第19話
「ここは……」
翌日。
新しく解放された三階層を挑むため、ダンジョンにやって来た俺たちだが、そこは一階層、二階層と異なった雰囲気が漂っていた。
「あれは……何だ?」
ダンジョンの造り自体は今までと変わらず、石造りの壁や天井だが、所々に青色だったり赤色だったりのクリスタルのようなものが、壁や天井から生えているのだ。
その数はたくさんというほどでもないが、それでも今までなかったものに変わりはない。
警戒しながら一番近くにあった青色のクリスタルっぽいものに【鑑定】を発動させた。
【魔晶石】……周囲に漂う魔力が結晶化したもの。魔力の塊。結晶に込められた魔力の純度で色が変わり、込められた魔力の純度が低い順に、青、赤、紫、銀、金、黒となる。様々なアイテムに加工可能。
「魔晶石……」
魔石に似たモノっぽいが、魔石とは違うのは魔力量によって色が違うことと、その物に魔物の情報が刻み込まれていないことなどが挙げられた。
「なるほど……これが三階層の名前の由来か」
二階層をクリアした際、メッセージとして『【鉱石の間】が解放されました』と現れたのだ。
「てことは、これ、回収していいんだよな?」
目の前の鉱石を手にして軽く力を入れると、魔晶石は途中からボキン! と割れる。
「……そりゃそうか。レベルが上がって筋力とか人間離れしてきたから折れるとは思ったが、こんな方法だとちゃんと採掘できないわな」
採掘するにしても、どうすればいいんだろうか? 魔物と一緒で魔力が宿っているものじゃないと採掘できないとかあるんだろうか? ダンジョンの壁だし、そういう仕組みがあってもおかしくない。
残念ながら俺の手持ちで採掘に向いていそうなのはテントを固定するときに使う用のハンマーくらいだろう。
「実際、採掘とか化石を掘り出す人たちってどんな道具使ってんだ?」
今はダンジョンの中なのでスマホですぐに検索というわけにもいかず、想像がつかない。ゲームとかだとピッケルやツルハシを使ってるイメージだが……。
「ピッケルなら手に入るかな……」
仮に採掘系を仕事にしている方々の道具が分かったところで、簡単に手に入れられるものかも分からない。それなら筋力でガンガン掘っていくピッケルとかの方が使いやすそうだ。
「すまん、来て早々に悪いが、一度戻ってピッケルを買いに行くよ」
「ギャ」
ソウガたちに一言告げ、そのままダンジョンから引き返すと、俺は車を使って近くのホームセンターまで向かった。
「そうだ。何かあった時のために色々買いたしておくか」
【倉庫】内にはまだまだ色々な食材やらお菓子やら放り込んでいるものの、備えておくに越したことはない。というか、いくらあっても【倉庫】に放り込めばすべて解決するわけだし。
そんなこんなで目的であるピッケルやツルハシ、ついでに工具類も改めていくつか買っておいた。
そしてその流れから少し足をのばして大型のスーパーなどに向かい、変に思われない程度に食材類を買い込む。
特に家で育てていないお米や調味料類は大目に買っておいた。これだけあれば当分持つだろう。……ソウガたちも最近はよく食うからなぁ。不安になってきた。
飲み物系は最悪【生活魔法】で何とかなる。
この【生活魔法】だが、本当にその名の通り、普段の生活に役立つ魔法がいくつか使えるようになるだけの魔法だった。
だからスキルレベルも一切ないが、飲み水を出現させる魔法や、体を綺麗にする魔法、微風を吹かせて物を乾かす魔法など、本当に便利な物ばかりだ。体を綺麗にする魔法なんて、ダンジョンで一日過ごすとか考えたらありがたい。今は毎回家に帰って風呂に入っているが、そのうちそれもできない場面も出てくるだろう。
そういうわけで、目的の物をすべて買い終えた俺は、再び家に帰ると、改めて三階層に挑戦した。
「よし、まずは買ってきたピッケルとかで採掘できるかだな」
俺はピッケルを取り出し、魔晶石が生えている壁に振り下ろすと、ダンジョンの壁は普通に砕け、掘ることができた。
「お! いけるぞ!」
何度か挑戦してみるが、特に問題はなさそうである。
一応魔力が宿ったものと何か違いがあるかを確認するため、ゴブリンの棍棒でチャレンジしてみたのだが……。
「……なるほどな。魔力が宿った物の方が効率がいいと……」
棍棒はピッケル以上にダンジョンの壁を掘る……というより、砕くことができた。
魔物のように完全に魔力がないとダメということはないようだが、できれば魔力がこもっていた方が採掘速度は上がりそうだ。
ただ……。
「砕け散るのはよくねぇな」
棍棒を使ったのも悪いのだろう。
せっかくある程度の大きさだった魔晶石は、棍棒の一撃で砕け、小さな破片へと変わってしまった。どう見ても失敗である。
魔晶石の根元の壁を狙ったつもりだが、棍棒はやはり大きいので細かい作業には向いていないのだ。
「これなら多少時間がかかっても、根元からピッケルで掘った方がいいな」
一応人数分のピッケルを用意していた俺は、ソウガたちにピッケルを渡す。
「皆、近くのこの結晶を掘ってくれないか?」
「ギャ!」
「ギ」
「グゲ」
「――」
それぞれがピッケルを受け取ると、別々の場所に移り、採掘を始める。
その様子を眺めながら、俺はふと前に簡易契約したスケルトン三体を召喚した。
「お前たちもこれを使って掘ってくれ」
「「「――――」」」
俺からピッケルを受け取ったスケルトン三体は、特に反応することなく、黙々と採掘を始める。
新しく仲間になったネクロは、意思疎通も個性も感じ取れるのだが、このスケルトンは完全に命令を聞くだけの存在みたいな感じだ。せめて何か反応してくれればもう少し違うんだろうが……これも人間のエゴかな。
ある程度採掘をしながら先に進んでいると、マップに敵の反応があった。
「この階層で初めての敵だ。皆、気を引き締めろよ」
「ギャ!」
このまま進むと敵に遭遇するので、それぞれが武器を出し、構えながら慎重に進む。
……一階層は特に名前がなかったがゴブリンで、二階層は『骸骨の間』ってことでスケルトンが出た。
それじゃあこの三階層は何なんだろうか。『鉱石の間』って言うくらいだし、石っぽい魔物が出るんだろうか?
そう思いながら進んでいくと、ついに魔物が姿を現した!
「え?」
俺たちの前に現れたのは、粘性のドロッとした何かだった。
色は青色で、よく見るとそのドロッとした中に丸い石のようなものが見える。
これ、もしかして……。
俺は自分の予想を確かめるように【鑑定】を発動させた。
【スライムLv:2】
「やっぱり……!」
この階層で初めて登場した魔物は、色々な作品でおなじみのスライムだった。
ただ、ゲームでは雑魚の代名詞と言っても過言ではないスライムだが、ここは現実。しかも作品によっては強かったりもするので油断はできない。
ソウガたちも警戒しながらスライムを取り囲んでいると、スライムの体が震え始めた。
それを見た瞬間、【不幸感知】が働き、嫌な予感がした。
「皆、離れろ!」
俺の言葉にソウガたちはすぐに反応し、スライムから離れると、スライムは一瞬体を収縮させ、丸まったかと思えば、全方位に粘液を射出した!
「うおう!?」
幸いスライムから距離をとっていたので被害は出なかったが、その粘液が触れた部分が煙を上げているのがみえた。
どうやらあれは酸性の液体だったらしい。
「や、やっぱり油断できねぇ……」
というより、酸性の液体を出すということは、体そのものが酸性の可能性もあるのだ。迂闊に触ることもできない。
「またあの攻撃が来ても厄介だ……ソウガ!」
「ギャ!」
名前を呼んだだけで俺の考えていることをくみ取ったソウガは、スライムに接近すると、棍棒を振り下ろす。
その一撃はちょうどスライムの体内にあった丸い石に当たると、スライムはそのまま光の粒子となって消えていった。
「あれ?」
『レベルが上がりました』
あまりにも呆気なく沈んだスライムを前に、俺はつい間抜けな声を出してしまうのだった。
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