12

MP:255→280(+120→270)

筋力:143→150

耐久:143→150

敏捷:144→151

器用:142→149

精神:138→145

BP:20→0

SP:28→33

【オリジンスキル】

≪鬼運≫≪不幸感知≫

【ユニークスキル】

≪システム≫≪スキルコンシェルジュ≫≪魔力支配Lv:5→6≫≪魔法創造≫≪危機脱出Lv:1≫≪高性能マップ≫≪時属性魔法Lv:2→3≫

【スキル】

≪精神安定≫≪鑑定Lv:6→7≫≪気配遮断Lv:6→7≫≪契約≫≪罠解除Lv:5≫≪隠匿Lv:6→7≫≪夜目≫≪超回復・魔≫≪超回復・体≫≪受けLv:3→4≫≪魔物図鑑≫≪強制起床≫≪即時戦闘態勢≫

【武器】

≪棒術Lv:6→7≫≪投擲Lv:2≫

【魔法】

≪火属性魔法Lv:2≫≪水属性魔法Lv:3≫≪風属性魔法Lv:3→4≫≪土属性魔法Lv:3≫≪木属性魔法Lv:3≫≪雷属性魔法Lv:3→4≫≪神聖魔法Lv:3≫≪空間魔法Lv:4→5≫≪生活魔法≫≪召喚術≫

【称号】

≪先駆者≫≪未知との遭遇≫≪原初の超越者≫≪原初の魔術師≫≪魔と友誼を結ぶ者≫≪悪意を見抜く者≫≪制圧者≫≪孤高≫≪暴き見る者≫≪ザ・トレジャー≫≪着飾る者≫≪不死者を従える者≫≪ユニーク・ハンター≫≪無名の兵≫

【装備】

身代わりのペンダント、白狼の外套

【所持G《ゴールド》】

4G

【契約】

ブルーゴブリン×1、レッドゴブリン×1、ゴブリン×6、スケルトン・ソルジャー×1、スケルトン×8、メタルスライム×1、ダーク・バット×1、白狼×1、グラスウルフ×10


【ソウガLv:10→11】

≪棒術Lv:7≫≪受けLv:7≫≪模倣≫≪軽業≫


【コウガLv:10→11】

≪棒術Lv:7≫≪二刀流≫≪怪力≫


【ゴブリンLv:5→6】

≪棒術Lv:5→6≫


【ネクロLv:8→9】

≪剣術Lv:6→7≫≪盾術Lv:6→7≫≪頑強≫


【アッシュLv:6→7】

≪液状化≫≪金属化≫≪溶解≫≪形状記憶≫


【スケルトンLv:3→4】

≪採掘≫≪格闘Lv:2→3≫


【ゴブリンLv:3→4】

≪棒術Lv:3→4≫≪採掘≫


 決めていた通り、BPは10ほどMPに使用すると、残りは他の項目に2ずつ振り分けた。ちなみにシロたちと契約したことで増えたMPだが、どうやらランクCの魔物は契約すると50もMPが増えるみたいだ。

 それと、最後の方でソウガの見せたネクロの盾を使ったアクロバティックな動きは、【軽業】ってスキルになって習得されている。

 そんな感じで色々確認したのだが、一番の目玉はレベルアップしたスキルだろう。

 今回の戦闘で多用した雷属性と風属性はスキルレベルの上昇により、新しい魔法……『ウィンド・ストーム』と『サンダー・ストーム』を覚えたのだが、この二つはいわゆる広範囲に影響の出る魔法らしく、かなり期待が持てる。

 でもそれ以上に嬉しかったのは、時属性魔法と空間魔法のスキルレベルの上昇だ。

 なんと、時属性魔法はレベルアップしたことで『ストップ』という魔法を、空間魔法はレベルアップしたことで『ワープ』を習得したのだ!

 まず『ストップ』という魔法は、その名の通り、対象の動きを一時的に止めてしまう魔法である。

 『スロー』とは違い、完全にその動きを止められるのだ。まあ時間は本当に一瞬だけみたいだが、それでも強いことに変わりはない。

 それと相手の精神力が強ければ、レジストされることもあるみたいだ。……やっぱりステータスの精神って、魔法の効力や抵抗力を現してるんだな。

 そして空間魔法の『ワープ』は、これは俺が求めていたと言っても過言じゃない、いわゆる長距離間の転移だ。

 もちろんいくつか制約が存在する。

 例えば俺が一度訪れたことのある場所にしか転移できないとか、転移できる人数は俺一人だけとか、そんな感じだ。

 最初の制約に関しては一度行ったことのある場所に転移できるだけでも嬉しいし、俺一人しか転移できないのもソウガたちを俺の中に帰還させれば解決できるので何の問題もなかった。別に誰かと行動する予定も今のところないしな。

 ただ一つだけネックなのが、転移したい距離が遠ければ遠いほど、消費する魔力が大きいようだ。幸い俺は称号やスキルで多少消費魔力量が少なくなるようになってはいるが、それでも何度も何度も使えるような魔法じゃないだろう。レベルが上がったり、仲間を増やせば別だけどさ。

 もろもろの確認を終え、一息つこうとすると、また別のメッセージが出現した。


『【召喚勇士】のレベルが20になったため、【感覚共有】が解放されました』


「お、また新しい技能か」


 まだ確定したわけじゃないが、召喚勇士に関してはレベル10以降は5ずつレベルが上昇するごとに技能が解放されている。

 それに対して他の職業はまだ技能が解放されていないんだが……いつか解放されるのかね?

 ひとまず解放された【感覚共有】を確認したところ、今回仲間にしたグラスウルフたちと非常に相性がいいことが分かった。

 というのも、この感覚共有を使うと、俺が契約、または簡易契約している魔物が見ている景色を俺も見ることができるようなのだ。

 その名の通り、魔物と感覚を共有するのである。

 なので、魔物を索敵させ、それを俺は安全な場所から視界だけ共有しつつ、情報を得ることができるというわけだ。これはいいな。

 触覚や痛覚も共有できるようだが、今のところそれらを共有するつもりはない。何に使うのか不明だし。

 逆に俺の見ている景色を契約している魔物たちに見せることも可能で、言葉による意思疎通こそできないが、俺の考えていることを一瞬で共有することも可能らしい。これが一番でかいかも。

 今まで直接口から指示を出していたが、これがあれば俺の考えがしっかりと伝わるわけだし、皆からも言葉じゃなく考えが伝わるから、今まで以上に連携がしっかりできそうだ。

 五階層では初の野宿や攻略まで時間がかかったものの、収穫は非常に大きく、俺はとても満足したのだった。

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