第29話

 ボスであるダーク・バットを倒し終えた俺は、ドロップアイテムを回収してそのままダンジョンから帰ろうとしたところでふと思いつく。


「そうだ。せっかくだし、このまま今日手に入れた素材を売却しに行くか」


 魔物から手に入れた素材は専門の取引所に直接向かい、そこで売却することができるのだ。つまり、自分でそこに行かない限りは売り払うことができないと。

 その代わりというか、現金でその場ですぐ渡してくれたり、銀行口座に振り込んでくれたりと結構融通はきくらしい。何より、そこでは売却だけでなく、アイテムも売っているらしいので、そちらも確認してみたい。


「確か、冒険者協会の近くだったよなぁ。時間はあるし、向かうか」


 幸いダンジョンの攻略が思いのほかすんなりといったので、時間が余っていた。

 ステータスの割り振りや、ドロップアイテムの確認なんかもまだ終わっていないが、これらは帰ってからゆっくりするつもりだ。

 特にこの場に留まる理由もないので、さっさと魔物の素材を売り払うため、取引所まで移動した。

 ナビを頼りに取引所まで移動すると、そこには冒険者らしき人たちがたくさん溢れていた。

 何て言ったらいいんだろうか……冒険者協会は市役所的な見た目の建物だったのに対し、この取引所は魚の市場みたいな、そんな雰囲気である。

 見たこともないような魔物の素材が職員たちによって運ばれ、店先では冒険者たちがアイテムを見ては購入している姿があちこちで見られた。

 ここが、冒険者たちが魔物の素材を売ったり、アイテムを買ったりする取引所――――【ダンジョン・マーケット】だ。世間ではDMと略されるらしい。


「すげぇな……何かメチャクチャデカい魔物の素材も運んでるし……」


 恐らくどこかの強いギルドが倒したであろう巨大な魔物の素材が、大きな荷台に乗せられ、運ばれていく。

 ここに置いてある素材はどれを見てもどう使うのか、俺には見当もつかない。

 ひとまず目的を達成するため、俺は今回入手した素材のうち、ボスのドロップアイテム以外を売り払うため、売却所まで向かった。ちなみにボスのドロップアイテムは何かに使うかもしれないし、何より特殊個体のボスを倒したことがバレてしまうので、仕舞っておく。

 売却の手続きをする受付まで行くと、俺と同じように素材を売りに来た冒険者が並んでおり、俺の様に普通の格好をしている人もいれば、ガチガチな鎧を着こんだ人まで、実に様々だ。

 失礼にならない程度に周囲を見渡しながら順番を待っていると、俺の番になる。


「次の方どうぞ」

「あ、はい」

「冒険者カードをご提示ください」


 受付の人の言葉に従いカードを提示すると、何かの機械を操作したのち、カードを返却される。


「はい、E級冒険者の神代様ですね。本日は何をお売りになられますか?」

「えっと、これです」


 【倉庫】から直接出すと色々面倒なことになりそうだと感じたので、俺は家から持って来ていた大きめの袋に今回入手した素材を移していた。

 そんな素材の入った袋を相手は受け取ると、一度受付の奥に下がっていく。恐らく内容を確認して査定しているんだろう。

 しばらく待っていると、再び受付の人が戻ってきた。


「お待たせいたしました。本日は【音波石】が三個、【迷宮蝙蝠の翼膜】が四枚と【迷宮蝙蝠の牙】が二本、ゴブリンの棍棒が三本ですね。お間違いないでしょうか?」

「はい、大丈夫です」

「それでしたら、これらを現在の相場で清算いたしますと……59000円になります」


 値段の内訳としては、音波石が一個10000円、翼膜が一枚5000円、牙は一本3000円、棍棒が一つ1000円である。

 冒険者はある程度稼げるとは聞いていたが、まさかE級の段階でここまでの収入になるとは思わなかった。

 まあ俺は他のE級の人とは違い、一人で挑戦しているし、レベルだって適正よりは高いだろうから、低リスクで稼げているというのはあると思う。

 ひとまず提示された金額で売り払うと、そのまま現金で渡された。

 お金を受け取ってすぐに受付から離れる俺だが……うーん、お小遣い稼ぎとしてはかなりいいな。

 もちろん魔物の出現率やドロップ率なんかは安定しないから、安定した収入とはとても言えないけど、お小遣い稼ぎとして考えると破格だと思う。命の危険はあるけどね。

 ひとまず目的である売却ができた俺は、せっかくなのでDMで売り出されているアイテムたちも見て周ることにした。


「ふーん……いろいろなアイテムがあるんだな……って、初級回復薬って俺の【ショップ】にもあったよな?」


 売られている中には、何と【ショップ】内で見かけたようなアイテムも存在したが、こちらでは現金での購入が基本となる。

 装備品はひとまず【ショップ】で買った方が安いというか、性能も非常にいいのだが、アイテムに関しては分からない。値段的に見てももしかしたらこうしてDMで買った方が安い可能性もある。


「まあ今のところ回復薬とか必要になってないし、状態異常にかからないからあまりアイテムを使う機会がないんだよなぁ」


 それこそ某狩猟ゲームのように、罠だったり攻撃アイテムだったりならいずれ使う可能性はあるかもしれない。そういう意味では前もって買っておいて、【倉庫】に仕舞っておいてもいいのかもしれないが……。


「まあ今日はいいか。売ってるものを見ているだけでも楽しいし」


 そんな感じで特に買うわけでもなく、少し離れた位置から色々物色していくと、あることに気付いた。


「ていうか、販売してるのって別に冒険者協会だけじゃないんだな」


 てっきり買い取った素材を使い、冒険者協会がアイテムに加工したものを売っているのかと思ったのだが、少し違う。

 もちろん冒険者協会もアイテムを販売しているのだが、場所によってはどこかのギルドがアイテムを売りに出しているところも見受けられた。

 俺が知らないだけで、ゲームのように攻略するギルドとは別に、生産に力を入れているギルドもあるのかもしれない。考えれば考えるほどゲームのような世界になったもんだよなぁ。

 ただし、協会じゃなくギルドのアイテムを買うときには気を付けなければいけないことがある。

 ギルドで販売しているアイテムは、それこそ冒険者協会の販売所で買うより安い値段のものもあったが、それらの効果が果たしてちゃんと作用するのかとか、逆にぼったくりのような値段で売りつけられる可能性もあるので、よほど有名なギルド以外からは買わない方がいいだろう。

 それか、普通に冒険者協会の販売所で買うのが一番である。冒険者協会の販売所の値段がいわゆる市場の相場になっているからだ。値切ったりはできないが、品質も保証されてるし、ぼったくられる心配もないからな。少なくとも俺は、冒険者協会の販売所で十分そうだ。


「何となくDMの様子とかつかめたし、ひとまず帰るか」


 これ以上用事もないので、俺はさっさと車に乗り込むと、そのまま家まで帰宅するのだった。


***


「――――やっぱりボスの素材って分かるよなぁ」


 俺は家に帰ってすぐ、ダーク・バットから入手した素材を確認していた。

 それが以下の通りである。


【魔石(ダーク・バット)】……ランクDの魔石。魔力の結晶。この魔石にはダーク・バットの情報が刻まれている。

【闇蝙蝠の翼膜】……ダーク・バットの翼膜。柔軟性に優れている。

【闇蝙蝠の牙】……ダーク・バットの牙。非常に鋭利であり、丈夫。


 どう見てもDバットの上位素材としか思えないようなラインナップである。自意識過剰かもしれないが、売り払うと面倒なことになる可能性があったかもしれない。

 まあこの中で俺が使えるものなんて魔石以外ないので、それ以外の素材は【倉庫】に収納した。


「よし、それじゃあ最初に契約から行いますかね」


 ステータスと契約、どちらから行おうか迷ったが、ここは先に仲間を増やす方が俺の中で勝った。

 なので早速ダーク・バットの魔石を取り出す。


「……ん。【不幸感知】的に、普通の契約でも問題なさそうだが……」


 今回も特殊個体なので、できれば契約は成功してほしい。

 簡易契約に気持ちが流れそうになるが、気を強くして俺は普通の契約を行った。

 すると、契約は無事に成功し、目の前にはあのボスの部屋で戦ったダーク・バットの姿が。


「キ!」


 ダーク・バットは部屋の中を軽く飛び回るが……思いのほか大きいので、少し窮屈そうだ。家自体はそんなに狭いワケじゃないんだけどな。

 一通り家の中を確認するように飛んだダーク・バットは、そのまま俺の目の前に降りてくる。


「キ」

「満足したか?」

「キキ!」

「そうか。それでお前の名前だが……」


 俺はダーク・バットを見つめ、名前を考える。

 そして――――。


「――――アンネはどうだ?」

「キ!」


 俺の提案した名前に対し、ダーク・バットは肯定的な声を上げる。どうやら気に入ってくれたみたいだ。

 ちなみに名前の由来は『あん』と『』でアンネ。実に安直である。普通に生活してたら名付けなんてそうすることでもないし、センスは許してほしい。


「よし、それじゃあアンネ。これからよろしくな」

「キ!」


 アンネがそう答えるのを見つめながら、俺は【鑑定】を発動させた。


【アンネ(ダーク・バット)Lv:1】

≪闇属性魔法Lv:1≫≪吸血≫≪超音波≫


「おお、本当に闇属性魔法が使えるんだな!」


 魔物の説明にはそう書いてあったし、戦いの中でもダーク・バットは闇属性魔法を使ってきたので使えることは知っていたが、いざこうして仲間に魔法が使える存在ができると感動する。というより、初めての魔法が使える仲間だ。

 他にも吸血やらあの超音波など、中々気になるスキルが多い。


「これらもアッシュと一緒に要確認だな」


 今から五階層が解放されるのが実に楽しみである。別に一階層から四階層まで挑戦してもいいんだが、レベルも上がらないし、お金も困ってないからな。

 それよりは実戦以外の部分でスキルの練習とかした方がいいかもしれない。

 ひとまずアンネの確認が終わった俺は、自分のステータスの確認に移る。

 とはいっても、今回俺の中で割り振る項目は決まっていたので、さくっと終わらせた。


名前:神代幸勝

年齢:22

種族:人間Lv:19→20

職業:召喚勇士Lv:13→14、トレジャー・マスターLv:5→6、ネクロ・ロードLv:5→6、武闘戦士Lv:5→6

MP:135→150(+110→120)

筋力:96→101

耐久:96→101

敏捷:92→107

器用:90→105

精神:96→101

BP:20→0

SP:0→5

【オリジンスキル】

≪鬼運≫≪不幸感知≫

【ユニークスキル】

≪システム≫≪スキルコンシェルジュ≫≪魔力支配Lv:4→5≫≪魔法創造≫≪危機脱出Lv:1≫≪高性能マップ≫≪時属性魔法Lv:1→2≫

【スキル】

≪精神安定≫≪鑑定Lv:5→6≫≪気配遮断Lv:6≫≪契約≫≪罠解除Lv:5≫≪隠匿Lv:5→6≫≪夜目≫≪超回復・魔≫≪超回復・体≫≪受けLv:3≫≪魔物図鑑≫

【武器】

≪棒術Lv:5≫≪投擲Lv:2≫

【魔法】

≪火属性魔法Lv:2≫≪水属性魔法Lv:3≫≪風属性魔法Lv:3≫≪土属性魔法Lv:3≫≪木属性魔法Lv:3≫≪雷属性魔法Lv:3≫≪神聖魔法Lv:3≫≪空間魔法Lv:4≫≪生活魔法≫≪召喚術≫

【称号】

≪先駆者≫≪未知との遭遇≫≪原初の超越者≫≪原初の魔術師≫≪魔と友誼を結ぶ者≫≪悪意を見抜く者≫≪制圧者≫≪孤高≫≪暴き見る者≫≪ザ・トレジャー≫≪着飾る者≫≪不死者を従える者≫≪ユニーク・ハンター≫≪無名の兵≫

【装備】

身代わりのペンダント

【所持G《ゴールド》】

4G

【契約】

ブルーゴブリン×1、レッドゴブリン×1、ゴブリン×6、スケルトン・ソルジャー×1、スケルトン×8、メタルスライム×1、ダーク・バット×1


 今回俺が振り分けたのは、敏捷と器用だ。まあ理由は単純で、この二つが一番伸びていなかったからなんだが、次は筋力と耐久に振り分けるつもりである。

 それと、ダーク・バットとの戦闘で時属性魔法がレベル2に上がったことで、新たに『アクセル』を習得できた。この魔法は『スロー』が対象の動きを遅くするのに対し、俺自身の動きを加速させる魔法である。今のところ『スロー』だけでも十分活躍しているので『アクセル』を使う機会がいつになるかは分からないが、新しい魔法は嬉しい。

 そんな感じでいくつかスキルもレベルが上がり、順調に強くなっていることを確認しながらもあることに気付いた。


「何か項目が増えてる?」


 そう、以前は装備とGの項目はなかったのだが、今回ステータスを見てみたらこの二つが新たに追加されていたのである。

 まああったところで特に何か変わるわけでもないので、このままでもいいか。


「早く五階層が解放されないかなぁ」


 ステータスなどの確認を終えた俺は、まだ見ぬ五階層を楽しみにしながら、ゆっくりと過ごしていくのだった。

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