第3話

「ん……んぁ……?」


 俺は目が覚めると、ぼーっとした頭で周囲を見渡す。


「あれ……俺、ソファで寝たのか……」


 俺は布団以外で寝ることなんてそうそうないので、自分の置かれている状況に首を傾げた。

 まだ頭がぼーっとするものの、何故か体の調子はすこぶるいいので、ひとまず眠気覚ましに水を飲んだ。

 すると……。


「……あ! き、昨日、突然体に激痛が走って……!?」


 なんでソファで寝ていたのかを思い出した俺は、すぐさま自分の体を確かめる。


「あ、あれ? どこもおかしなところがない……」


 鏡を使ったりして、全身をくまなく探るが、特別腹が裂けてたり、傷がある様子はない。

 見た目も何か変わってる様子もないが……。


「でも、昨日の激痛は一体……まさか、夢でも見てたのか?」


 その可能性が高いなと思いつつ、俺は【ステータス】と呟いた。


「………………マジか」


 俺の目の前には、昨日俺がBPを割り振った後のステータスが表示された。

 つまり、昨日の現象は夢ではない、と。

 呆然とそのステータスを眺めていた俺だが、不意に昨日には見当たらなかった称号が目に入る。


「ん? 何だ? この【原初の魔術師】って……」


 すぐに詳細を確認してみると……。


【原初の魔術師】……世界で初めて魔力に目覚めた者。

効果:魔力による適性属性の制限解放。特殊属性の適性獲得。消費魔力の軽減。魔力回復速度の上昇。スキル≪魔力支配≫の獲得。スキル≪魔法創造≫の獲得。


「な、何だって?」


 効果はいまいちよく分からんが……世界で初めて魔力に目覚めた?

 そこまで考えて、俺はふと思い出した。


「そうだ……MPにもBPを振ったんだったな……」


 つまり、BPをMPに振ったことで、元々存在してなかった魔力が俺にも生まれた、と。

 てか、よく見ると称号の効果で、ユニークスキルの欄に二つも新しいスキルが追加されてるぞ……。

 名前からしてヤバそうなその二つのスキルを、俺は確認する。


【魔力支配】……魔力操作の極致。自身の魔力を思うがまま、精確に操ることが可能。スキルのレベルアップにより、自身だけでなく、空間に漂う魔力、または他者の魔力にすら干渉し、支配可能。ただし、相手の魔法抵抗力が高い場合、レジストされる。周囲の魔力を取り込む効率が上がり、魔力の回復速度が上昇する。

【魔法創造】……既存の魔法だけではなく、属性に則った独自の魔法を創りだすことが可能。


 なんというか、ぶっ飛んだスキルだった。

 俺にはまだ魔法という力が未知なるものであるのには変わらないが、それでもこの二つのスキルがぶっ飛んでいることは分かる。

 ただ、【魔法創造】で分かったことだが、どうやら普通は魔法ってのは自分のイメージ通りに発動するタイプではないらしい。

 どういう条件で使える既存の魔法とやらが増えるのかは分からないが、もしオレ以外に魔法が使える人間が出てきたとして、その人たちは基本同じ魔法を使うということになるようだ。もしくは、訓練をすればオリジナル魔法は創れるのかもしれないが。

 とにかく、俺は自分の想像で魔法が創れると。

 【魔力支配】の方はスキルのレベルって書いてあるから熟練度を上げるタイプなんだろうが、この【魔法創造】は完結しているタイプなんだろう。

 ただ、この属性に則ってっていうのがいまいちよく分からないんだが……あれか、火属性しか使えないなら、火属性の魔法を創造できるってことか?

 とすると、称号の【原初の魔術師】にあった属性適正っていうのは、誰もが自由に好きな属性を使えるというより、向き不向きがあるのかもしれないな。それすらも俺は制限がないみたいだが……。

 しかも、説明を読む感じ、魔法を発動させるための消費魔力が減って、なおかつ減った魔力を回復する速度も上昇すると。たった一つの称号に色々な効果が詰め込まれすぎだろう。それだけすごい称号ってことなんだろうけどさ。魔力回復速度に至っては、スキルと合わせてさらに早く回復しそうだし。まあ元の魔力が一桁なので何とも言えないが。

 これだけすごいスキルや称号を手に入れられるのも、【鬼運】スキルのおかげだろう。

 俺としては、こんなところでその運を使うんじゃなく、そもそもこんな状況にならないように運を使ってほしいんだがな。

 それよりも、こうしていきなりユニークスキルを二つも手に入れたわけだが、ユニークスキルって言うくらいだし、唯一無二なんだろう? こんなに簡単に手に入っていいのか?

 そんなユニークスキルよりも特殊そうなオリジンスキルに至っては、どうすれば獲得できるのかすら謎だが……。

 思わずため息をついていると、メッセージが切り替わった。


「今度は何だよ……」


 切り替わったメッセージには、こう表示されている。


『対象の意識の覚醒を確認。報告。ステータスを肉体に反映……完了。これにより、次回からステータスの肉体への反映がスムーズに行われます』


「全然分からん……」


 確かに、昨日、気を失う直前になんかのメッセージが出現していたような気がしたが……これがその内容なのか?

 文面から考えると、昨日の激痛の正体はこのステータスを肉体に反映させるからってことみたいだが……。


「も、もし、次にレベルアップしても、あんな激痛を体験しなくてもいいってことか?」


 文面を見るに、恐らくそういうことなのだろう。あの激痛も初回だけのようだ。……だよね? なんであれ、事前に説明してほしかった。

 ただ、あの異音や、体に新しい器官が作られている感覚は正しかったらしい。

 あの激痛を体験したから、今の俺の体には魔力とやらが宿っていると考えてもいいだろう。

 つまり、あの激痛は魔法を使うための、魔力の器官? が体に新たにできるための改造みたいなものだと。……勝手に体が改造されてるってのもゾッとしないな。

 とはい、こんな状況ならばそんなことを言っても仕方ないのかもしれないが。


「だからって、進んで痛い思いをしたいわけじゃねぇけどな……」


 結果オーライだからよかったが、あんな体験は二度とごめんだ。

 ひとまず、ステータス関連は新しい称号などを含め、確認できた。

 となると、昨日確認しようとしてステータスの反映とやらのせいでできなかったスキルの習得に移ることにした。


「えっと……どうすりゃいいんだ?」


 【鬼運】や【不幸感知】は無意識に発動するタイプのスキルであり、【システム】は口に出せば勝手に発動したが……【スキルコンシェルジュ】もスキル名を口にすればいいんだろうか?

 すると、俺が【スキルコンシェルジュ】と口にする前に、発動させたいと思った瞬間、習得するためのスキルが俺の目の前に表示された。


「あ、口に出さなくても発動するのね……」


 これは【システム】や何ならステータスも意識するだけで発動する可能性が高いな。

 本当に世にあふれるこういった状況を題材にしたネット小説の知識がそのまま使えそうで逆に怖い。

 それはともかく、さっそく表示されたスキルを見てみるのだが……。


「この数はやべぇな……」


 とてもじゃないが、一つ一つを確認できるような量ではなかった。


「スキルってこんなにあるのかよ……」


 スキルを習得するためのポイント数と、スキル名とスキルの効果が詳しく書かれている。さらには、そのスキルがユニークスキルかどうかも一応分かるみたいだ。

 ユニークスキルは今までの感じから強力なのは分かるので、ぜひとも習得しておきたいが、強力なスキルはやはりというか、SPの消費量が半端ない。現状5ポイントしかないので、とてもユニークスキルは獲得できそうもないな。


「うーん……これだけ多いと、どれ選べばいいのか分からんぞ……いや、そういえば……俺が望む形に合わせてスキルを表示してくれるって書いてあったよな?」


 とはいえ、望む形というものがそもそも分からない。

 どんな方針で行けばいいのか、この状況じゃ何も分からないのだ。

 すると、不意にメッセージが切り替わる。


「え? 『オススメのスキルを表示しますか?』だって?」


 なんと、俺がどうすればいいのか迷っているのを察したらしい【スキルコンシェルジュ】が、わざわざ俺のために選んでくれるようだ。

 ならば、断る理由もない。というか、オススメしてくれるのは本当にありがたい。

 すぐさま了承の意を示すと、画面が切り替わり、五つのスキルが表示された。


「……これが、コンシェルジュのオススメスキルか……」


 表示されているスキルだが、以下の通りだ。


【精神安定】……スキル保有者が恐慌状態などに陥った際、平常時へと安定させる。また、精神干渉に対して耐性を獲得。

【鑑定】……対象の情報を獲得する。ただし、相手の実力がスキル保有者より高い場合、その実力差に応じて獲得できる情報量は減少する。また、一部のスキルでこのスキルを弾かれる場合もある。

【神聖魔法】……聖属性魔法。基本、回復魔法がメインとなっているが、攻撃魔法も存在し、アンデッドに対して高い効力を発揮する。

【気配察知】……気配を察知することができる。

【気配遮断】……気配を遮断することができる。


「おお……【精神安定】ってのはありがたいな……」


 この【精神安定】は感情や精神が振り切りそうになった際、それを抑え、安定させてくれるスキルらしい。

 それこそ、俺がゴブリンを殺してしまい、戸惑ったり怖くなったりしたのも、これさえあれば緩和されるだろう。

 さらに、このスキルのいいところは恐怖心が無くなったりするってわけじゃなく、安定させるってところだ。いきなり感情がなくなるってなると恐ろしいが、これならまだ……。

 しかも、喜びなんかの感情は抑制されるわけじゃないっぽいのも、このスキルのいいところだろう。

 おまけに精神干渉とやらにも耐性があるって書いてあるが……この文面を見るに、精神に干渉できる存在がいるのだろう。恐ろしいな。

 他にも、【鑑定】スキルがあれば、あのゴブリンらしき存在の詳細も分かるんだろうし、【神聖魔法】に至っては俺が死ににくくするためのモノだ。

 昨日の激痛のおかげで魔力を得たわけだし、これは気になるな。

 ただ【鑑定】スキルを弾くスキルがあって書いてあるが……これはもし俺が人から【鑑定】される場合も考えておいた方がいいかもしれない。【鑑定】スキルは別にユニークスキルでも何でもないんだし。いつ俺と同じようにスキルやステータスを見れる人が現れるか分からないけど、備えていて損はないだろう。見られて困りそうなスキルや称号が多すぎるからな。

 【気配察知】ってのも昨日のゴブリンみたいな魔物がこれから現れるっていうんなら、持っておいて損はないはずだ。先に見つければ逃げることもできるわけだし。

 【気配遮断】も、もし見つかっても逃げられない状況で隠れたとして、バレずに済むかもしれない。

 そんなことを考えていると、画面が切り替わる。


『次回習得推奨スキル【地図】、【罠感知】、【罠解除】、【棒術】、【隠匿】』


 そこには、次に習得推奨のスキルが表示されていたのだが、いくつかよく分からないものがあった。

 その一つが【地図】スキルである。


「この【地図】はどうしてオススメされたんだ?」


 もう少し詳細が分からないかなと思ったら、コンシェルジュは丁寧に俺が習得した場合を体験させてくれた。スキルのお試し機能まであるのかよ……。

 それはともかく、この【地図】スキルを手に入れれば、自動でマッピングしてくれるらしい。

 それも、マッピングされる地図は、俺の視界の右端に表示されているのだ。

 分かりやすいのが、様々なゲームの常時画面に展開されているミニマップみたいな感じだな。

 視界の端にそんなものが映っているというのはとても落ち着かないが、そのゲーム見たいって考えると、途端にあまり気にならなくなった。

 しかも、それでも気になるようなら任意で消したり、展開したりできるようなので、普段は消しといて、確認したい時だけ展開するってのもアリみたいだ。こうしてみると、確かに便利なスキルなのは間違いない。

 だが、何故このスキルが必要なのか分からないのだ。


「地図なんて本屋に行けば詳細なものもあるし、カーナビだってある。それらが必要なくなるってのも便利だけど、わざわざスキルでとる必要があるのか?」


 そう考えた俺だが、ふと、昨日手に入れた称号の中で、ついスルーしていた単語を思い出した。


「まさか……ダンジョンか!?」


 確かに、俺が習得した称号の【未知との遭遇】に、ダンジョンの発見率上昇ってものがあった。

 あの時は他のことに気をとられすぎて、ちゃんと確認してなかったが……。


「は、はは……ますます現実世界がゲーム化していってるみたいだな……」


 つまり、このスキル構成はダンジョンを想定して表示されたものみたいだ。

 どうりで【罠感知】やら【罠解除】なんていう、どこで使うのかも分からないようなスキルも推奨されるわけだ。ダンジョンを挑むには、マッピング技能と罠に対処できる技術がいるのだろう。

 だが、こうして【スキルコンシェルジュ】がそのダンジョンを想定したスキルを早い段階で提示してきたってことは、このダンジョンってものが重要になるのか?

 もう一度【ヘルプ】で確認してみたら、ダンジョンは高密度の魔力が次元を歪め、特別な空間が発生したものと書かれており、その最奥にあるダンジョン発生の原因である高密度の魔力結晶を破壊すれば、自然と消滅すると書かれていた。

 特別な空間って言われても全然分からんし、このヘルプ、不親切にもほどがある。今時のゲームならもう少し用語説明を丁寧にしてくれるぞ。……いや、そうでもないのか? 何だか俺の理解力が低いだけな気がしてきた……。

 だが、ダンジョンに関わるとなると、ゲームなんかを想像すれば、俺が遭遇したゴブリンと戦う可能性はかなり高い。

 だからこそ、次回の習得推奨スキルに【棒術】があるのだろう。意外なのは【剣術】みたいなオーソドックスなものでないことだが。

 ……よく考えれば、剣なんて握ったことないし、棒の方が現実的か。魔物に唯一対抗できる武器も、ゴブリンから手に入れた棍棒だけだし……。

 そう考えると、棍棒の扱いもよくなるかもしれないので、【棒術】は理に適っているだろう。ダメージを与えられるかは別にしても、棒なら木の枝でも代用できるかもだし。

 そして最後の【隠匿】スキルだが……名前の雰囲気から考えるに、このスキルこそが【鑑定】スキルを防ぐスキルなんじゃないだろうか。

 だとすると、ぜひとも手に入れておきたいな。

 まあ色々考えたが、次回以降のスキルを今考えても仕方ない。


「まずは今回習得するスキルだ。今の俺は、このオススメ以外はどれがいいのかも分からないし、大人しく従っておこう」


 そう言いながら、俺は【スキルコンシェルジュ】におススメされたスキルを獲得していくのだった。

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