第4話
「よし、これで……いいんだよな?」
【スキルコンシェルジュ】の言葉に従い、オススメのスキルを獲得した俺は、ステータスを見ることで改めて確認した。
名前:神代幸勝
年齢:22
種族:人間Lv:2
職業:
MP:3
筋力:8
耐久:9
敏捷:7
器用:7
精神:6
BP:0
SP:5→0
【オリジンスキル】
≪鬼運≫≪不幸感知≫
【ユニークスキル】
≪システム≫≪スキルコンシェルジュ≫≪魔力支配Lv:1≫≪魔法創造≫
【スキル】
≪精神安定≫≪鑑定Lv:1≫≪気配察知Lv:1≫≪気配遮断Lv:1≫
【魔法】
≪神聖魔法Lv:1≫
【称号】
≪先駆者≫≪未知との遭遇≫≪原初の超越者≫≪原初の魔術師≫
「しっかり反映されてるな……」
なるほど……【魔力支配】以外にもスキルレベルのあるスキルがあったんだな。いや、効果の説明を読めば何となく想像できたことか。
それに、最初はなかった項目として【魔法】って項目が新たにできている。今度から別の属性の魔法が使えるようになれば、ここに追加されていくのかな?
そんなことを考えていると、不意に腹が大きくなった。
「あ……そう言えば、昨日は昼間に庭の草を掃除してて、ステータスの反映とやらのせいでそのまま寝っちゃったんだったな……」
寝るというより、気絶というのが正しいが。
とにかく、俺は昨日の昼から何も食べていないことになる。そりゃ腹が減るわけだ。
空腹を感じたとたんに動くのも億劫になったが、何とか気力を振り絞って朝食を作り始めることに。
「んー……今日はパンにしようか」
何となく食パンの気分だったため、トースターにパンをセットすると、パンを焼いている間におかずを用意した。
まあおかずと言っても、レタスのサラダにベーコンエッグくらいのものだけど。
ささっとおかずを作り終えると、ちょうどパンが焼きあがった。
「お、いい匂い――――」
バン!
突然、家の窓からすごい音がした。
俺はその音に驚き、手にしていたパンを落としそうになったが、何とかキャッチし、恐る恐る窓の方に視線を向ける。
するとそこには――――昨日倒したゴブリンらしき存在が、窓に張り付いていた。
「っ……!」
つい悲鳴を上げそうになるが、その瞬間、俺の中の恐怖心が少しずつ収まっていくのを感じた。
そんな体の異変に一瞬戸惑うも、すぐにスキル【精神安定】の効果であることを思い出す。
すごい……つい体が竦んでしまいそうだったのに、もう平常心にまで戻ったぞ!?
精神的に落ち着いたことで、しっかりと思考を働かせることができるようになった俺は、警戒しながら窓に張り付いている存在に目を向けた。
そいつはほぼ間違いなく魔物なのだろうが、昨日見たゴブリンらしき存在とは少し違う。
というのも、昨日見たゴブリンは皮膚が緑色だったのに対して、窓に張り付いているゴブリンらしき魔物の皮膚は、青黒いのだ。
「そうだ、こういう時こそ……」
すぐに【鑑定】スキルを発動させると、窓に張り付いている魔物の情報が目の前に表示された。
【ゴブリン≪変異種≫Lv:1】
「え? へ、変異種?」
なんと、目の前の魔物はゴブリンであることに間違いはないが、変異種という普通とは違う個体らしい。
これ以上の情報も知りたいと思ったのだが、【鑑定】のレベルが足りないのか、これだけしか見ることができなかった。
ひとまず魔物の正体がゴブリンだと分かったはいいが、安心できない。
むしろ、かなり危険な状態だろう。
というのも、昨日の魔物……通常のゴブリンだと思われる存在は、運よく倒すことができた。
だが、目の前のゴブリンは変異種と表示されているように、普通のゴブリンより強い可能性がある。
すぐに昨日のゴブリンから手に入れた棍棒を【倉庫】から取り出し、警戒する。
いつ窓を割って入ってくるか分からない。
俺は唾を飲み込みながら、ゴブリンをしっかり見つめているが……。
「……?」
あれから五分、俺はゴブリンを見続けたが、ゴブリンは何のアクションも起こさず、ただ窓に張り付いたままだ。な、何がしたいんだ?
もしかして、窓に張り付いた衝撃で死んだとか? だったら昨日のゴブリンみたいに消えていくはずだし……。
何より、あのギラギラした目を見ると、死んでるなんてとても思えない。
そう思った瞬間、俺はゴブリンの視線が俺に向いていないことに気付いた。
何故、目の前にいる俺に視線が向いていないのか不思議に思い、ゴブリンを警戒しながらもその視線をたどると――――。
「え?」
そこには、先ほど焼いたばかりのパンがあった。
まさかと思い、パンを手にし、少し動かすと、ゴブリンの視線もそれにつられて動く。
その様子が滑稽で、つい大きく動かしたりして見るが、ゴブリンは涎を垂らしながらパンに釘付けになったままだった。
警戒を続けるのに変わりはないが、あまりにもゴブリンのコミカルな姿に毒気を抜かれた俺は、思わず手にしたパンを掲げ、目の前で凝視しているゴブリンに話しかけてしまった。
「あー……その……食う、か?」
「!」
俺の言葉は理解できていないようだが、ジェスチャーや雰囲気で意味は伝わったらしい。
ゴブリンはこっちが心配になるほど頭を激しく上下に振った。どうやらよほど食べたいみたいだ。
というより、自分で訊いておいてなんだが、本当に大丈夫なんだろうか?
ゴブリンにパンを渡すためには、俺も外に出ないといけないわけで……。
もしこれがゴブリンの罠なのだとすれば、俺は間抜けにもそれに引っかかったことになる。……あの様子を見るに、ウソを吐いているようには見えなかったが、ウソであったとすればとんでもない役者だな。
「えっと……あげるから、窓から離れてくれ」
「ギャ」
もう一度ジェスチャーを交えて伝えると、ゴブリンは一つ鳴いて窓から離れた。こっちの意図を正確に読み取るくらいには頭がいいみたいだ。
窓を開けるのはとても躊躇われたが、スキル【不幸感知】が発動していないこともあり、俺は勇気を振り絞って窓を開ける。
すると、今すぐにでも飛びつきたいが、必死に大人しくしようとしているゴブリンが待っていた。
「ど、どうぞ?」
「ギャ! ギャギャ!」
皿ごとパンを地面に置き、距離をとると、ゴブリンは嬉々としてパンに飛びついた。
そして、俺の目の前で非常に美味しそうにパンを食べる。
……何だろう。昨日見た時はすごく怖かったし、醜いとすら思っていたのだが、こうしてみると可愛くないか?
いやいやいや、待て待て待て。
それはない。あり得ない。
コイツは俺を殺そうとしてきたやつらと同じ存在なんだぞ?
目の前のゴブリンを見ていると、もしかして昨日のゴブリンも俺に構ってほしくて突撃してきたんじゃないか、なんて考えてしまいそうになったが、あの生存本能がヤバいと告げる感覚……それに、明確に殺意を向けられるというあの感じが、そんな可愛らしいものではないのは分かる。
やっぱりここで、コイツは殺しておく方がいいんじゃないか?
無意識のうちに手にしていた棍棒を強く握りしめていると、パンを食い終えたゴブリンが呆然と皿を見つめ、皿をひっくり返したり、振ったりして、これ以上パンがないことを悟ると、見るからにションボリとした様子で肩を落とした。
そして、俺の方をどこか期待するように上目遣いで見つめる。
うっ……なんでコイツはいちいち動作が可愛らしいんだ……!
「も、もう一枚だけだぞ」
「グギャ!」
俺の言葉に、ゴブリンは顔を輝かせると、両手で皿を差し出した。
こ、これは決してゴブリンの可愛さに負けたのではない。腹を満たしてもらって、俺への危険度を下げるためだ! 負けたんじゃないぞ!
警戒しながら皿を受け取り、一度家に戻った俺は、再びパンをトースターにセットしながら外にいるゴブリンに意識を向ける。
ゴブリンはこっちが警戒していることに気付いているのか、家の中には入ってこようとしない。向こうも警戒している可能性はあるが、もしそうなら俺なんかからパンを受け取らないだろう。
とはいえ、言葉が通じないとはいえ、こっちの意図を正確にくみ取ったり、気を使ったりと、かなり頭がいいみたいだ。ここら辺が普通のゴブリンとの違いなのだろうか?
そんなことを考えていると、不意に称号【未知との遭遇】の効果を思い出した。
「そう言えば、ユニーク個体ってヤツと遭遇しやすくなるんだっけ? これってユニーク個体の出現率が上昇……魔物に遭いやすくなるのか、遭遇した魔物がユニーク個体である確率が上がるのかでだいぶ勝手が変わるけど……」
ユニーク個体に遭遇しやすいってのが結果的に魔物との遭遇率が上がっていることに繋がるのなら、何も嬉しくない。あんな恐ろしい目に遭う危険性が上がったわけだから。
かといって、遭遇する魔物がユニーク個体である確率が上がるのも歓迎できない。それだけ遭遇した時に逃げにくくなりそうだし。
……あれ? って考えると、何もいい称号じゃねぇじゃねぇか! いらねぇ! すぐに返却したいんですけど!?
「クーリングオフ制度使えねぇのかよ……」
無駄だと分かってても、そう呟いてしまった。
とにかく、今目の前にいるゴブリンが果たしてユニーク個体なのかは分からないが、普通とは違うのに変わりない。
何にせよ、これどうすりゃいいんだろうか……。
もはや勢いでパンをあげたことを軽く後悔しながら、再び焼きあがったパンをゴブリンに持っていった。
「グゲ!」
するとゴブリンは待ってましたと言わんばかりに目を輝かせ、パンにかじりついた。うぅ……こうしてみると無害っぽっく見える……。
再び美味しそうにパンを食べ続けるゴブリンを見ていた俺は、この後のことを考えた。
……コイツがパンを食べ終えたら、その瞬間に襲い掛かってくる、とかあるんだろうか?
それとも、パンをあげたことで少しでも恩義を感じてくれて、見逃してくれる、とかないだろうか?
ちなみにだが、俺から襲い掛かるという選択肢はほぼない。スキルのおかげで恐怖心こそ抑えられているが、果たして倒せるかどうかも分からない相手に襲い掛かる勇気はない。
でも、放っておいてもいいんだろうか?
もしこのままコイツが俺に何もせず、この場を離れたとして、他の民家を襲う可能性もあるのだ。
どこかに連絡した方がいいのか? って言ってもどこに? 警察? 自衛隊? そもそも信じてもらえるのか?
考えれば考えるほどこれからのことでどうするのが正解なのか分からなくなっていると、ゴブリンはついにパンを食べ終えた。
「グギャ」
ゴブリンはポッコリと膨れたお腹をさすりながら、満足そうに鳴く。
そして、俺をまっすぐ見つめると、一つ頷いた。
「ギャ」
「え?」
その瞬間だった。
突然、俺の目の前に半透明なウィンドウが出現した。
出現したウィンドウにはこう書かれていた。
『【ゴブリン】と契約が可能です。契約しますか?』
「け、契約?」
予想外な単語に固まる俺に対して、ゴブリンは真剣な表情で俺を見上げていた。
契約って……どういうことだ? まさか、このゴブリンを仲間にできるってことか?
改めてゴブリンに視線を向けると、ゴブリンは変わらず俺を襲うことも、敵意を見せることもせず、静かにその場で待っていた。
コイツ……。
「……なんで急にこんなことになったのか分からないけど……いいのか?」
「グギャ」
俺の質問にゴブリンは一つ頷いたことで、俺はゴブリンと契約する、という意識に変わった。あれだけ最初は怖かったゴブリンだが、この短い間で俺はこのゴブリンに妙な親しみを感じていたのだ。お互いに共生できるなら、していきたい。
その瞬間、ゴブリンの体から光の粒子が溢れ出ると、俺の体の中に入っていき、さらに出現していたメッセージに書かれていた文字が変わった。
『【ゴブリン】との契約に成功しました。名前を付けますか?』
「名前が付けられるのか……」
「グギャ!」
俺の呟きが聞こえたようで、ゴブリンはどこか期待するように俺を見てくる。う……そんな目で見られても、俺にネーミングセンスはないんだが……。
どんな名前がいいのか分からないが、俺なりに必死に考えた後、ついにその名前を口にする。
「ソウガ……ってのはどうだ?」
単純極まりないが、目の前のゴブリンの色の『蒼』と、『
しかし、そんな捻りも何にもない名前であるにもかかわらず、ゴブリン――――ソウガは、目を輝かせて喜んだ。
「グゲ! グギャア!」
「そ、そうか。そこまで喜んでくれると、こっちも嬉しいよ」
ついついつられて笑った俺は、改めてソウガに告げる。
「ソウガ。これからよろしくな」
「グゲ!」
『称号【魔と友誼を結ぶ者】を獲得しました』
そして、新たにそんなメッセージが出現するのだった。
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