第6話

「ソウガ、そこの皿運んでくれー」

「グギャ」


 ソウガと契約して早くも一週間が経過した。

 その間は、ゴブリンの襲撃もなく、実に穏やかな日々を送っており、ソウガもこの家での暮らしに馴染んだ。

 一緒に暮らすにあたり、色々と手伝うように頼んだのだが、ソウガは嬉々として手伝ってくれた。

 おかげで、庭の草掃除も早く終わったし、今も皿運びや風呂の掃除など、実にいろいろと働いてくれる。

 そんなソウガだが、俺の作る料理はもちろんだが、何より風呂にハマったみたいで、一日の終わりには一緒に風呂に入ると、とても楽しそうに鼻歌を歌うのだ。……まあ俺には理解できない音程というか、ゴブリンならではの音楽なのか、実に特徴的な音楽だ。

 それと、魔物の襲撃はなかったが、またいつ遭遇してもいいようにソウガには棍棒を使った戦闘を頼むため、少し棍棒を振っているところを見せてもらったのだが、かなり滅茶苦茶に振るだけで、特に決まった型などは感じられなかった。

 だから、どこまで効果があるのか分からないが、一応剣道のような素振りだったり、ネットで棍棒じゃないにしても、棒術の動画なんかを見せてあげたりすると、これまたソウガはハマり、時間が空いているときは動画にかじりついているか、それを実践しようと庭で素振りらしきものをし始めるのだ。

 それがソウガの日課になり、そこで流した汗をお風呂でサッパリするのがお気に入りらしい。うーん、実に健康的な生活だな。

 そんな感じで、最近はゆったりと平穏な時間を過ごせているのだが、一つだけ変わったことがあった。


「ん? またか?」

「グギャ」


 朝食の準備をしていた俺たちだが、突然家が揺れ始めたことで動きを止める。

 そう、最近はやたらと地震が多く発生するようになったのだ。

 しかも、テレビやネットで震源地を調べても、何故か出てこない。

 どこがこの地震の元になっているのか分からないため、専門家たちは混乱しながらも必死に調査中らしい。

 幸い、この家は耐震性もしっかりしていることと、そもそもこの地震があまり大きくないこともあり、今すぐどうこうなることはないと思うが……ソウガみたいな存在がいることを考えると、これも世界の更新とやらの一つなんだろうか? だとすると、専門家たちが分からないのも頷ける。

 とはいえ、未だに俺以外にソウガみたいなゴブリンなどの魔物と遭遇したって話は見かけないんだが。


「ま、気にしても仕方ないか」

「グギャ」


 スキル【不幸感知】も働いていないことだし、大丈夫だろう。

 それはともかく、今日は綺麗にした庭に野菜の種を植えたりと、畑を本格的に作っていこうと思っていた。

 そのための用意は元々していたので、肥料やら種やらの用意はある。

 朝食を終え、ソウガと一緒に後片付けを済ませると、早速ソウガに言った。


「ソウガ。今日は庭で畑を作ろうと思うんだけど、手伝ってくれるか?」

「グギャ!」


 実に頼もしい声を上げ、胸を叩くソウガ。

 そんな姿につい頬を緩めながら、俺たちは農作業の道具を持ち、庭へと向かうのだった。


***


「グギャアアア!」

「ご、ゴブリン!?」


 ――――外に出ると、庭の方で一匹のゴブリンが出現する姿が目に飛び込んできた。

 そう、したところをだ。

 俺の【倉庫】の様に、何もない空間に突如青色の渦が出現したかと思えば、そこからゴブリンが出てきたのだ。

 しかも、ゴブリンが出現した後でもその渦は消える気配はない。

 急いで【鑑定】スキルを発動させる。


【ゴブリンLv:1】


 やはりというか、肌の色が緑色のため、普通のゴブリンみたいだ。レベルも1である。

 だが、明確に俺やソウガに敵意を向けていることはハッキリと分かった。


「そ、ソウガ! 一緒に……」


 そこまで言いかけて、俺はあることに気付く。

 ……待てよ。ソウガにとって、ゴブリンは同族だろ? 戦ってくれるのか?

 今さらながらそのことに気付いてしまった俺だが、ゴブリンはそんなことは知らんと言わんばかりに、こちらへ棍棒を振り回しながら走ってきた。


「くっ!」


 すぐに俺も倉庫から棍棒を取り出し、構えると――――。


「グギャ!」

「ギャ!?」


 なんと、ソウガは俺とゴブリンの間に割って入り、ゴブリンの攻撃を受け止めた。

 しかも、その力を上手く逃すと、反撃する。


「ギャ!」

「グゲ!?」


 ソウガ、そんなことできたの!?

 まさかのテクニカルな動きについ驚いてしまった俺だったが、すぐに正気に返ると、俺も急いでゴブリンのもとに向かい、追撃を食らわせた。


「おらあ!」

「ぐがあ!?」

「ギャギャ!」


 そして、痛みに悶えるゴブリンに対し、ソウガは上段に構えた棍棒を、まっすぐに振り下ろした。

 その一撃は綺麗にゴブリンの頭に決まると、そのままゴブリンは光の粒子となって消えてしまった。


「た、倒せたか……」


『レベルが上がりました』


 上手くできたかは置いておいて、ひとまず連携らしきものをしつつ、何とかゴブリンを倒すことができた。

 しかも、まだまだ俺のレベルが低いからか、またレベルが上がったみたいだ。

 ひとまずBPの振り分けもしたいので、一度家に戻る前にソウガにも【鑑定】を使い、何も問題ないか確認する。


【ソウガLv:2】


「あれ、ソウガもレベルが上がってる!」

「グギャ」


 ソウガは俺の言葉を受けると誇らしげに胸を張った。まあそうだよな。俺でレベルが上がったんだし、まだレベルが1だったソウガのレベルが上がらないわけがないわな。


「……それにしても、あの渦は何なんだ?」


 てっきりゴブリンを倒せば消えると思った青色の渦は、その場に消えることなく残ってしまった。

 あそこからゴブリンが出てきたことを考えると、放置はしたくないが……戦力を整えるという意味でも安全な家に一度退避した。

 そして、窓の外から渦の様子を警戒しながら、俺はステータスを確認し、BPなどを振り分けていく。


「……まだ戦闘を考えるんじゃなくて、逃げることを前提に考えた方がいいよな」


 BPを振り分ける際、そんなことを考えつつ、ついでに前回オススメされていたスキルも習得してしまった。

 その結果が以下の通りである。


名前:神代幸勝

年齢:22

種族:人間Lv:2→3

職業:召喚勇士Lv:1

MP:3→6(+5)

筋力:8→11

耐久:9→13

敏捷:7→11

器用:7→10

精神:6→9

BP:20→0

SP:5→0

【オリジンスキル】

≪鬼運≫≪不幸感知≫

【ユニークスキル】

≪システム≫≪スキルコンシェルジュ≫≪魔力支配Lv:1≫≪魔法創造≫

【スキル】

≪精神安定≫≪鑑定Lv:1≫≪気配察知Lv:1≫≪気配遮断Lv:1≫≪契約≫≪地図≫≪罠感知Lv:1≫≪罠解除Lv:1≫≪隠匿Lv:1≫

【武器】

≪棒術Lv:1≫

【魔法】

≪神聖魔法Lv:1≫≪召喚術≫

【称号】

≪先駆者≫≪未知との遭遇≫≪原初の超越者≫≪原初の魔術師≫≪魔と友誼を結ぶ者≫


「なんか、簡単にスキルを習得できてるけど、こんなもんなんだろうか?」


 俺はユニークスキル【スキルコンシェルジュ】のおかげで、SPを使って簡単にスキルを習得していたが、これが果たして普通なのか分からない。

 この状況を考えると、ありがたいことに変わりはないんだけどな。

 それにしても、前回オススメされたものも習得してしまったので、次のオススメを表示してもらった。


『次回習得推奨スキル【夜目】』


「一個だけとかあるんだ……」


 てっきりまた、五つスキルを提案してくれるのかと思ったが、本当に状況とかに合わせて数も変わるみたいだ。まあ、全部使い切らなきゃいけないってわけでもないしな。


「それはともかくとして、こうして【罠解除】やら【地図】やら手に入れたわけだが……」


 俺は改めて外の青色の渦に目を向けた。


「あれ、ダンジョンっぽいよなぁ」

「グギャ」


 すると、俺の呟きを肯定するようにソウガが頷く。なんか今までの流れや獲得したスキル、称号を加味するとそんな気がしたわけだが、ソウガの反応を見るにあたっているらしい。

 というより、ソウガも魔物なんだし、何かあの渦のことを知ってたりするのかな?


「なあ、あの渦の向こうってどうなってるんだ?」

「グゲ?」

「……それは分からねぇのか」


 あの渦がダンジョンであることは分かるみたいだが、その先がどうなっているのかまではソウガには分からないらしい。まあいいけど。


「とはいえ、放置ってわけにもいかねぇよなぁ」


 ゴブリンが出てきたときと同じで、どこかしらの機関に連絡したほうがいいんだろうか?

 正直、俺はもうこの状況を現実だと捉えているが、もし仮に俺が見てる光景や状況すべてが俺の作りだした超リアルな幻覚なのだとしたら、渦もソウガも相手には見えないわけで、そのまま病院に連れていかれるのは間違いないだろう。それどころか変な薬を使ってないかまで疑われる可能性がある。

 それに、もし相手にも渦やソウガが見えたとしても、それはそれで騒がしいことになるのは目に見えていた。

 せっかく一人になりたくてこの生活を始めたのに、そうなっては元も子もない。


「そうなると、俺が攻略? することになるんだよなぁ」

「グギャ?」


 俺がため息を吐く中、ソウガはよく分かっていない様に首を傾げていた。


「……まあいいや。今のところ【不幸感知】も働いてないし、死ぬような目には遭わないだろうけど、ダンジョンに行くなら行くで準備をしないといけない」


 もし中に入って、攻略とかしないと出られないという状況になれば、食料や水が尽きる可能性もあるのだ。それだけは避けないと。

 幸い、【システム】の【倉庫】のおかげで、物資はあるだけ積み込める。


「行くなら徹底的に準備していくぞ」

「グギャ!」


 ソウガにそう宣言した俺は、ダンジョンを攻略するための準備を始めるのだった。

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