第30話
「ついに五階層が解放されるのか……」
一週間経ち、今日から五階層に挑戦できるようになった。
「それにしても、なんで今回は期間が空いたんだろうか?」
今までスムーズに色々な階層に挑戦できていたのだが、いきなり期間が設けられたことへの疑問は尽きない。
「三階層から四階層までの移動方法も変わってたしなぁ」
一階層から三階層までの間を移動するには、階層を移動する専用の魔法陣を使う必要があった。
しかし、三階層から四階層に向かう際は、魔法陣ではなく、階段を使用する必要があったのだ。
「確実に今までと何かが違うはずだが……どうなることやら」
怖さもあるが、興味の方が今は大きい。
ソウガたちを召喚し終えると、俺は改めてダンジョンの入り口を出現させた。
「よし、それじゃあ……行くぞ」
「ギャ!」
ソウガたちを連れ、俺はいざ五階層を選択する。
すると、俺たちの周囲に魔法陣が出現し、そのまま五階層へと転移された。
一瞬の激しい光に目をつぶり、目を開くと――――。
「は?」
――――そこは、草原だった。
「な、何だ、これ……」
頬を撫でる風。心地よい日光。少し湿った土の感触。青臭い草の臭い。
空は晴れ渡り、どこまでも澄んだ空気が周囲を満たしていた。
それはとても、ダンジョンの中とは思えない光景だった。
「こ、これ……本当にダンジョンなのか?」
ゲームや創作物の中では、こんなダンジョンがあってもおかしくないだろう。
だが、現在の地球において、この別世界……それこそ異世界に来たんじゃないかと思ってしまうようなダンジョンは、初めてだった。
冒険者協会で発表されているダンジョンや、世間で知られているダンジョンは、どれも洞窟か迷宮のどちらかで、こんな外の世界がそのままダンジョンの空間として展開されているなんて話、聞いたことがなかった。
呆然と辺りを見渡すが、どこを見ても草原が見えるだけで、あの石造りの壁は見当たらない。
空を見上げても、俺のよく知る青い空と日の光が降り注いでいた。
「これが、五階層なのか……」
とても信じられないよう光景だが、不思議な現象は今に始まったことじゃない。そもそも今の地球を襲っているダンジョンや魔法といったすべてのモノが、本来信じられないような出来事なのだから。
ソウガたちも興味深そうに周囲を見渡していたが、唯一アンネだけ、どこか辛そうにしながら目を翼で覆っていた。
「ああ……すまん、アンネは光が苦手なんだったな」
「キ……」
申し訳なさそうな声を上げるアンネ。
本当ならアンネのレベル上げもしたかったが、ここで無理をさせるのも可哀そうだ。
俺はアンネだけ帰還させると、ふとスケルトン・ソルジャーであるネクロに視線を向ける。
「……お前は大丈夫なんだよなぁ」
「――――」
静かに佇むネクロを見て、俺は苦笑いする。
ネクロや他のスケルトンたちも、俺の称号の効果で日光の下でも問題なく活動できるのだ。
「そうだ。こうして今は真昼間みたいな天気だが、ここって夜の概念はあるんだろうか?」
太陽かどうかは分からないが、少なくとも同じ働きをしている何かにより、空を照らしている今、時間が経てば夜になるのかも気になる点の一つだった。
もし夜があるのなら、夜にアンネを召喚して、一緒に活動することができる。
「……今日は少し長めにここで過ごすか」
「ギャ」
俺の言葉に、ソウガたちは頷く。
もし夜になるのなら、日本と同じような感覚で朝と夜が切り替わるのかも確認したいところだ。
「今のところ、日本の時刻とこっちの時刻はあってそうだけどな」
俺が五階層に挑戦を始めたのはちょうどお昼時。
それに対して、五階層の日の位置を見るに、日本と同じ昼間を示しているように見える。
「この階層は色々調べることが多そうだ」
そう呟きながら、俺は足元を見下ろす。
この階層に広がっている草原の草は、どれも俺の膝下くらいまで伸びており、俺も動きにくいが、ソウガたちはさらに動きづらそうだ。
しかも、草で地面がハッキリと見えないが、よく見ると所々に魔晶石が見えることからも、気を付けなければ躓き、隙を見せることになる。
「【高性能マップ】だけじゃなく、俺たち自身も気を付けなきゃヤバそうだ」
これだけ草の丈が長いと、この草原に隠れて襲ってくる魔物がいてもおかしくない。
「ひとまず移動するか。この階層のボスとか、どうなってるのか気になるし」
ソウガたちに声をかけ、俺たちは移動を開始する。
迷宮と違い、視界は広いものの、足元がよく見えないので、俺たちはいつも以上に慎重になりながら進んでいった。
すると、不意に【高性能マップ】に敵性反応が現れる。
「ん? これは……」
しかも、その反応はどうやら俺たちに気付いているようで、かなりの速度で近づいて来ていた。
そして――――。
「グルルルル……」
現れたのは、一体の灰色の狼。しかし、その体毛は所々に緑色の虎模様が入っている。
大きさは大型犬くらいあり、毛を逆立て、牙をむき、俺たちを威嚇していた。
初めて見る魔物に、俺はすかさず【鑑定】を発動させる。
【グラスウルフLv:1】……ランク:D。弱点:火属性魔法。
説明:草原地帯に生息する狼型の魔物。集団で生活しているが、獲物を探す際は一匹で行動する。そして獲物を見つけると特殊な遠吠えを上げ、仲間を集める。草原地帯ではその体毛から非常に周囲に溶け込むのが上手く、奇襲も得意としている。主な攻撃手段は牙と爪。
「まずい!」
説明を読み終えた俺は、すぐにグラスウルフに詰め寄り、攻撃をしようとするが、グラスウルフはすぐさま距離をとると、大きな遠吠えを上げた。
「ウォオオオオオオオオオオオオオオン」
「――――ウォォオオオオオオン!」
「ウォオオオオオオン!」
「ウォオオオオオオオオオオオン!」
目の前のグラスウルフの遠吠えに同調するように、周囲のあちこちから同じような遠吠えが上がる。
これが、説明に書いてあった仲間を集めるということなんだろう。
ランクDの魔物であることから、できれば相手にするのは一体だけがよかったのだが、こうして遠吠えを阻止できなかったため、覚悟を決めるしかない。
俺はすぐさまリョーガ以外のゴブリンたちとスケルトンも召喚した。
「構えろ!」
全員武器を構え、ひとまず目の前のグラスウルフに飛び掛かる。
最初にソウガが手にした棍棒を素早く振り下ろすも、グラスウルフの方が動きは速いようで、簡単に避けられてしまった。
しかし、その避ける先を予測していたのか、アッシュから溶解液が吐き出され、グラスウルフの足に着弾する。
「キャン!?」
「よし、今だ!」
グラスウルフが怯んだ隙に一斉に攻撃を仕掛けると、足を負傷したグラスウルフに避ける術はなく、そのまま倒された。
――――だが、俺たちが一匹を倒し終わったところで、呼ばれた他のグラスウルフたちがやって来てしまった。
「ガルルルル……」
「ゥゥウウウウ……」
その数は10体ほどで、俺たちを逃がすまいと、周囲を取り囲むように移動する。
俺たちの人数は俺を含め18体なので、数だけで言えば、俺たちの方が多い。
だが、ゴブリンとスケルトンはレベル1な上に、ランクもEなのだ。まともに勝負になるのかさえ怪しい。
ここは俺やソウガたちがカバーするしかないだろう。
全員警戒しながらグラスウルフを見ていると、ついに痺れを切らした一匹が、俺たちに飛び掛かってきた!
「ガアアアアアアッ!」
その攻撃をきっかけに、他のグラスウルフたちも襲い掛かる!
「『スロー』!」
「ガア!?」
俺に襲い掛かろうとしていたグラスウルフにすかさず『スロー』を発動させると、動きが遅くなったグラスウルフの鼻っ柱に手にしていた骸骨兵の骨を叩き込んだ。
そしてそのまま追撃として、グラスウルフの口を左足で踏みつけ、骸骨兵の骨を使って首を固定すると、空いている右足で胴体に蹴りを放つ。
すると梃子の原理により、骸骨兵の骨をを軸とした部分の首の骨が砕け、そのままグラスウルフは消えていった。
「よし……!」
グラスウルフの弱点を見る限り、火属性魔法が効くらしいが、ここは草原地帯なので、火が燃え広がれば俺たちも危ない。だから積極的に使うことができなかった。
それでもこうして俺一人で倒すことができたし、ソウガたちも上手く連携しながら戦っている。
中でも今回初参戦となるアッシュが、かなりいい働きをしてくれていた。
というのも、溶解液でグラスウルフたちを牽制することでソウガたちの攻撃が決まるだけでなく、隙を見つければちゃんと溶解液で攻撃も加えているのだ。
ただ、某RPGのメタルスライムのように素早いワケではなく、むしろ動きは非常に遅いせいか、固定砲台のようになっている。……これ、アッシュを他の誰かの体に固定すれば、動きながら援護もできて強いかもしれないな。
つい戦闘中にそんなことを考えていたが、やはり俺の不安は的中し、ゴブリンやスケルトンたちに初めて死者が出てしまった。
「あっ!」
だがその瞬間、俺の中にある魔力が減った感覚と共に、破壊されたスケルトンが復活し、再び動き始める。
……知ってはいたが、こうして実際に見てみると、本当に倒れても俺の魔力がある限り復活し続けることができるみたいだ。俺の魔力が生命線というわけだ。
そう考えると、今のステータスの魔力量でも心もとないかもしれない。
俺の魔力が枯渇した状態で倒されれば、その場ですぐに復活することはできなくなってしまい、俺の魔力が回復するまで召喚できなくなる。
やっぱりもう少し魔力を伸ばした方がいいのかなぁ。
何体かグラスウルフを倒せたことで、徐々に俺たちが有利になっていくと、ついに最後のグラスウルフを倒した。
『レベルが上がりました』
そして、ランクDの魔物の群れを倒したことで、レベルが上がるのだった。
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