第16話

 翌日。

 改めて二階層である『骸骨の間』に挑戦していた俺たちは、昨日よりペースを上げ、攻略していた。

 というのも、二階層に出現するスケルトンたちのレベルやランクが低く、俺やソウガ、コウガのレベルが一切上がらないため、早くクリアしたかったからだ。


「恐らくここをクリアすれば、また新しい階層が出現すると思うんだけど……」


 確証こそないが、このダンジョンは【成長する迷宮】という名前だけあり、クリアするごとに成長していくのだろう。だからこそ、一階層をクリアした直後に二階層であるの場所が出現した。

 そんな理由もあって、この階層は特別やることもなくなってしまったため、次の階層に行こうと思ったのだ。


「それで、ここがボスの部屋の前だと思うんだけど……」


 ゲームの様に、マップを埋めていく作業をしていった結果、最終的に今俺たちがいる部屋以外はすべて調べ尽くしたはずだ。

 そして今、一階層でレッドゴブリンと戦う前にあった扉と同じものがある部屋にいる。


「昨日見つけた隠し部屋以外、それらしい場所もなかったしなぁ」


 少し期待していたのだが、やはりそう上手い話はなかった。

 それよりも、この部屋に来るまでにも何体かのスケルトンを相手にし、倒してきたのだが、俺やソウガ、コウガはともかく、リョーガだけは一応レベルが一つだけ上がっていた。


【ゴブリンLv:1→2】

≪棒術Lv:1→2≫


 かなりの数を倒したと思うんだが、やはり簡易契約の影響か、レベルの上りが遅い。ソウガとか同レベルのゴブリンを倒してすぐにレベルが上がってたし。とはいえ、レベルが上がらないワケじゃないのはこれで実証されたので、確実に強くはなってるはずだ。

 それと同時に、倒してきたスケルトンの中から、魔石も4つほど手に入ったのだが、これは【ショップ】で還元し、4Gへと変換してしまった。


「現状、スケルトンによる戦力増強は特に必要ないしなぁ」


 スケルトンと契約するだけで、MPが増えるという大きなメリットがあるものの、スケルトン自体にはスキルもなく、特に強くはないのだ。どうせ契約して使役するならゴブリンとかの方がいい。

 それなら使役せずとも契約だけすればいいと思うだろうが……これは単純に俺の感覚的な問題だ。一緒に戦いもしないのに契約してもな……。

 よそから見るとアホなこと考えてると思われるかもしれないが、別に無駄にしているわけでもないんだし、いいだろう。

 【ショップ】は正直、一番安いのでさえ買えるだけのGを手に入れる手段がなかったので、放置していたのだが、よく見てみると高額な商品のところに武器とか売っていたのだ。

 まさか武器まで手に入るとは思いもしなかったので、驚いたもんだが……現状、その武器を買えるだけのGに届かせる当てがない。

 とはいえ、Gもこれからは集めておいた方がお得だろうというわけで、契約しないスケルトンの魔石は全部Gに変換したのだ。


「だからこそ、ここのボスは少し期待しているんだよね」

「グギャ」


 ゴブリンが登場した一階層のボスは、今は仲間となっているコウガのレッドゴブリンというD級の魔物だった。

 つまり、この二階層のボスもまた、D級である可能性は高い。

 もしかしたらC級が出てくる可能性も考えられるが……【不幸感知】は特に働いていないので、そういったイレギュラーはないだろう。


「D級の魔物なら、倒して仲間にしたいところだな」

「グギャ」

「ギ」

「グゲ」

「だからって、油断は禁物だ。慎重に行くぞ」


 俺たちは気を引き締め、ボスの部屋へ続く扉を開く。

 中に入ると、これまたレッドゴブリンの時と同じような空間が広がっており、中心に一体の魔物の姿が確認できた。

 その魔物はスケルトンと同じ姿をしていたものの、その骨の色は黒色で、眼孔からは青い光が仄暗く揺らめいている。

 しかも、よく見ると手にはさび付いた剣と盾が握られていた。ここでまさかのまともな武器を持ってる魔物が出てくるとは……。

 その魔物を警戒しつつ、すぐに【鑑定】スキルを発動させる。


【スケルトン・ソルジャー≪特殊個体≫Lv:1】


「と、特殊個体!?」


 何だそのヤバそうな雰囲気の文字列は!

 ソウガは変異種だったが、コイツはさらにヤバいのか!?

 てか、称号の効果が働いてたりする? あのユニーク個体に出会いやすいっていう……。

 思わず冷や汗を流していると、敵のスケルトン・ソルジャーが動いた!


「っ! ソウガ、コウガ!」

「ギャ!」

「ギ」


 スケルトン・ソルジャーは容赦なくこちらに近づき、手にしていた剣を振り下ろすと、それをコウガが棍棒をクロスさせながら受け止め、その隙にソウガが一撃を放つ。

 だが、スケルトン・ソルジャーはもう片方の手にしていた盾を使い、ソウガの攻撃を防いでしまった。

 ただし、ソウガのように受け流す技術はないようで、衝撃はそのまま通り、スケルトン・ソルジャーが吹き飛んでいく。

 それに追撃するかたちで、リョーガがスケルトン・ソルジャーに迫り、棍棒を振るうが、体勢を立て直したスケルトン・ソルジャーに盾で防がれ、そのままリョーガを吹き飛ばしてしまった。


「グゲッ……!」

「リョーガ! 『浄化』!」

「――――!?」


 吹き飛ぶリョーガに追撃しようとするスケルトン・ソルジャーを止めるため、すぐさま『浄化』の魔法を放つと、スケルトン・ソルジャーはその光を嫌がり、追撃の手を止め、距離をとった。

 ……称号で特殊個体が出るなら、魔物と仲良くなれるって効果も発揮してくれていいと思うんだ。見てみろよ、あの殺気に満ちた雰囲気。友好的に行けそうな雰囲気が一切ねぇぞ。

 てか、こっちは恐らく同じランクであるソウガとコウガの二体いるのに、それに張り合えるスケルトン・ソルジャーって……やっぱり特殊個体だから強いんだろうか?


「でも、数はこっちが上だ。とにかく攻めるぞ……!」


 そう言うと、俺はスケルトン・ソルジャーが嫌がる『浄化』の魔法を唱え、スケルトン・ソルジャーの顔に目掛けて放つ。

 すると、やはりそれを嫌がったスケルトン・ソルジャーは、『浄化』の光を盾で受け止めた。

 だが、顔の前に盾を持ってきたことで、一時的に視界が悪くなることまではさすがの魔物には分からなかったようで、スケルトン・ソルジャーが盾をどかした時にはもう、懐にコウガが潜り込んでいた。


「ギ――!」

「――――!?」


 コウガの攻撃を体勢を崩しながら剣で受け止めるも、その隙をソウガが逃すはずもなく、剣を持つ腕目掛けて棍棒を振り下ろした。


「ギャ」


 その一撃は強烈で、スケルトン・ソルジャーの腕の骨を粉砕し、剣が落ちる。

 そこにすかさずリョーガがも攻撃を加えるが、まだまだレベルが低いため、大したダメージは与えられなかったようだ。

 片腕を失ったスケルトン・ソルジャーは、残る盾を持つ腕を振り回すと、ソウガたちは一時的に距離をとる。

 だが、そうやって振り回していても、この攻撃はちゃんと防御したがるはずだ。


「そら……『浄化』!」

「――――!」


 再び俺から放たれる『浄化』の魔法を確認したスケルトン・ソルジャーは、やはり俺の思った通り、盾でその魔法を受け止めた。

 その瞬間、俺は『テレポート』も唱え、一瞬でスケルトン・ソルジャーの背後に移動すると、がら空きの背中目掛けて『浄化』を放つ。


「『浄化』!」

「――!? ――――!」


 ついに『浄化』をもろに食らったスケルトン・ソルジャーは、声なき叫び声を上げると、耐え切れず膝をついた。

 そこからはもう一方的で、ソウガとコウガによる棍棒の嵐に、時々リョーガの一撃も加わりつつ、スケルトン・ソルジャーはそれらを受けきれずに光の粒子となって消えていくのだった。


『レベルが上がりました。【骸骨の間】の攻略に成功しました。称号【ユニーク・ハンター】を獲得しました』


 ……また、称号も増えるのだった。

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