第14話

「ここが二階層か……」


 翌日。

 もろもろの支度を終え、ついにダンジョンの二階層へ来たわけだが、中の雰囲気は一階層と大差なかった。

 ただ、若干薄暗いような気もするし、どんよりとした空気が漂ってるような気もするが……果たしてこの感覚が正しいのかは分からない。


「名前の雰囲気的に、骸骨みたいな魔物が出ると思うんだけど……」


 骸骨の魔物となると、漫画やライトノベルでおなじみのスケルトンだろうか。

 神聖魔法もあるので、アンデッド系は倒せると思うが、スケルトンって作品によっては普通に攻撃で倒せる場合も多いし、その方がありがたい。

 まあ骨だからな。骨を砕けば動けなくなるのは当たり前か。特に俺たちはまともな武器が棍棒だけなので、相性もいい。

 とはいえ、警戒するのは変わらない。


「さて……リョーガは初戦闘だし、ソウガたちがフォローしてくれよ?」

「ギャ」

「ギ」

「グゲ」


 今回から参加するリョーガだが、ソウガたちと顔合わせした時も特に問題はなく、上手くやっていけそうだった。

 というのも、進化前のゴブリンであることと、何より一番新参者だからか、どこか真面目な感じのリョーガは二匹を敬っているようで、非常に礼儀正しい。

 皆の様子に安心しながらも、俺は気を引き締め、ダンジョンを進んだ。

 道中、一階層の時にもあったような罠を見つけては解除しつつ、進んでいると、個の階層に来て初めての魔物の反応を察知する。

 【高性能マップ】に【気配察知】が統合されたとはいえ、気配を察知することはできるようだ。


「地図を見る限り……コイツは敵だと」


 俺にだけ見える地図には、この先の道に魔物がいることを示しており、その色は赤色となっていた。

 これが黄色や緑ならば対応も変わってくるが、赤色であれば潜在的に敵意を抱く存在であるため、倒しても問題ない。

 今俺たちがいる位置は一本道のため、気配を消そうが出会ってしまうため、ひとまず武器を構えながら進む。

 すると、地図に表示されていた魔物の姿が見えてきた。


「あれは……」


 そこには、学校の理科室や保健室に置かれていそうな、骨格標本がそのまま現れたような、人型の骸骨が立っていた。コイツ、人の骸骨が魔物化した存在なんだろうか?

 ゴブリンはその手に棍棒などを握っていたのに対し、目の前の骸骨は何かを持っているようには見えない。

 俺はすぐさま【鑑定】スキルを発動させた。


【スケルトンLv:1】


「レベル1か……」


 レベルだけで見れば、俺たちの方が上だが、レッドゴブリンの例がある。

 レベルが低くとも、ランクが高ければそれだけで強いのだ。レベルが低いからと言って安心できない。

 てか、ソウガたちに【鑑定】を使用すると習得しているスキルまで見ることができるのに、敵の魔物だとレベルと名前しか分からないのは不思議だ。


「幸い一体だけだが……全員で油断せずにいくぞ」

「ギャ」

「ギ」

「グゲ」

「よし。それじゃあ俺の合図とともに攻撃だ」


 俺はすぐさま『ウィンドボール』を手のひらに展開すると、そのままスケルトンへと撃ちだした。


「今だ!」


 それと同時に合図を出すと、ソウガたちが一斉に駆け出す。

 するとついにスケルトンが俺たちに気づき、攻撃体勢を取ろうとするも、その瞬間に俺の放った『ウィンドボール』が直撃し、体勢を崩す。どうやらスケルトンはあまり動きが速いわけではないようだ。

 だが、MPや精神が高い俺の『ウィンドボール』を受けても倒れないことから考えると、耐久力が高いのかもしれない。

 そんなことを思っていると、すかさず体勢を崩したスケルトンの右足目掛けて、ソウガが棍棒を振りぬいた。

 棍棒を受けたスケルトンの足は容易く折れ、スケルトンは膝をつく。

 その隙を逃さず、コウガとリョーガは同時にスケルトンの胴体に棍棒を叩き込んだ。


「――――」


 スケルトンは声のない悲鳴を上げると、光の粒子となって消えていく。

 そして後には、一本の骨が落ちていた。


「まさか、コイツが落とすのは骨なのか?」


 思わずそう呟きながら落ちている骨を拾い上げ、【鑑定】する。


【スケルトンの骨】……スケルトンの骨。


「まんまじゃねぇか!」


 何に使うんだよ! 犬のおやつか!? どのみちいらねぇ!

 使い道の思い浮かばないドロップアイテムにガッカリしつつ、俺はソウガたちに声をかけた。


「はぁ……ひとまず、ここでの初戦闘、お疲れ様。アンデッド系だと思うんだけど、神聖魔法を使わなくても倒せたな」


 幽霊のように実体のない存在じゃないのが大きかったのだろう。魔法だけでなく、物理攻撃でも普通に倒すことができたのは大きい。まだ他に何か出てくるかもしれないが、少なくとも神聖魔法が使えなくても戦えることが分かった。

 もし神聖魔法が常に必要となるのであれば、ソウガたちは戦えなかった可能性もあるからな。その場合は俺一人で戦うことになる。

 できればソウガたちが神聖魔法を覚えるか、神聖魔法の効果を付与できるようなスキルや魔法が欲しいな。スキルの中にそういったものがあるのか、それとも魔法のレベルを上げれば自然と覚えるのか……ここは確認しないと分からんな。


「よし、この調子で進んでいくぞ」

「ギャ」

「ギ」

「グゲ」


 ソウガたちの言葉を受けながら、俺たちはダンジョンの奥へと向かって行くのだった。


***


「ん? ここは……」


 しばらくダンジョンを進んでいくと、【高性能マップ】に妙な反応があることに気付いた。

 というのも、敵や罠の反応でも、ソウガたちのような味方の反応でもなく、中立を示す黄色の反応なのである。


「もしかして、スケルトン以外の魔物もいるんだろうか?」


 その黄色の反応はマップ上から動くことなくその場にとどまり続けているが……あれ、これって魔物の反応か?

 首を傾げながらも反応のある場所まで来たのだが、そこに魔物の姿はなかった。


「んー?」


 どれだけ見渡しても、魔物らしきものがいるようには見えない。

 ソウガたちも特に警戒していないことからも、魔物がいるようには思えなかった。


「特別に擬態が上手い魔物でもいるんだろうか……」


 そんな風に思っていると、俺はふと壁の一部に違和感を感じる。


「何だ? 罠……じゃないっぽいが……」


 罠を前にした時のような嫌な感じはしないものの、その壁に何かがあるのを感じていた。

 俺の【不幸感知】でも特に嫌な予感はしないので、ひとまず壁を念入りに調べてみる。

 すると、壁の一部がスイッチのようになっており、不意にそこに触れた瞬間、目の前の壁が横にスライドした!


「ええっ!? な、何だあ!?」


 思わず壁から離れ、武器を構えるも、特に何かが襲ってくる気配はない。

 いきなりのことに驚いていると、俺の目の前にメッセージが出現した。


『称号【暴き見る者】を獲得しました』


「しょ、称号?」


 このタイミングで称号を手に入れたということは、この状況は何かしら特別なことだったのだろう。

 俺は警戒しながら称号の効果を確認する。


【暴き見る者】……世界で初めて隠し部屋を発見した者。

効果:ダンジョン内の隠し部屋の発見率上昇。隠匿系スキルや気配遮断系スキルの看破率上昇。


「隠し部屋!?」


 どうやらこの壁の向こうは、ダンジョンの隠し部屋らしい。てか称号の効果すごいな!

 【高性能マップ】で敵性反応はあらかじめ知ることができるが、それも気配を絶つのが上手い魔物だと、とこまで通用するのか分からない。

 だが、この称号があるおかげで、より魔物からの奇襲の確率が減るようだ。

 というより、どうやら黄色の反応は隠し部屋への通路を開く、スイッチだったようだ。魔物でも見方でもないから中立の反応なのか。


「思わぬ収穫だが……」


 俺はついソウガたちを見ると、彼らは俺の意思に従うようで、大人しくしている。


「……よし、じゃあこの隠し部屋に入ってみるか」

「ギャ」


 ソウガとリョーガを先頭にしつつ、真ん中に俺、そして後ろからの奇襲に備え、コウガを最後尾に配列して隠し部屋へと進む。

 こうしてみると、ソウガたちに危険な役目を押し付けてるので、酷いヤツだと思われるかもしれないが、今のソウガたちは俺が死ななければ復活可能であり、逆に俺が死ぬと全滅するのだ。何が何でも俺が死ぬわけにはいかない。

 警戒しながら部屋に入った俺たちだが、その先の光景に呆気にとられる。


「た、宝箱?」


 そこに置かれていたのは、まさにRPGでよく見かけるような、ザ・宝箱と言わんばかりのものが一つだけ、部屋の真ん中にポツンと置かれていた。

 それ以外に物は置かれておらず、他の通路に続く道もなければ、魔物の姿もない。

 本当に宝箱が置いてあるだけの空間だった。


「隠し部屋には宝箱が置いてあるのか……」


 逆に隠し部屋にしか宝箱は存在しないのかとか、色々不明な点も浮上したが、まずは目の前の宝箱だ。

 ゲームとかなら宝箱に擬態した魔物もいるし、迂闊に近づかない方がいいんだろうが、【高性能マップ】では特に反応はなく、宝箱に罠が仕掛けられてるといったこともなさそうだ。


「……ソウガ、開けてくれるか?」

「ギャ」


 だが、万が一俺に感知できないような罠があっても困るので、ソウガに宝箱を開けさせる。

 すると、特に魔物に擬態していたわけでもなく、罠も発動せず、中からペンダントが出てきた。


「ギャ」

「ペンダント?」


 ソウガからペンダントを受け取りつつ、【鑑定】を発動する。


【身代わりのペンダント】……S級アクセサリー。一度だけ、装備者に対する致命傷を防ぐ。効果を再発動させるのに一日かかる。宝石が青い時は効果を発動可能。発動後は、赤色に染まる。


「すげぇな!?」


 俺は思わず声を上げてしまった。

 なんせ、効果がまさに俺好みというか、求めていたようなものだったからだ。もしかして【鬼運】が働いてる?

 しかも、説明にあるS級アクセサリーって部分を見る限り、装備品にもランクがあるみたいだ。


「やった……これで【危機脱出】スキルと合わせて、より死ににくくなったぞ」


 ありがたいことに、ペンダント自体はシンプルな作りをしていて、小さな青い宝石のようなものが付いているだけで、普段から身に付けていてもおかしくなかった。

 思わぬ収穫にホクホクしながら早速装備すると、続けてメッセージが出現した。


『称号【ザ・トレジャー】を獲得しました。称号【着飾る者】を獲得しました』


「また称号!?」


 驚きながらもすぐに称号の効果を確認していく。


【ザ・トレジャー】……世界で初めて宝箱を発見した者。

効果:職業『トレジャー・マスター』の解放。宝箱の発見率が上昇。魔物からのアイテムドロップ率上昇。

【着飾る者】……世界で初めてS級装備品を装備した者。

効果:装備品の制限解放。


「す、すげぇ……」


 【身代わりのペンダント】でもだいぶ驚いたが、また称号で驚かされることになった。

 特に【ザ・トレジャー】に関しては、今回の様な宝箱が見つけやすくなるだけでなく、魔物からのアイテムドロップ率まで上昇させてくれるみたいなのだ。

 その上新たに職業まで解放されて……いうことがない。

 【着飾る者】の方は、正直装備品の制限解放って言われてもピンとこなかった。あれかな、ランクが高い装備品だと、何か条件を満たさないと装備できないのが俺は関係なくなるとかそんな感じか? どのみち悪いことじゃないだろう。


「ていうか、世間にもダンジョンが出現してるのに、隠し部屋も宝箱も見つかってなかったんだな……」


 もし仮に隠し部屋にしか宝箱が存在しないのだとしたら、確かに見つけるのは難しいかもしれない。ダンジョンを攻略中というニュースはよく見るが……確か、攻略されたダンジョンはまだ一つだけだったはずだ。そのダンジョンには隠し部屋がなかった可能性もある。

 それに、他の人のステータスがどうなのかは知らないが、少なくとも俺は【高性能マップ】がなければ発見できた自信はない。

 S級装備品に関しては、これは完全に俺の【鬼運】とかが働いた結果だろうから、他にまだ獲得できている人がいなくてもおかしくなかった。

 一応、ここまでの確認も込めて、ステータスを表示してみる。


名前:神代幸勝

年齢:22

種族:人間Lv:15

職業:召喚勇士Lv:10、トレジャー・マスターLv:1

MP:76(+25)

筋力:62

耐久:61

敏捷:60

器用:59

精神:77

BP:0

SP:15

【オリジンスキル】

≪鬼運≫≪不幸感知≫

【ユニークスキル】

≪システム≫≪スキルコンシェルジュ≫≪魔力支配Lv:4≫≪魔法創造≫≪危機脱出Lv:1≫≪高性能マップ≫

【スキル】

≪精神安定≫≪鑑定Lv:4≫≪気配遮断Lv:5≫≪契約≫≪罠解除Lv:5≫≪隠匿Lv:5≫≪夜目≫≪超回復・魔≫≪超回復・体≫

【武器】

≪棒術Lv:5≫≪投擲Lv:2≫

【魔法】

≪火属性魔法Lv:2≫≪水属性魔法Lv:3≫≪風属性魔法Lv:2≫≪土属性魔法Lv:3≫≪木属性魔法Lv:3≫≪雷属性魔法Lv:2≫≪神聖魔法Lv:2≫≪空間魔法Lv:3≫≪生活魔法≫≪召喚術≫

【称号】

≪先駆者≫≪未知との遭遇≫≪原初の超越者≫≪原初の魔術師≫≪魔と友誼を結ぶ者≫≪悪意を見抜く者≫≪制圧者≫≪孤高≫≪暴き見る者≫≪ザ・トレジャー≫≪着飾る者≫


 まだ二階層に挑戦してからそこまで時間も経ってないし、最初のスケルトン以外戦闘もしていないので、称号や新たに手に入れた職業以外は変わった点はなかった。てか、こうしてみるとスキルも称号もかなり多いな……。


「さて、これ以上ここには何もないみたいだし、先に進むか。新しい職業のレベルが上がるとどうなるのかも気になるしな」

「ギャ」

「ギ」

「グゲ」


 俺は改めて三匹に声をかけると、ダンジョンの攻略に戻るのだった。

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