第32話

「ハアッ!」

「キャン!?」


 あれからもう一度グラスウルフの群れに遭遇した俺たちだったが、二度目ということもあり、特に苦戦することなく対処することができた。

 しかも、今回は魔法を使わず、骸骨兵の骨だけ……つまり棒術のみで対処できたのだ。これは大きい。


『レベルが上がりました』


「お、またレベルアップだ! やっぱりランクDの魔物の群れを相手にするとレベルの上がり方が違うな」


 今まで全然レベルが上がらなかったのに、今日だけでもう二つもレベルが上がってしまった。

 先ほどのグラスウルフの群れもレベル1だけじゃなく、2や3も混じっていたのもレベルアップの要因になっているだろう。


「今のところ安全に倒せつつ、レベルが上がってていい感じだ。ただ……」


 俺は改めて草原全体を見渡す。

 今倒したグラスウルフの群れと遭遇した頃には、最初の群れとの遭遇からすでに5時間ほど経過しており、途中休憩をはさんだりしながら行動してはいたが、魔物と遭遇する頻度は少ないだろう。

 遭遇する頻度こそ少ないが、代わりに一度にたくさんの魔物と遭遇しているといった形だ。

 そして、遭遇する頻度が少ないのも、この五階層の広さのせいだろう。


「延々と歩き続けてるけど、これ、終わりはあるのか……?」


 どこまで言っても似たり寄ったりな景色に困惑する。

 着実に進んでいるはずなのは、【高性能マップ】の埋まり具合からも確認できる。まあ埋まってるといっても、行き止まりとか見えてこないんだけどさ……。

 それにしたって5時間も同じような景色を見ながら進むのはとてもつまらない。

 一応、この五階層の目的としてはなるべく進んでマップを埋めることを優先していたからこそ、今の戦闘が起きるまでは暇でしかなかった。

 ただ、それだけ粘ったからこそ、収穫もある。


「やっぱりこの空間にも夜って概念があるんだな……」


 若干気温が下がったことを感じながら、俺は空を見上げる。

 すると、この五階層に来たときは澄み渡る青空が広がっていたのだが、今は燃えるような夕焼けと、その端から徐々に侵略してくるような深い紫色の空が、上空に広がっている。このまま行くと、夜になるだろう。


「どうしようか……食料とかは持って来てるし、せっかくだからダンジョンで一夜過ごすか?」

「ギャ!」

「ギ」


 ソウガたちも賛成らしく、俺たちはこの五階層で一夜を過ごすことに決めた。

 そうなるとテントを張ったりと準備が出てくるので、急がないといけない。


「もっと早くに決めておけばよかったなぁ」


 そんな風に反省しつつも、適当にあたりを見渡し、スケルトンたちに手伝ってもらいながら草をある程度除去してもらい、そこにテントを張った。

 ひとまずテントを張り終えると、もう少し野営地を広げるべく、草原の草を除去していく。


「よし、こんなもんでいいだろう」


 俺の家は森の中にあるので、薪になる木の枝なんていくらでも落ちていることから、この草原地帯でも問題なく焚火ができる。

 夜になって、火やライトをつけるのって魔物をおびき寄せそうで怖いが、逆に動物は火を怖がるって言うし、どうなんだろうか。そこも確認できればいいなぁ。

 アウトドアチェアを用意し、そこに腰を掛けると俺は今日レベルが上がったことによるステータスの確認することに。


「あ、そうだ。野営するわけだし、寝込みとか襲われたら嫌なわけだけど……そういうのに適したスキルってあるんだろうか?」


 ふとそう思い、早速【スキルコンシェルジュ】を発動させる。


『習得推奨スキル【強制起床】、【即時戦闘態勢】』


「あるんだ……」


 しかもなんてピンポイントなスキルなんだ。

 ただ、消費SPはどちらも1と非常に少ない。

 ……これから使う可能性もあるし、獲得しておくか。

 新たにスキルを獲得しつつ、ステータスも振り分けた結果が、以下の通りである。


名前:神代幸勝

年齢:22

種族:人間Lv:21→22

職業:召喚勇士Lv:15→16、トレジャー・マスターLv:7→8、ネクロ・ロードLv:7→8、武闘戦士Lv:7→8

MP:175→200(+120)

筋力:111→118

耐久:111→118

敏捷:112→119

器用:110→117

精神:106→113

BP:20→0

SP:15→13

【オリジンスキル】

≪鬼運≫≪不幸感知≫

【ユニークスキル】

≪システム≫≪スキルコンシェルジュ≫≪魔力支配Lv:5≫≪魔法創造≫≪危機脱出Lv:1≫≪高性能マップ≫≪時属性魔法Lv:2≫

【スキル】

≪精神安定≫≪鑑定Lv:5→6≫≪気配遮断Lv:6≫≪契約≫≪罠解除Lv:5≫≪隠匿Lv:6≫≪夜目≫≪超回復・魔≫≪超回復・体≫≪受けLv:3≫≪魔物図鑑≫≪強制起床≫≪即時戦闘態勢≫

【武器】

≪棒術Lv:6≫≪投擲Lv:2≫

【魔法】

≪火属性魔法Lv:2≫≪水属性魔法Lv:3≫≪風属性魔法Lv:3≫≪土属性魔法Lv:3≫≪木属性魔法Lv:3≫≪雷属性魔法Lv:3≫≪神聖魔法Lv:3≫≪空間魔法Lv:4≫≪生活魔法≫≪召喚術≫

【称号】

≪先駆者≫≪未知との遭遇≫≪原初の超越者≫≪原初の魔術師≫≪魔と友誼を結ぶ者≫≪悪意を見抜く者≫≪制圧者≫≪孤高≫≪暴き見る者≫≪ザ・トレジャー≫≪着飾る者≫≪不死者を従える者≫≪ユニーク・ハンター≫≪無名の兵≫

【装備】

身代わりのペンダント

【所持G《ゴールド》】

4G

【契約】

ブルーゴブリン×1、レッドゴブリン×1、ゴブリン×6、スケルトン・ソルジャー×1、スケルトン×8、メタルスライム×1、ダーク・バット×1


【ソウガLv:6→7】

≪棒術Lv:7≫≪受けLv:6→7≫≪模倣≫


【コウガLv:6→7】

≪棒術Lv:6≫≪二刀流≫≪怪力≫


【ゴブリンLv:4】

≪棒術Lv:4≫


【ネクロLv:4→5】

≪剣術Lv:4≫≪盾術Lv:4≫≪頑強≫


【アッシュLv:2→3】

≪液状化≫≪金属化≫≪溶解≫≪形状記憶≫


【スケルトンLv:2】

≪採掘≫≪格闘Lv:1≫


【ゴブリンLv:2】

≪棒術Lv:2≫≪採掘≫


 ひとまずBPは10ほどMPにつぎ込んだ後は、他のステータスに満遍なく2ずつ振り分けた形だ。

 すると、新たにメッセージが俺の前に出現する。


『スキル【高性能マップ】と【強制起床】、【即時戦闘態勢】が連携されました』


「なるほど……?」


 新たにスキルを獲得したはいいが、まだ内容を確認してなかった俺は、改めてスキルを確認していった。


【強制起床】……時間やシチュエーションを設定できる。その設定に該当した瞬間、就寝していた場合、強制的に目が覚める。

【即時戦闘態勢】……どんな状況下でも、即座に戦闘態勢に移行でき、最初から全力で活動することができる。


「おお……見た感じかなり有用そうなスキルだけど、SP1で獲得できるんだな……」


 ひとまずこの二つのスキルが【高性能マップ】と連携されたってことは、【強制起床】の設定を敵が近づいたらって設定することで、【高性能マップ】で敵が来たのが分かると、その瞬間に目が覚めて、さらにすぐ戦える状態になると。

 起きても寝ぼけたままだと意味ないからな。

 他にも【強制起床】って絶対に遅刻したくないときとか最高じゃん。大学時代にこのスキルがあれば、一限の授業に苦労しなかったんだけどなぁ。

 【強制起床】の設定を見ていると、他にも有用そうな項目がいくつかあった。

 例えば、敵の攻撃とか受けて、強制的に眠らされたり、気絶したりしても、このスキルがあればすぐに目を覚ますことができるのだ。一応、状態異常に俺はならないはずだけど、睡眠と気絶が状態異常に入るものなのか判断がつかないので、これはありがたい。ゲームだと状態異常判定だけど、睡眠は寝てるだけだからな……異常なのかって言われると難しい。

 ステータスもスキルも確認を終えた俺は、キャンプ用品をとにかく出していき、晩飯の用意を始める。

 まずご飯は飯盒を使って炊き、ミニコンロを用いて豪快に一枚のステーキを焼いていった。


「んー! いいねぇ。また別の場所でこうしてご飯を作るってのは……」


 ソウガたちのも用意して、皿に盛りつけてやると、スケルトンたちが率先して配ってくれる。


「……あ、そうだ! もう夜になるんだし、アンネも呼ぼう」


 すぐにアンネも召喚すると、アンネは俺の肩に止まった。


「キキ!」

「ごめんな、呼ぶのが遅くなって。この時間だと大丈夫か?」

「キ」


 アンネにも食事を用意すると、俺たちは焚火を囲んで飯を始める。

 普段はちゃんとバランスやら考えて食事を作ってはいるが、こうしてキャンプみたいなときは、シンプルかつ豪快な食事がまた美味しいのだ。


「ふぅ……おお、すげぇな」


 用意していたコーヒーを一口含み、何気なく空を見上げると、そこには今の日本じゃあまり見ることができないような、綺麗な星空が広がっていた。

 もちろん俺が今住んでいる場所も山奥だし、都会に比べて空気が澄んでて空もよく見える。

 だけど、この五階層の星空は、それとは比べ物にならないほど細かい星々が瞬き、辺り一面を支配していた。


「……排気ガスや街頭がない、本当に自然な状態の星空ってこんなにすごいんだな……」


 食事の匂いに魔物が寄ってくるかもと警戒していたが、目の前の光景に一瞬警戒を忘れそうになる。

 ただ、今のところ魔物たちの襲撃はなさそうだ。


「音楽とかあればなおよしだろうが……一応そこは静かにしておくか」


 わざわざ音をたてて魔物の襲撃のリスクを上げる必要はない。食事と焚火は視界の確保や体力回復の意味もあるが、音楽は娯楽になっちゃうからな。残念だ。


「もっと強くなれば、気にせず過ごせるだろうし……頑張ろう」


 俺は新たな目標として、この素晴らしい景色を何者も気にすることなく、満足いくまで堪能できるよう、強くなろうと思うのだった。

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