第24話 とある受付嬢の話

 ――――私はしがない受付嬢である。

 ただし、普通の企業などの受付ではない。

 今一番勢いのある冒険者たちをサポートする、冒険者協会の受付嬢なのだ。

 何故数ある受付の中でこの冒険者協会の受付嬢になったのか……それには理由があった。

 私がまだ冒険者協会で働く前。

 私はダンジョンに巻き込まれ、死にそうな目にあった。

 しかし、そこに駆け付けた現在日本最強のギルド……【天滅】のマスターである、不破豪さんに助けられたのだ。

 彼らによって助けられた私は、そんな不破さんのような冒険者のサポートをしたいと思い、今の仕事である冒険者協会の受付の仕事をしたいと思ったのである。

 もちろん、彼らのギルド【天滅】の事務サポートとして、冒険者協会ではなく【天滅】に所属できないかとも当然考えた。

 だが、もし私が案内した冒険者の中から一人でも有名な冒険者が出て、その人たちが私と同じように危険な目に遭ってる人を助ける……そうなれば素敵だなと思い、今の仕事に落ち着いたのだ。

 そんなある日。

 いつも通り受付に立っていると、一人の男性がやって来た。

 ――――そして、私はその男性から目が離せなかった。

 別にその男性がイケメンだったとか、芸能人だったから、というわけではない。

 いや、目の前の男性は確かにカッコイイのだが、それ以上に何故か目が離せない独特の圧倒的な雰囲気を纏っていた。

 そしてその気配を私はよく知っていたのだ。

 それは【天滅】のマスターである不破さんのような……トップクラスの冒険者のみが纏う、強者の気配。

 そんな人が登録しに来たのだから、私は内心大混乱だった。こんな気配を纏ってるのに、まだ登録してなかったの!? とか、あ、登録が義務付けられたからか! とか、色々脳内を駆け巡った。

 だが、登録した結果、冒険者カードに記載された男性のレベルは……たったの2だったのだ。


「っ!?」

「あの、どうかしましたか?」

「え? あ、いえ! すみません。登録は無事、終了となります」


 思わず困惑していると、男性が訝しそうにこちらを見ていることに気付き、慌てて取り繕う。

 おかしい。

 どう考えても不破さんクラスの気配なのだ。それなのに、レベルが2?

 冒険者カードを発行する機械に故障は見られないし、間違いないのだろう。

 私が感じた不破さんの気配こそが、強い人の纏う気配なんだと断言できる。そりゃあ根拠は語れないが、あの人に会えば嫌でも理解するはずだ。不破さん以外のトップ冒険者たちも同じ気配を纏っているはずである。それくらい独特で圧倒されるのだ。

 それを目の前の男性からも感じたのだが……気のせいだったのだろうか?

 もしかしたら、私が誰か一人でも有名な冒険者を担当した、という事実が欲しくてそう感じているだけなのかもしれない。まったく、ちゃんとしないと……。

 最後にその男性……神代幸勝様を講習会の行われる部屋まで案内し、再び受付に戻ると、同じ受付の同僚が話しかけてきた。


「さっきの人、イケメンだったわね」

「そうね……」

「あら、好みじゃなかった?」

「いや、そういうわけじゃなくて、あの人の気配がね……」

「あー、アンタが時々言ってる、強者の雰囲気ってヤツ?」


 同僚は私の言葉にどこか懐疑的な視線を向けてきた。失礼な。


「あのね、貴女も不破さんに会えば分かるわよ? 他の人と身に纏うオーラが違うんだから!」

「そりゃそうかもしれないけどさぁ……でもぶっちゃけ、不破さんより【闇下事務所】の光院寺さんの方が好きなのよねぇ。カッコいいし」

「貴女はそればっかりじゃない……」

「いや、でも大事よ? なんせS級でお金もあってイケメン! もういうこと無しでしょ」

「そりゃまあね……でも、不破さんだってカッコいいから!」

「分かってるわよ。ただ、あの人ってイケメンってより、男前って感じじゃない? 私は男前よりイケメンの方がいいなぁ」


 ぐぬぬ……不破さんと直接会えば、そんなこと言えなくなるのに……。

 でも、同僚の語る光院寺さんも不破さんに並ぶS級冒険者の一人だし、身に纏うオーラは不破さんにも負けないだろう。

 そんなことを考えていると、同僚はだらしなく受付に突っ伏した。


「ちょっと、仕事中よ?」

「いいじゃない。どうせ一日にここを訪れる人なんてたかが知れてるんだし」

「まあそうだけど……」


 同僚の言う通り、覚醒する人はそんなに多くないので、この冒険者協会に訪れる人もそんなにいないのだ。一日に十人もいれば多いくらいである。

 というのも、ダンジョンや冒険者に関する法律が制定されたことで、ダンジョンの規制や買収が行われ、新規に覚醒する人間が減ったのだ。

 もちろんこれが冒険者の数が足りない原因の一つでもあるのだが、ダンジョンは危険な場所である。もし法律を定めず、一般人が何の対策もなく挑戦する事案が増えれば、覚醒者が減るどころか国民が減っていくのである。そんなリスクを回避するための法律だ。

 だから新規で覚醒者としての登録に来る人は、登録を義務付けられたことで法律が制定される前から覚醒していた人や、本当に運よく魔物を倒したりダンジョンを発見できた人になるだろう。

 最近ではダンジョンの出現を予測する機械も開発されたようなので、一般人がダンジョンを発見する機会が減っているのだ。


「あー! いつかS級冒険者と結婚したいわー」

「貴女はもう……」


 どこまでも欲求に忠実な同僚に、私はため息をつくことしかできないのだった。

 ――――そしてこの後、私たちはとても驚くことになるのだが、この時の私にはそれが分からないのだった。

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