第33話
「……夜の襲撃はなかったなぁ」
翌朝。
テントの中で目覚めた俺は、朝日で辛そうにしているアンネを帰還させつつ、朝食を作りながらそう呟いた。
まだ一日目なので確証はないが、襲撃もなければ夜間限定で出現する魔物もいないのかもしれない。
「まあこれだけ広いんだし、単純に俺が見つからなかった可能性は高いけど、食事とかしてるから匂いは漂ってたと思うんだよな」
街灯なんて一切存在しない草原の夜は、星空が驚くほどよく見え、そんな中で食事やランタンを使用していたので、目立つことこの上ない。
だが実際は何事もなくこうして朝を迎えられたので他の魔物も寝ていたのかもしれないな。
朝食を軽く済ませた俺は体をほぐすと生活魔法の『クリーン』で体を綺麗にする。
「すごいな。風呂に入らなくても綺麗になるとか……しかもこれ、口内も綺麗にしてくれるから歯磨きも必要ないし」
ただし、磨いてる感というか、洗った感はあまりなく、お風呂や歯磨きほどサッパリした気分にはならないので、やはりちゃんとお風呂に入りたい。
歯磨きに関しては、自分で歯を磨いた後に『クリーン』の魔法を使えば虫歯なんかになる心配もないだろう。
……あれ、そういえば、虫歯って『ヒール』で治せるんだろうか。もし治せるんなら、歯を削る必要がないからすごく嬉しいが……。
そんなどうでもいいことに気をとられつつ、準備を終えた俺はソウガたちに声をかける。
「よし、それじゃあ今日も探索を続けるぞ」
「ギャ!」
テント類はささっと【倉庫】に収納し、歩き始めた俺は、この階層について考える。
「……今日も次の階に続く部屋だか階段が見つけられなかったら、また野宿するかねぇ」
というのも、最初の位置からまっすぐに進んでいるのだが、一向に草原の終わりが見えないのだ。
なので、もし今日中に次の階層へ続く何かを見つけられなければ、この空間の進行度を考えた結果、野宿することになる。
なんせ俺の魔法ではまだ自分が一度訪れた場所まで転移したりする魔法を習得していないので、この場で帰還してしまうと、またこの五階層に来た際、最初の位置からスタートになってしまうのだ。それは辛い。
「さて……どうなることやら……」
俺は若干の不安を抱えながらも、ソウガたちと一緒に五階層を進んでいくのだった。
***
――――五階層の探索を初めて三日が経過した。
「グルアアアア!」
「――――『アクセル』!」
俺は時属性魔法の『アクセル』を発動させると、襲い掛かってきたグラスウルフの動きや周囲の時間が急に遅くなり、そんなスローモーションな世界の中で、俺は素早く動くことができた。これは俺の動きが速くなったことで、周囲の動きが遅く見えるのだろう。
そして、俺はグラスウルフの攻撃を避けつつ、手にしていた骸骨兵の骨をグラスウルフの首に叩きつける。
すると『アクセル』の勢いを利用したその一撃は、簡単にグラスウルフの首をへし折った。
「ギャギャ!」
「ギ」
ソウガとコウガも、それぞれ一体ずつのグラスウルフを相手にしつつ、最初のころに比べてスムーズに倒せるようになっていた。
それはアッシュやネクロも同じで、リョーガを含むゴブリンとスケルトンは多少苦戦しているようだったが【格闘】スキルの恩恵などで俺たちの手助けがなくとも、倒せるようになっていた。
グラスウルフの群れを倒しきり、ドロップアイテムを回収すると、メッセージが出現する。
『レベルが上がりました』
「うーん……初の野宿から三度目のレベルアップか……」
結局、初めて野宿をした日から三日も経過してしまい、この階層で野宿をするのにも慣れてきていた。
相変わらずこの階層の果ては見えないし、何ならボスも分からない。
グラスウルフの群れは今のを含めて五回ほど遭遇していたが、さすがに戦闘するたびに毎回レベルがあがるようなことはなくなっていた。
ひとまずスキルを習得することもないので、ささっとステータスを決定させる。
名前:神代幸勝
年齢:22
種族:人間Lv:22→25
職業:召喚勇士Lv:16→19、トレジャー・マスターLv:8→11、ネクロ・ロードLv:8→11、武闘戦士Lv:8→11
MP:200→255(+120)
筋力:118→143
耐久:118→143
敏捷:119→144
器用:117→142
精神:113→138
BP:60→0
SP:13→28
【オリジンスキル】
≪鬼運≫≪不幸感知≫
【ユニークスキル】
≪システム≫≪スキルコンシェルジュ≫≪魔力支配Lv:5≫≪魔法創造≫≪危機脱出Lv:1≫≪高性能マップ≫≪時属性魔法Lv:2≫
【スキル】
≪精神安定≫≪鑑定Lv:6≫≪気配遮断Lv:6≫≪契約≫≪罠解除Lv:5≫≪隠匿Lv:6≫≪夜目≫≪超回復・魔≫≪超回復・体≫≪受けLv:3≫≪魔物図鑑≫≪強制起床≫≪即時戦闘態勢≫
【武器】
≪棒術Lv:6≫≪投擲Lv:2≫
【魔法】
≪火属性魔法Lv:2≫≪水属性魔法Lv:3≫≪風属性魔法Lv:3≫≪土属性魔法Lv:3≫≪木属性魔法Lv:3≫≪雷属性魔法Lv:3≫≪神聖魔法Lv:3≫≪空間魔法Lv:4≫≪生活魔法≫≪召喚術≫
【称号】
≪先駆者≫≪未知との遭遇≫≪原初の超越者≫≪原初の魔術師≫≪魔と友誼を結ぶ者≫≪悪意を見抜く者≫≪制圧者≫≪孤高≫≪暴き見る者≫≪ザ・トレジャー≫≪着飾る者≫≪不死者を従える者≫≪ユニーク・ハンター≫≪無名の兵≫
【装備】
身代わりのペンダント
【所持G《ゴールド》】
4G
【契約】
ブルーゴブリン×1、レッドゴブリン×1、ゴブリン×6、スケルトン・ソルジャー×1、スケルトン×8、メタルスライム×1、ダーク・バット×1
【ソウガLv:7→10】
≪棒術Lv:7≫≪受けLv:7≫≪模倣≫
【コウガLv:7→10】
≪棒術Lv:6→7≫≪二刀流≫≪怪力≫
【ゴブリンLv:4→5】
≪棒術Lv:4→5≫
【ネクロLv:5→8】
≪剣術Lv:4→6≫≪盾術Lv:4→6≫≪頑強≫
【アッシュLv:3→6】
≪液状化≫≪金属化≫≪溶解≫≪形状記憶≫
【スケルトンLv:2→3】
≪採掘≫≪格闘Lv:1→2≫
【ゴブリンLv:2→3】
≪棒術Lv:2→3≫≪採掘≫
BPに関してはもう特に考えず、レベルが上がるたびに二項目ずつ10BPを割り振るようにしていたので、MP以外はあまり差がない。このステータスの伸ばし方が果たして正しいのか俺には分からないが。
「それよりも、スキルの伸びが悪くなってきたなぁ」
結構、魔法や骨を使った戦闘をしているのだが、スキルレベルが全然上がらない。
特に時属性魔法はかなり多用しているのだが、全くレベルが上がる気配がないのだ。
「まあこの階層でのレベル上げも潮時ってことかね」
ひとまずそう納得させ、先に進もうとした――――その時だった。
「――――ウォオオオオオオオオオン!」
「!?」
突如、空気が激しく振動するような、そんな遠吠えが響き渡る。
その遠吠えはグラスウルフの物とは明らかに異なり、もっと強い気配が感じられた。
「これって……」
その遠吠えに呆然としていると、【高性能マップ】が高速で接近する何かを捉える。
そして――――。
「グルアアアアアア!」
「くっ!?」
勢いを殺すことなく襲い掛かってきた謎の存在に対し、俺たちは何とか避けることに成功した。
襲撃が失敗した謎の存在は、そんな俺たちを警戒するようにゆっくりと歩き始めたため、俺たちもその存在をじっくりと観察することができた。
俺たちに襲い掛かったその生物は、グラスウルフと同じく狼だったが、その大きさはグラスウルフ以上で、明らかに俺よりも大きい。
体毛は光を反射するような艶やかな白色で、瞳は青く、口元から覗く牙は、俺の拳より大きい。あんなもので貫かれたら即死じゃね……?
この階層にきてから初めて見る魔物に、俺は即座に【鑑定】を発動させた。
【
説明:草原に生息する狼型の魔物グラスウルフが進化した存在。通常、グラスウルフは進化するとステップウルフ、またはフォレストウルフへと進化する中、特異な進化を遂げた存在。群れで活動するグラスウルフの中で単独行動を好み、単独で狩りを続け、そのまま進化を遂げた。そのため、単独で生存し続けたその実力はグラスウルフの群れを優に蹴散らせるほど。その生存過程から、一種の悟りの境地にまで達し、霊能力を操ると言われる。
「ランクC!?」
ここに来てまさかのランク上昇! しかもレベルが5はかなり高いんじゃないだろうか?
他にも特殊個体だとか、弱点が特にないだとか、色々気になる点が多すぎる!
最後の霊能力にいたっては何のことだかすら分からない。魔法とは違うんだろうか?
全員が武器を構えて白狼を見据えると、白狼もこちらをじっと見つめながら、隙を窺っていた。
すると、アッシュが溶解液を噴出する!
「――――!」
「ッ!」
すると、白狼はまるでその攻撃が来ることが分かっていたかのように、その場から飛び退き、着地と同時にこちらへ駆け出した!
「ソウガ! コウガ!」
「ギャ!」
「ギ」
二体同時に白狼の動きを止めるため、それぞれが棍棒を振りかぶり、白狼へと振り下ろすも、再び白狼はその動きをあらかじめ察知していたかのように、特にソウガたちに目を向けることもなく避けてしまった。
「何だ?」
「グルアアアアア!」
白狼の不自然な動きについ怪訝な表情を浮かべていると、白狼の狙いは俺だったようで、まっすぐに俺だけ狙って襲い掛かる。
だが、俺と白狼の間にネクロがぬるっと入り込むと、白狼の攻撃を手にした盾で受け止めた。
「――――」
「ギャ!」
「ギ」
白狼の攻撃をネクロが受け止めた隙を見逃さず、ソウガとコウガが背後から攻撃を仕掛けるも、これもまた白狼はその攻撃が見えているかのように避けてしまった。
「アイツ……こっちの動きが予知できるのか!?」
どう見てもそうとしか思えない動きに、俺は目を見開く。
「動きを予知する相手って……どう倒せばいいんだよ」
考えてもこちらの攻撃を避けられる未来しか見えないが、先ほどネクロが唯一白狼の攻撃を受け止めていたことから、完全に触れられないってことはなさそうだ。
予知にも限界があるかもしれないし、勝機はあるはず。
もし予知に限界がないのなら、俺を囮に襲わせて、それを受け止めたりカウンターで攻撃したりする必要があるだろう。……これは最終手段だな。いくら死を回避できる手段があるとはいえ、怖いのには変わらないし。
ひとまず正攻法で戦うにしても、アイツの動きが速すぎる。
なら……!
「『スロー』!」
「グルル……!」
白狼は俺の『スロー』を予知していたようにその場から避けてしまう。
しかし、その先にはソウガとコウガが待ち受けていた。
「ギャ!」
「ギ」
「ガア!」
そんな二体に対し、白狼は初めて爪を使い、二体の攻撃に迎撃する。
「なるほど。直前の動きは予知できても、その先は分からないのか」
つまり、何かの攻撃を囮に避けさせ、その先にソウガや俺たちが待機することで、倒せるかも。
そうと分かれば、早速動こう。
ネクロとリョーガたちには今戦っているソウガたちの加勢を頼み、アッシュには隙を見て、溶解液を噴出するように頼んだ。これで白狼はアッシュの溶解液を避けることを優先することになるだろう。ソウガたちの攻撃ももちろん食らえば大変なことになるが、溶解液は機動力を削げる可能性も高いからな。
そんなソウガたちとは別に、俺もとある準備をしつつ、魔法の速度が速い雷属性魔法と魔法の察知がしづらい風属性魔法を駆使し、援護を行った。
そして、ソウガたちの攻撃の合間を縫い、アッシュの溶解液が噴出すると、案の定その攻撃を予知していた白狼は大きく飛び退く。
だが、白狼は散々近接攻撃を続けていたソウガたちに気をとられ、俺の存在を忘れかけていた。
このチャンスを逃さないために、俺は用意していた魔法を発動させる。
「『アクセル』!」
飛び退く最中なので、未だに空中にいた白狼は、『アクセル』の発動と同時にゆっくりと地面に近づいていった。
そんな中で、俺はすぐさま白狼に接近すると、白狼が着地しないように白狼の胴体の下に骸骨兵の骨を入り込ませ、思いっきり振り上げた。
まるで野球のフライを打つような感覚で振り抜かれたその攻撃は、綺麗に白狼の腹に決まり、大きく突き上げられる。
それと同時に『アクセル』の効果が切れると、白狼は空高く打ち上げられた。
空中にいることでもはや動きが取れない白狼に対し、何とソウガはネクロの持つ盾に向かって駆け出すと、その盾を踏み台にし、空中にいる白狼へ襲い掛かった。お前、そんなことできたの!?
ソウガの予想外のアクロバティックさに驚いていると、白狼もまだ切り札を隠していたようで、ソウガに必死の形相を向けると同時に、その青い目が光る。
するとソウガの体を同じように青い光が包み込み、そのままサイコキネシスのように宙に固定され、攻撃が阻止されてしまった。
――――だが、攻撃をしかけようとしたのはソウガだけではない。
「――――『テレポート』!」
「ウォン!?」
俺は空中にいる白狼の背に飛び乗るように『テレポート』を発動させると、すぐにその太い首に手を回し、骸骨兵の骨を使いながら固定させ、全身を使ってその首を捻り上げた!
その瞬間、鈍い音が白狼の首から響き渡ると、白狼は一瞬大きく痙攣したのち、空中で光の粒子となって消えていく。
それと同時に落ちていくドロップアイテムに紛れ、俺も地面へと落ちた。
しかし、レベルアップしたことによるステータスの恩恵で、結構な高さから落ちたのだが、無事着地することに成功した。改めて考えるとレベルアップによる身体能力の向上ってすごいな。今もあんなに太い白狼の首をへし折れたし。
ついそんなことを考えていると、メッセージが出現した。
『レベルが上がりました。【草原の間】の攻略に成功しました』
なんと、あの白狼がこの階層のボスだったらしい。
思わぬ収穫に驚きながらも、四日もダンジョンに居続けたこともあり、さすがにお風呂に入ったりと家でゆっくりしたい俺は、ドロップアイテムを素早く回収すると同時にそのまま家へ帰還するのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます