第11話
あのメッセージの後、色々考えることが増えた俺は、ひとまず帰ることを優先した。
その結果、ダンジョンボスであったレッドゴブリンを倒したことで、部屋の奥の扉が開き、そこに行くと入り口まで一瞬で転移できる魔法陣らしきものがあったので、使ってみると問題なく外に帰ってくることができたのだ。
ただ、外に出たにも関わらず、ダンジョンの入り口は相変わらず存在しており、これまた頭を悩ませることになるのだが、ひとまずダンジョンボスを倒してクリアしたこともあって、その問題は後回しに。恐らくこれがあの【制圧者】の称号の効果に関するものなんだろうし。
そんなことよりも今は――――。
「進化、だよなぁ……」
「ギャ?」
ソウガはよく分かっていないようで、俺の言葉にただただ首を傾げるだけだった。
一応、ソウガのことを【鑑定】してみたのだが、俺はレベルが上がっていたのに対して、ソウガはレベル10のままだったのだ。
もしかしたら今のソウガのレベルは10より上には上がらないのかもしれない。
つまり、ソウガが強くなるには進化する必要があるかもしれないのだ。というより、進化って言うくらいだから弱くなるはずがない。
ここで俺があれこれ考えても仕方ないので、本人に訊いてみる。
「なあ、ソウガ。お前進化できるらしいけど……したいか?」
「ギャ? グゲ」
すると、ソウガは真剣な表情で一つ頷いた。
「そうか……まあお前がしたいんなら、俺が止める理由もないよな」
ソウガの意思を確認した俺は、改めてメッセージを見ると、そこに書かれていた『はい』という文字に意識を向ける。
その瞬間、ソウガの体が光り始めた!
「うっ!?」
思わず顔を腕で庇うと、やがて光が収まっていった。
もう大丈夫だと思った俺は、ソウガに視線を向けると、そこには少しだけ姿の変わったソウガの姿が!
「グギャ?」
大きく姿が変わったわけではないものの、少し体が大きくなり、何よりあのレッドゴブリンの様に青い皮膚に黒いラインが走っていた。
ソウガは自分の体の変化を確かめるように体のあちこちを確認していき、満足げに頷く。
「ギャ」
「気に入ったのか? ならよかったよ」
どこか嬉しそうなソウガの様子に俺もつられて笑みを浮かべながら、ソウガを【鑑定】してみた。
【ソウガ(ブルーゴブリン)Lv:10→1】
≪棒術Lv:5≫≪受けLv:3→4≫≪模倣≫
どうやらソウガはゴブリンの変異種から、ブルーゴブリンという種族へと進化したらしい。
進化した影響か、ソウガ自身のレベルは下がっているものの、強くなっているはずだ。
これを考えると、あのレッドゴブリンは今のソウガと同じように、ゴブリンがレベル10になった上で進化した存在だったのだろう。そう考えるとあの強さも納得がいく。どおりでレベル1なのに強いわけだ。レッドゴブリンの魔石はゴブリンの魔石と違ってD級だったわけだし。単純に考えるとゴブリンがE級の魔物であるのに対して、レッドゴブリンはD級の魔物になるのだ。ゲームやネット小説の知識で考えるのなら、D級はE級より強いはず。
これからはレベルが低くても侮れないな。
「よし、ソウガの進化も終わったところで、俺もBPを振ってしまうか」
称号を確認した時に振り分けてもよかったのだが、落ち着いてステータスは考えたかったので後回しにしていたのだ。
そんな感じで俺は自分のステータスを表示させる。
名前:神代幸勝
年齢:22
種族:人間Lv:10→11
職業:召喚勇士Lv:5→6
MP:51→56(+10)
筋力:34
耐久:36
敏捷:34
器用:33
精神:52→57
BP:0→20
SP:31→36
【オリジンスキル】
≪鬼運≫≪不幸感知≫
【ユニークスキル】
≪システム≫≪スキルコンシェルジュ≫≪魔力支配Lv:2→3≫≪魔法創造≫
【スキル】
≪精神安定≫≪鑑定Lv:3≫≪気配察知Lv:4≫≪気配遮断Lv:4≫≪契約≫≪地図≫≪罠感知Lv:4≫≪罠解除Lv:4≫≪隠匿Lv:4≫≪夜目≫
【武器】
≪棒術Lv:4≫≪投擲Lv:1≫
【魔法】
≪神聖魔法Lv:2≫≪召喚術≫≪水属性魔法Lv:2≫≪空間魔法Lv:1→2≫
【称号】
≪先駆者≫≪未知との遭遇≫≪原初の超越者≫≪原初の魔術師≫≪魔と友誼を結ぶ者≫≪悪意を見抜く者≫≪制圧者≫≪孤高≫
「こうしてみると、召喚勇士のおかげでMPと精神が突出してきたな」
MPは増えれば増えるほどありがたい。
今の俺のMPは56だが、ソウガを帰還させれば66になるのだ。
……って、ソウガが進化した恩恵か、プラスされているMPが増えてる!
どうやらソウガが進化したことにより、その存在を形作っていたMPが5から10になったようだ。
とにかく、ソウガが強くなったことでも俺のMPは増えたわけだが、レッドゴブリンと戦っていて思ったのは、やはり一人より二人で戦った方が安全かつ戦略の幅が広がるということ。
ソウガを帰還させてMPタンクとして使用することもできるだろうが、ソウガを召喚していたところで本来の俺のMPになるだけなので何のデメリットもない。もちろんソウガがダメージを受けたりした場合は、その都度MPを消費して復活させたりする必要こそあるものの、一人で戦うより圧倒的に安全なのだ。
「……だっていうのに、【孤高】とかっていう称号のせいで他の人と協力できないんだけどな」
ただ、どういう理屈なのか、ソウガと一緒にクリアしたにも関わらず、ソウガはカウントされていなかった。これが示すことは、ソウガは俺の力というか、能力の一部ということになるのだろう。だからこそ、ソウガと一緒にクリアしたにもかかわらず俺一人でクリアした扱いになったと。
となると、もし契約した魔物の中に回復魔法が使えるような存在が出てきたら、そいつからの回復魔法は無効化することなく恩恵を受けることができるんだろうか? 変な話、俺の能力による回復扱いみたいな。
「まあそこら辺は実際にそういった仲間ができてからじゃないと確認のしようがないんだけどな」
それよりも今はBPの振り分け方だ。
満遍なく振り分けるのもいいかもしれないが、召喚勇士のおかげでMPと精神は余裕がある。
なら、この二つには振り分けず、他の四項目に割り振るのはどうだろうか?
そうなると一項目につき、5のBPを振ることができる。
「……案外、アリかもしれないな」
今回、レッドゴブリンと戦っていて、急所であるはずの頭部を思いっきり殴ったにもかかわらず、倒せなかった。これは俺の筋力値が低いから、ダメージが与えられなかったのだろう。
正直、器用はどう作用しているのか分からないが、高くてダメということはないはずだ。
「これからどう仲間が増えていくのかにもよるが、なるべくいろいろできた方がよさそうだ」
幸い俺は、称号のおかげで他の人よりBPが多いのである。極振りしたり、方向性を決めずに振り分けても弱くなることはないだろう。
「BPの方は四項目に振り分けるとして、問題はSPだなぁ」
現状、欲しいスキルというか、必要なスキルが特に思いつかなかったので放置していたが、早いうちから色々習得しておけば、スキルレベルを鍛えることもできるはずだ。
「となると、ぱっと思いつくのは魔法だよな。それと、魔法や武器の扱いを補助できるようなスキルもあればありがたい。あとは……死ににくくするスキルだろうか?」
そう考えながら【スキルコンシェルジュ】を発動させた。
『習得推奨スキル【火属性魔法】、【風属性魔法】、【土属性魔法】、【木属性魔法】、【雷属性魔法】、【氷属性魔法】、【光属性魔法】、【闇属性魔法】、【無属性魔法】、【時属性魔法】、【幻属性魔法】、【隷属魔法】、【結界魔法】、【精霊魔法】、【鍛冶魔法】、【生活魔法】、【呪術】、【忍術】、【錬金術】、【魔の神髄】、【武の神髄】、【超回復・魔】、【超回復・体】、【危機脱出】』
「多いな!?」
そこに表示された魔法の数が尋常じゃなかった。
俺の想像していたような属性魔法を始め、【鍛冶魔法】やら【呪術】といった、想像しにくいものまで実に様々な魔法が表示されたのだ。
というより、ここにあるので全部なんだろうか? それとも扱いやすいとか、基本的なものをピックアップしてくれてるとか?
どちらにせよ、いずれすべて習得できればいいが、残念ながら現在のSPでは全部習得するのは無理だった。
何故なら……。
「ヤバいな……【時属性魔法】だけでSPを30も消費するじゃん……」
文字的に強いのは何となく想像できたが、まさかここまでSPを消費する魔法だとは思わなかった。空間魔法はSP1で習得できたからこそ意外だ。まあ瞬間移動より、時を操る方がヤバい感じはするけどさ。いくら何でも29のSPの差はおかしいだろ。
他にも【魔の神髄】や【武の神髄】とやらはSPを50も消費するのだ。今の手持ちでも習得できない。
ひとまず消費SPを無視しつつ、それぞれの効果を確認していったところ、三つのスキルに注目した。
それは、【超回復・魔】、【超回復・体】、【危機脱出】である。
【超回復・魔】と【超回復・体】は、体力とMPを自然回復させるスキルのようで、かなり使い勝手がよさそうだ。
そして【危機脱出】のスキルだが、正直これが一番俺は欲しい。
このスキルの効果は、あらかじめ場所を登録しておけば、何らかの危機に瀕したり、致命傷を負う寸前で自動的にその登録していた場所まで転移することができるみたいなのだ。
もちろん、一日に何度も使えるスキルではなく、10日に一回だけ使えるらしい。
連続使用はできないが、これがあればより俺の安全はより確実になる。
幸い、【超回復】はどちらもSP7であり、【危機脱出】はSP16なので、これらを習得しても残り6のSPを使うことができた。
残りのSPで習得するなら【火属性魔法】、【風属性魔法】、【土属性魔法】、【木属性魔法】。【雷属性魔法】、【生活魔法】だろう。
個人的には【精霊魔法】も気になるが、精霊の存在を確認できていないので、宝の持ち腐れになる可能性が高い。
「……そうだな。悩んでても仕方ないし、今回はこれらを獲得するか」
今回習得できなかったスキルを目標にレベル上げをすればいいだろう。
そうと決まれば、BP含め、ステータスを操作する。
その結果がこれだ。
名前:神代幸勝
年齢:22
種族:人間Lv:11
職業:召喚勇士Lv:6
MP:56(+10)
筋力:34→39
耐久:36→41
敏捷:34→39
器用:33→38
精神:57
BP:20→0
SP:36→0
【オリジンスキル】
≪鬼運≫≪不幸感知≫
【ユニークスキル】
≪システム≫≪スキルコンシェルジュ≫≪魔力支配Lv:3≫≪魔法創造≫≪危機脱出Lv:1≫
【スキル】
≪精神安定≫≪鑑定Lv:3≫≪気配察知Lv:4≫≪気配遮断Lv:4≫≪契約≫≪地図≫≪罠感知Lv:4≫≪罠解除Lv:4≫≪隠匿Lv:4≫≪夜目≫≪超回復・魔≫≪超回復・体≫
【武器】
≪棒術Lv:4≫≪投擲Lv:1≫
【魔法】
≪火属性魔法Lv:1≫≪水属性魔法Lv:2≫≪風属性魔法Lv:1≫≪土属性魔法Lv:1≫≪木属性魔法Lv:1≫≪雷属性魔法Lv:1≫≪神聖魔法Lv:2≫≪空間魔法Lv:2≫≪生活魔法≫≪召喚術≫
【称号】
≪先駆者≫≪未知との遭遇≫≪原初の超越者≫≪原初の魔術師≫≪魔と友誼を結ぶ者≫≪悪意を見抜く者≫≪制圧者≫≪孤高≫
【超回復・魔】……総MPの十分の一を毎秒回復する。
【超回復・体】……傷を徐々に回復する。体が欠損したとしても、一晩経てば元に戻る。
【危機脱出】……危機的状況に陥った際や、死ぬ寸前、十日に一度だけ、あらかじめ登録しておいた場所に転移する。
「こ、こうやって見るとヤバいスキルだな……」
【超回復・魔】に関しては、俺の全MPの十分の一を常に回復し続けるというとんでもない能力だし、【超回復・体】に至っては体のどこかが無くなっても自然と回復できるようだ本当にとんでもない。回復魔法いらねぇんじゃねぇかとも思ったが、そもそも体が欠損するような状況に陥りたくないし、即座に回復する必要がある場合は回復魔法の方がいいのだろう。
……さて、だいたいのやるべきことはやり終えた。
残るは外に未だに残っている青い渦と、称号の【成長する迷宮】の所有権がどうとかっていう点だが……。
「……そうだな。何かあってもいいように、戦力を増やすのにチャレンジするか」
「ギャ!」
俺の言葉でソウガは何をするのか察したらしく、目を輝かせる。上手くいけば、俺やソウガの仲間ができるわけだからな。
そんなことを考えながら、【倉庫】に仕舞っていたレッドゴブリンの魔石を取り出した。
「……ふぅー」
前回のゴブリンの魔石で行った契約は、失敗してしまった。
だからこそ、緊張する。
今の俺の手元にある魔石は、これしかないのだ。
一応、契約する前に【ショップ】で還元する際のレートを確認したところ、E級の魔石が1Gなのに対し、D級のレッドゴブリンの魔石は10Gだった。
とはいえ、初級回復薬を買うのにはとても届かないので、やはり契約するほうがいい。現状、魔法で回復する手段もあるし、回復薬は急がなくてもいいからだ。スキルも手に入れたばっかだしな。
「今回は成功してくれよ……」
俺は祈るような気持ちのまま、言葉を紡いだ。
「契約――!」
俺の言葉に反応し、魔石は光り輝く。
その光は徐々に大きくなると、やがて一つの形を作り上げた。
それはまさに、俺たちがダンジョンで戦った、レッドゴブリンの姿に他ならなかった。
「ギ」
静かに目を開いたレッドゴブリンは、俺たちを見渡すと、どこか人懐っこそうな笑みを浮かべる。
「ギギ」
「ギャ!」
『【レッドゴブリン】との契約に成功しました。名前を付けますか?』
無事、契約に成功したことを告げるメッセージが出現すると、俺はソウガの時と同じようにレッドゴブリンに名前を付けた。
「お前は……コウガだ」
「ギ? グギ!」
紅の鬼だからコウガ。ソウガと一緒で実に単純だな。
だが、そんな名前をレッドゴブリン……改め、コウガは嬉しそうに受け入れ、気さくな感じで答えた。
「これからよろしくな、コウガ」
「ギ!」
「ギャギャ!」
新たな仲間を迎え入れた俺は、ようやく残り一つの問題に目を向ける。
「さて、あの渦はどうするか……」
窓の外から渦の様子を確認した瞬間、突然俺の目の前にメッセージが現れた。
『現在【成長する迷宮】の活動を休止中です。活動を再開させますか?』
「……マジか」
まさかのメッセージの内容に、俺は唖然とするのだった。
***
――――幸勝がダンジョンをクリアし、ちょうど家に帰ってきた頃。
東京の渋谷に異変が起きていた。
「……ん? 何だ?」
誰が最初に気づいたか。
人通りの多い道の真ん中に、突如青色の渦が出現した。
やがてその異変に次々と人が気づき始めると、皆一様に物珍しそうに集まり、スマホを掲げては写真や動画を撮り始める。
徐々に騒ぎが大きくなる中――――青色の渦は黒く染まり、すさまじいエネルギーを迸らせ始めた。
「お、おい。なんかおかしくね?」
「な、何が起きてるんだ!?」
「何かの撮影?」
誰もかれもが非現実的な光景に呆然とすると、激しく鳴動していた黒い渦は突然静まる。
そんな一瞬の静寂の後、黒い渦は――――災厄へと変わった。
「なあ!?」
「きゃあああああああああああああ!」
「な、何なんだよ、これ……何なんだよこれえええええ!?」
黒い渦から、異形の存在が次々と現れ、近くにいた人間たちを襲い始めたのだ。
それはまるで、おとぎ話の中にだけ存在するような鬼だった。
鬼たちは手あたり次第、近くに人間を襲い、食らっていく。
いつも通りの賑わいを見せていた街は、一瞬にして地獄へと変わった。
今まで物珍しそうに見ていた人間たちは、突然の身の危険にただ逃げ惑うしかできない。
人類が気づかぬうちに、世界の更新は確実に進んでいた。
それが今、こうして表出化しただけ。
人類は迫られていた。
この更新に適応できるか否かを。
――――この日をもって、日常は終わりを告げるのだった。
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