第13話
「フッ!」
「ギャ!?」
【成長する迷宮】の一階層に挑戦している俺たちは、ゴブリンの群れを殲滅していた。
それこそコウガを仲間にする前は二体、または三体を基本的に狙い、四体以上はなるべく避けるようにしていたのだが、今は四体以上でも気にすることなく戦っている。
というのも、ソウガが進化し、コウガという新たな仲間ができたからこそ、できるようになったことだった。
ちなみに今のソウガとコウガのステータスはこんな感じである。
【ソウガLv:1→3】
≪棒術Lv:5→6≫≪受けLv:4→5≫≪模倣≫
【コウガLv:1→3】
≪棒術Lv:4≫≪二刀流≫
ソウガはかなりテクニックタイプというか、棍棒を非常に巧く扱うのだ。持っている武器こそ棍棒だが、立ち振る舞いや武器の振り方は刀に近いかもしれない。これも全部、ソウガがハマって見ていた動画が刀術系のものが多かったのも原因の一つだろう。
それに対してコウガはパワータイプで、あまり深く考えずに両手の棍棒を振り回す。
ソウガはそんなコウガの攻撃を上手く受け流したりしているが、コウガの筋力はかなりすごいので、そうそう簡単に受け流せるような威力ではない。
口数こそソウガの方が多いし、感情も豊かで、コウガは逆に口数が少なく、感情もあまり表に出さない。
そんな性格的な面で見ると、戦闘スタイルなんかは逆なイメージというか、偏見があったが、これはこれで面白かった。
「ていうか、俺って称号の効果で魔物に好かれやすいんだよな……? こんなに倒してるけど、大丈夫なんだろうか?」
事実、レベル上げのために俺たちから攻撃を仕掛けることが多いが、逆に魔物たちから襲ってくることも多い。そのため、どこまで称号の効果が働いているのか分からなかった。
「あれかな、ソウガみたいな変わったヤツ限定なのかな?」
基本的に魔物というかゴブリンは、人間である俺をまず狙ってくる。
そこには純粋な殺気が込められているので、友好的じゃないことはすぐに分かった。
「……まだまだモデルケースが少ないからなぁ。悩ましいところだ」
そりゃあ戦わないで済むならそれでいいが、レベルも上げないといざというときに困る。だからって身を隠せるのにわざと相手に見つかってから対応してると、それだけ危険な相手への優位性が失われるわけで……。
「……なんか相手の敵意とか友好度らしきものを見分けられるスキルがあるんだろうか?」
今の俺はSPを使わずにためている。
それは【時属性魔法】や【魔の神髄】、【武の神髄】なんかのスキルを習得するためだ。
この三つは人よりSPが多くもらえる上に、スキルを習得する際のSPも人より少なくなっているにも関わらず、最低でも30必要なのだ。どれだけ強力なんだろう。
俺はまだレベルを6上げれば済むが、他の人はもっと大変なんだろ? ヤバいな……。
とにかく、この中で一番消費SPが少ない【時属性魔法】を習得してから考えよう。少なくとも欲しいスキルを手に入れるにはレベルを上げる必要があるわけだし。
「魔物の友好度もだけど、魔石の契約も上手くいかないよなぁ」
「ギャ?」
たった今倒し終わったゴブリンは魔石と棍棒を残し、それを拾ってきてくれたソウガが首を傾げる。
何度かこうしてダンジョンに潜り、ゴブリンを相手にする中で、たくさんとは言わないが、魔石を手に入れる機会は何度かあった。
しかし、そのすべての契約に失敗しているのである。
魔石をためて、還元したGを使ってショップで何かを買った方が得なんじゃないかとも思ったが、現状俺が必要としそうなアイテムが思いつかないし、あったとしてもそれを買うにはとんでもない量の魔石が必要になる。ゴブリンから手に入る魔石はE級なので、還元しても1Gにしかならないからだ。せめてレッドゴブリンのようなD級の魔石をコンスタントに手に入れられないと話にならない。
今拾ってきてくれた魔石も契約を試みたが、見事に失敗した。
もはや見慣れた光景だからか、最初こそソウガやコウガもガッカリしていたものの、今となっては何の反応もない。悲しいなぁ。
「魔物の友好度に契約……他に魔法も……課題が山積みだ」
俺は自分の想像した魔法が使えるっていう称号を持っているにも関わらず、一度もオリジナル魔法を創ったりしていない。
それどこか、レベルに伴って覚えた現状使える魔法すら、まともに確認していないのだ。
【火属性魔法】と【雷属性魔法】は何となく使っていないものの、他は少しは使ったので、レベルも上がっている。
だが、どれも初期から覚えている魔法しか使っておらず、スキルレベル2以上で覚えた魔法は一度も使っていない。
「『ウォーターボール』とか『アースボール』なんていう、ゲームではよく見かける攻撃魔法っぽいものも覚えたんだけどなぁ」
せっかくだし、次のレベルが上がるまではその魔法を使って戦ってみるか。次の階層では魔法がないと厳しい可能性もあるしな。
「よし、それじゃあもういっちょ、ゴブリンの群れを探すか!」
「ギャ!」
「ギィ」
ゴブリンの群れを探すため、俺たちは再びダンジョン内を歩き始めるのだった。
***
「『ウォーターボール』!」
「グゲェ!?」
俺はゴブリン目掛けて、圧縮された水の球を放った。
水球の大きさはだいたいバスケットボールくらいのサイズで、しかもそこそこの速度で打ち出されるため、結構なダメージになっている。というか、この一階層のゴブリン相手であれば一発で倒せていた。
今も俺の放った魔法はゴブリンに命中し、そのまま壁まで吹き飛ばすと、ゴブリンは光の粒子となって消えていく。
「うーん……同じ水属性魔法魔法でも『ウォーター』じゃ倒せなかったけど、スキルレベル2で覚えた『ウォーターボール』なら倒せるのか……」
何て言うか、どの属性魔法にも言えるのだが、最初から覚えている魔法は本当に初歩的というか、殺傷性がほとんどないものばかりで、まともにダメージを与えることができない。
魔法の威力は精神かMPで変わると思うんだが、その二つは俺のステータスの中でも飛びぬけているにも関わらず、最初の魔法じゃ倒せないのだ。俺の推測が違っている可能性もあるが、最初から使える魔法は直接的な攻撃魔法じゃないって考える方がいいだろう。こう、魔法に慣れるためのものみたいな。
逆にスキルレベルが2に上がると、『~ボール』とその属性の球体を操る攻撃魔法を覚える。これがさっき使った魔法だが、ここで確実に相手を倒すことができるようになった。いくらスキルレベルが一つ上の魔法とは言え、そんなすぐに倒せるほど威力が上がるとは思わないので、やはり魔物を倒せているのは俺のステータスが高いからで、スキルレベル1の魔法は攻撃性がないって考える方がいい気もする。
もちろん、使い方を考えればスキルレベル1の魔法でも倒せるだろう。
例えば『ウォーター』なんて、相手の顔を掴んで無理矢理水を口や鼻に流し込み続ければそれだけで溺れるだろうし。
ちなみに、スキルレベル3で覚えるのは『~シールド』というその属性ごとの盾だった。ちょうど人ひとりを護れるくらいの大きさの盾が、水や土で作られ、目の前に現れるのだ。これが意外に頑丈で、一階層のゴブリンの攻撃ではびくともせず、コウガやソウガが本気で何度か殴らなければ突破されなかった。この防御系の魔法は身を護る上で役立つだろうし、嬉しい。
ちなみに、神聖魔法と空間魔法は少し特殊で、神聖魔法のレベル2で覚えたのは、『浄化』というスキルだった。
これはアンデッド系の魔物に効果があるらしいんだが……このダンジョンの二階層の名前が『骸骨の間』って言うらしいし、骸骨系の魔物なんてそれこそアンデッドだろうからそこで活躍しそうである。
空間魔法は、スキルレベル1では『テレポート』だったが、スキルレベル2で『アポート』を覚え、レベル3で『アスポート』を覚えた。
『アポート』は離れた位置にあるものを手元に転移させる魔法で、『アスポート』はその逆である。
まだ全然使っていないが、上手く使えれば戦略の幅が広がりそうだ。
「まだ火属性魔法と雷属性魔法を使ってないし、次使ってみるか……」
火属性は最初にこのダンジョンを挑む際、酸素のことがどうとか考えたせいで、無意識のうちに使うのを忌諱していたのだ。雷属性は……あれ? なんで使わなかったんだろう。特に理由が浮かばない。
スキルレベル1で使える火属性魔法は『ファイア』であり、雷属性魔法は『スタン』である。
『ファイア』はそれこそ薪に火をつけるとか、そんなレベルの火でしかないが、『スタン』は当たれば対象を痺れさせることができるみたいだ。いや、本当になんで雷属性魔法は使ってなかったんだろう?
思わず首を捻りながらも、ダンジョンを進んでいると、二体のゴブリンを発見する。
「ソウガとコウガは一体を相手にしてくれ。もう一体を俺一人で相手するから、もし危なそうに見えた瞬間に手助けを頼むぞ」
「ギャ」
「ギ」
声を潜めてやり取りを終えると、タイミングを見計らってゴブリンたちの前に飛び出した。
「ギャ!」
「ギィ」
「グゲェ!?」
気配を消していたことで、突然現れたように感じた相手のゴブリンは驚くだけで、反撃する様子を見せない。
その隙を二匹が逃すはずもなく、相手ゴブリンの一匹は呆気なく倒された。
「『スタン』!」
そして、もう片方の驚いているゴブリンに俺は早速『スタン』を発動させると、ゴブリンはビクン! と一瞬体を痙攣させ、その場に崩れ落ちた。
そこですかさず『ファイア』を放つが、やはりダメージはほとんどない。多少の火傷を負わせることはできたが、倒すことは難しそうだ。
なので、俺は『ファイア』で倒すことを諦めて『ウィンドボール』を倒れているゴブリン目掛けて放つ。
真上から叩き落すように放たれた『ウィンドボール』は、そのままゴブリンを地面に軽くめり込ませると、ゴブリンはそのまま光の粒子となって消えていった。
ゴブリンが消えた後には、棍棒と魔石が落ちている。
『レベルが上がりました。【召喚勇士】のレベルが10になったため、【簡易契約】が解放されました』
「簡易契約?」
ドロップアイテムを拾っていた俺は、その手を止めてメッセージに目を向けた。
レベルアップまでは長かったものの、元々の目的だったこともあり、驚きはない。
だが、まさか【召喚勇士】のレベルが上がったことで、新たな何かが解放されるとは思わなかったのだ。
「……ひとまずダンジョンから出るか。家に帰ってからゆっくり考えよう」
「ギャ」
「ギ」
二匹の賛同を得つつ、早く詳細を確認するため、急いでダンジョンを出る。
ちなみに、ボスの部屋は空の状態であり、ボスが復活するには最低でも半年かかるらしい。なので、ボス部屋の向こうにある転移魔法陣は簡単に使えるが、今いる位置は普通に出口まで移動したほうが速かった。
そんなこんなでダンジョンから外に戻ってきた俺は、ダンジョンの渦を消すと、家に戻る。
今日はもう、畑仕事もダンジョンも向かうつもりはないので、ソウガとコウガはお風呂に向かって行った。
「んで? 何なんだ? 『簡易契約』ってのは……」
改めて出現したメッセージや情報を整理すると、『簡易契約』は魔石を用いて行う契約だが、普通の契約と違うのは確実に契約できるという点だった。
ただし、ソウガやコウガの様に名前を付けることはできず、普通の契約を行った魔物より成長が遅くなるらしい。魔物に名前を与えることに何か意味があったのかは分からないが、見た感じデメリットらしきものはその二点だけのようだ。
むしろ、『簡易契約』で戦力は増えるし、普通の契約と同じで俺のMPにその存在維持分だけ新たに追加されることを考えるとかなりいいように思える。
ここまで見た感じ、少数精鋭を揃えたいなら普通の契約で、手っ取り早く数を揃えたりMPを増やしたいなら簡易契約って感じか。悩ましいところだなぁ。ソウガが進化したことを考えれば、普通に契約して成長させる方が強くなりそうな気もするが、数を揃えるというのも案外バカにならない。まああの狭いダンジョンの空間にたくさん魔物を呼び出しても動きにくくなるだけな気もするが……。
「まあ、せっかく今手元にゴブリンの魔石があるし、今回は『簡易契約』してみるか」
早速『簡易契約』を発動させてみると、そこには見慣れた緑色の皮膚を持つゴブリンが。
一応、【鑑定】スキルを発動させてみる。
【ゴブリンLv:1】
≪棒術Lv:1≫
んー。超シンプル。
そしてソウガたちの時の様に、名前を付けるかどうかは聞かれなかった。まあ勝手につけて呼ぶ分には問題ないだろうが……。
すると、呼び出されたばかりのゴブリンは黙って俺を見つめていることに気付く。
「おっと、すまん。ゴブリンって呼ぶとややこしくなりそうだし……ひとまずリョーガって呼んでいいか?」
「グゲ」
「そうか。それじゃあ改めてよろしくな、リョーガ」
俺の言葉に、ゴブリン……リョーガは頷く。ソウガやコウガと違い、コイツは何だか真面目というか、ピシっとした感じがする。
ちなみに名前はソウガやコウガと同じで色と鬼から付けたわけだが、緑だとリョクガになって呼びにくそうだし、リョーガにした。
って、あれ? もし『簡易契約』でゴブリンをたくさん増やしていったとして、名前をいちいちつけてたら覚えられるのか?
……うん、名前を付けるのも少し考えよう。たくさんゴブリンと契約したら『行け! ゴブリン軍団!』みたいな指示だけで行けそうだし。
ひとまず『簡易契約』の件が終わった俺は、BPを振り分ける前にダンジョンを攻略中に思いついた、友好度に関するスキルがないかを【スキルコンシェルジュ】で調べてみた。
すると……。
『習得推奨スキル【敵意感知】』
「【敵意感知】か……」
消費SPは意外なことに5も使うようだが、効果はかなり優秀だった。
というのも、潜在的に相手がスキル保有者にとって敵かどうかを見分けることができるようだ。
「まあ今回レベルが上がった分がプラマイゼロになるだけだし、これを習得しちまうか」
悩んでても仕方がないので、サクッとそのスキルを習得した瞬間、別のメッセージが出現した。
『スキル【気配察知】、【地図】、【罠感知】、【敵意感知】が揃いました。スキルを統合します』
「統合!?」
いきなりのことに驚いていると、俺の了承もなくスキルは勝手に統合されてしまった。
『統合完了。スキル【高性能マップ】を習得しました』
「【高性能マップ】って……」
何だ、その安易なスキル名は。本当に高性能なんだろうな?
何とも言えない気持ちでスキルの効果を確認すると、俺は目を見開く。
【高性能マップ】……自動マッピング機能に加え、スキル保有者に対する敵性反応や罠は赤、中立反応は黄色、味方の場合は青色で表示することが可能。
「高性能だった!?」
まさに【地図】スキルに【気配察知】と【罠感知】、そして今しがた習得したばかりの【敵意感知】が混ざったようなスキルになっていた。いきなり統合された時はふざけんなって思ったが、これなら文句はない。むしろありがたいくらいだ。
「よし、まああとはいつも通りBPを振って終わるか」
こうしてBPを振り分け終えた俺のステータスはこうなった。
名前:神代幸勝
年齢:22
種族:人間Lv:14→15
職業:召喚勇士Lv:9→10
レベル:14→15
MP:71→76(+25)
筋力:57→62
耐久:56→61
敏捷:54→60
器用:53→59
精神:72→77
BP:20→0
SP:20→15
【オリジンスキル】
≪鬼運≫≪不幸感知≫
【ユニークスキル】
≪システム≫≪スキルコンシェルジュ≫≪魔力支配Lv:3→4≫≪魔法創造≫≪危機脱出Lv:1≫≪高性能マップ≫
【スキル】
≪精神安定≫≪鑑定Lv:4≫≪気配遮断Lv:5≫≪契約≫≪罠解除Lv:5≫≪隠匿Lv:5≫≪夜目≫≪超回復・魔≫≪超回復・体≫
【武器】
≪棒術Lv:5≫≪投擲Lv:2≫
【魔法】
≪火属性魔法Lv:1→2≫≪水属性魔法Lv:3≫≪風属性魔法Lv:2≫≪土属性魔法Lv:3≫≪木属性魔法Lv:3≫≪雷属性魔法Lv:1→2≫≪神聖魔法Lv:2≫≪空間魔法Lv:3≫≪生活魔法≫≪召喚術≫
【称号】
≪先駆者≫≪未知との遭遇≫≪原初の超越者≫≪原初の魔術師≫≪魔と友誼を結ぶ者≫≪悪意を見抜く者≫≪制圧者≫≪孤高≫
「【高性能マップ】ってユニークスキルだったのかよ!?」
まさかの事実に俺は驚く。ま、まあ、ユニークスキルであって困ることはないし、いいんだけどさ。てか能力的にユニークスキルじゃない方がおかしいくらいだ。何ならオリジンスキルでもいいんじゃない? って気もするが、オリジンスキルは他とは本当の意味で違うのだろう。
って言うより、スキルはほとんど育ってない。結構戦ったりしたんだが、やはり一階層はもう俺たちの適正レベルじゃないんだろう。
「なら、目標のレベルに到達したし、明日は早速二階層に挑んでみるかね」
「グゲ」
「ん、頼りにしてるよ、リョーガ」
新たに仲間になったリョーガにそう声をかけつつ、俺やリョーガも風呂に入り、そのまま眠りにつくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます