第2話
まるでゴブリンのような生物を殺してしまうという、あり得ない状況に遭遇している俺は、一度落ち着くためにフラフラとした足取りで家に帰った。
そのまま先ほどの感触や光景を払拭するかのように、すぐさま風呂に入り、何とか心を落ち着けようとする。
ただ、何度も何度も手を洗うのだが、一向に先ほどの紫色の血が洗い落とされた気がしないのだ。
もちろん、実際はちゃんと綺麗になっているのだが、俺の根本的な部分が汚れてしまったような気がしていた。
その事実から目をそらすように無理矢理洗うのを切り上げ、浴槽につかる。
風呂で何とか落ち着くことのできた俺は、風呂から上がり、着替えると、しばらくの間ぼーっとする。
そして、先ほど目の前に現れたボードや、殺してしまったゴブリンらしき生物のことを考えるが、何も分からない。
「何なんだよ……何が起きてるんだよ……」
ついにこの山でのんびり暮らそうとか考えていたところにこれだ。
しかも、俺の勘にも特に嫌な予感はしなかった。
つまり、この状況は俺にとって悪いことではない……はずなのだ。もちろん、俺の力が正常に機能していれば、という前提の話ではあるが……。
「……生き物を殺すのが、いいワケねぇだろ……」
別に家畜や狩猟を否定するわけじゃなく、俺自身が生き物を殺すという行為になれていないからこそ、思わず出てしまった言葉だった。
……いや、普段は害虫を駆除したり、直接生き物を殺す機会は度々あるものの、少なくとも人型の生物を殺すことはない。
この人型だからダメとか、この考えがすでに人間としてのエゴだと分かっていても、人型の生物を殺したことで感情がぐちゃぐちゃだ。
「でも……あのボードは消えたし……何なら、ゴブリンらしき生き物の死体も消えた……何だ、幻覚か? ウソだろ?」
ストレスの溜まりすぎで幻覚見るほど疲れてるのか? 俺。
……いや、幻覚って言葉じゃ片付けられない、生き物を殺した感覚が、俺の手には残っている。
それに、至近距離で殺したことで、俺の体にかかった紫の液体は今もなお残っており、先ほどの生物の存在を示していた。
洗濯機の中の服には、その紫の液体はついたままだろう。
「どういうことだよ……あれか? この世界がゲームみたいになったとか?」
そんなバカげた考えが浮かぶも、たった今その状況に遭遇した俺は、すぐさまスマホで似たような状況がないかを調べた。
ちなみに、山の中とは言え、俺が暮らすためにネット環境は整っているので、普通にインターネットも電話もできる。
だが……。
「何の情報もねぇ……」
もし似たようなことを体験している人間がいれば、ネットに何かしらの情報があるはずだ。
今の時代、こんなSNSですぐに拡散されるようなことを隠す人間の方が少ない。
俺が探した限り、出てくるのは全部ネタとしてのモノか、あるいは俺が遭遇している状況を題材としたネット小説ばかりだ。
「意味が分からねぇ……俺だけ人生がゲーム化したのか? もともと変な能力を持ってるから?」
運や勘の良さが、この状況の原因なのか?
……いやいや、んなバカな。
いくら考えても分からない俺は、天井を見つめながら呟く。
「レベルやら称号やらって……ゲームみたいな『ステータス』要素に俺の能力も――――」
突然、俺の言葉を遮るように、再び半透明なボードが出現した。
「………………マジかよ」
何が切っ掛けでこのボードが出現したんだ?
少しでも情報が欲しい俺は、ひとまず目の前に出現した半透明なボードを見る。
名前:神代幸勝
年齢:22
種族:人間Lv:2
職業:
MP:0
筋力:5
耐久:5
敏捷:3
器用:4
精神:3
BP:20
SP:5
【オリジンスキル】
≪鬼運≫≪不幸感知≫
【ユニークスキル】
≪システム≫≪スキルコンシェルジュ≫
【スキル】
なし
【称号】
≪先駆者≫≪未知との遭遇≫≪原初の超越者≫
「こ、これ……いわゆる、ステータスってヤツか……?」
ということは、先ほど俺の口から出た『ステータス』という言葉に反応したのかもしれない。
呆然とそれを眺める俺だが、すぐに正気に返ると一つ一つ確認できそうな項目を探した。
その結果、ひとまずスキルと称号の詳細を知ることができた。
まず、俺にとって一番気になるこのスキルだが……。
【
【不幸感知】……スキル所持者の危険や、不利益なことを察知する。
どうやら俺の能力は、この二つのスキルが原因のようだった。
今まで知りたかった能力の詳細であるはずなのに、実際に目にすると実感がわかない。
……【鬼運】とか、まさにその通りだな。
運はいいが、俺の求めた結果とは限らない。なるほど、呪いという一文も頷ける。
しかも、運がいいときは、俺が大きな勝負をするときだけ。
それこそ、不注意などで箪笥の角に小指をぶつける程度の不運は普通に起こる。
だが、宝くじや競馬といった、大きな運の要素が絡む場面では、俺は負けたことがないのだ。
もしかしたら、普段の不運はその豪運の帳尻合わせなのかもしれないがな。
とにかく、俺の家族が事故死した時も、俺だけが生き残るという幸運と同時に、両親は死ぬという不運も訪れたのだ。
そして、そんな不幸を俺に伝えてくれていたのが……この【不幸感知】だったようだ。
この能力には、今まで助けられた。
最初こそ、この能力を信じなかった俺を恨み、何ならこの能力そのものに八つ当たりもした。【鬼運】はともかく、この【不幸感知】は悪いところはないのにな。いや、【鬼運】も何なら悪いものではないのだろう。それでも当時の俺は、何かに当たらないと……とても心がもたなかったのだ。
でも、この能力を信じれば、俺は大きな不幸に見舞われることはなかった。
最初の方は信じていなかったが、嫌な予感がした日に出かけると、俺は事故に巻き込まれたり中々大変な目に遭ったのだ。
それも【鬼運】の能力で無事だったわけだが……。
「それで、このユニークスキルってのはどこで手に入れたんだ?」
俺は完全に身に覚えのない【システム】と、【スキルコンシェルジュ】いうスキルに目を向ける。
【システム】……システムメニューの使用が可能。
【スキルコンシェルジュ】……SPを消費することで、オリジンスキルやすでに習得されているユニークスキルを除くスキルの中から、スキル保有者の望むスキルが表示され、習得できる。スキル保有者が全スキルを見たいと望めば、全スキルも表示可能。既存のスキルだけでなく、世界に新しいスキルが出現するたび、更新され続ける。
「な、何かヤバそう?」
正直、【システム】のスキルはよく分からない。
説明を見るに、どうやらメニュー機能みたいなものが使えるらしいが……。
それ以上に、この【スキルコンシェルジュ】とやらがヤバそう。
ここでステータスのSPの使い方も何となく分かったが……このSPとやらを消費すれば、俺は好きなスキルをだいたい習得できるらしい。しかも、俺が望む形に合わせて、スキルが選んで表示してくれるのだ。何も分からない状況では、その補助機能のようなものがありがたい。てか、これが本当ならかなりぶっ壊れてるな。
一応、俺の持つ【鬼運】のようなオリジンスキルとかは習得不可らしいけど、それを除いても強力すぎるだろう。スキルの習得方法が不明の今は、特に。このスキルさえあれば、スキルが習得できてしまうのだから。
マジでどこで身につけたか分からねぇけど。
「……ひとまず、メニュー機能も気になるが……先に称号の方も確認してしまうか」
ていうか、この状況は結局幻覚なのか? それとも現実?
俺の幻覚だったらそこまでだが、少なくとも誰かに俺の能力を話したことは一度もない。何となく勘づいた人間は多いけど、それをこうして明確な言葉として知っている人間はいない。
それがこうして反映されているとは……幻覚だったなら、中々出来がいい。冗談じゃねぇが。
「さて、さっき外で見たこの称号ってのは……?」
ここまで調べてもまだ幻覚か現実か分からない俺は、続いて称号を確認していくと……。
【先駆者】……世界で初めて魔物を殺した者。
効果:レベルアップ時の獲得BPが20になる。レベルアップ時の獲得SPが5になる。スキルレベルの獲得経験値上昇。スキルを獲得する際、消費SPの軽減。スキル≪システム≫の獲得。スキル≪スキルコンシェルジュ≫の獲得。
【未知との遭遇】……世界で初めて魔物と遭遇した者。
効果:魔物のユニーク個体との遭遇率上昇。ダンジョンとの遭遇・発見率上昇。
【原初の超越者】……世界で初めてレベルアップした者。
効果:職業制限の無制限解放。レベル上限の無制限解放。
「……」
どうやら、俺の殺したゴブリンらしき存在は、魔物と呼ばれるものらしい。
そして、それをこの世界で初めて殺したことで、俺はこれらの称号を手に入れたと。
「……どうりでネットで調べても出てこないわけだ。俺が世界で初めての遭遇者なんだから。まあ幻覚じゃなければだが」
それに、俺の見知らぬスキルの入手経路も、この称号のおかげで分かった。
ゲームなら運がいいってことになるだろうが、ここは現実だ。
……いい加減、現実か幻かの決着をつけたい。
もし、これらすべてが本当なら、称号にある通り、まだ魔物に遭遇したことがあるのは俺だけということになる。
しかも、遭遇するのは永遠に俺だけということはなく、いずれ他の人も魔物に遭遇する可能性も見て取れる。
「何か……もっと情報が欲しいんだが……ってそうだ! 【システム】だ!」
俺がそう口にした瞬間、目の前のボード……いや、こうしてみると、パソコンのウィンドウの方がしっくりくるな。そのウィンドウが一瞬で切り替わった。
そして、新しいウィンドウには、【ステータス】、【倉庫】、【ショップ】、【ヘルプ】の四項目が。
「情報が欲しいとは言ったが、謎も増やしてほしいワケじゃないんだって……」
ステータスは先ほど確認したから分かるが、他が分からん。もちろん、単語の意味は理解できるが、ショップなんてどこと取引するんだよ……。
「……まあ答えが分かりそうな【ヘルプ】があって、助かった」
謎が増えたが、このヘルプを見れば、答えが分かるだろう。どこの誰が教えてくれるのかは知らんが。
そう思い、俺はさっそくヘルプを開く。
そして、ヘルプすべてを読み通した結果、分かったことは……。
「なんでこの状況になったのか……って肝心な部分が分からねぇな」
――――ヘルプには、俺が理解できていない単語など、多少は欲しい情報がそこにはあった。
例えば、BPはボーナスポイントの略らしく、これをステータスに自由に割り振ることができるそうだ。
そして、称号で使い方がある程度想像できたSPも、スキルポイントの略で、やはりこのポイントを消費して、スキルを習得することができるそうだ。
俺はもともと【鬼運】と【不幸感知】という不思議な力を持っていたためあまり驚かなかったが、スキルとはそういう超常現象を引き起こすための力だ。
例として挙げれば、剣道を習ってる人間はもちろん剣を持てば一般人より強いだろうが、剣を一度も握ったことがない人間であっても、【剣術】スキルさえ手に入れれば、【剣術】スキルを持たない剣道経験者を余裕で倒してしまうような力が手に入る……スキルとは、まさしく奇跡の力だ。
しかも、そのスキルもモノによってはレベルがあるらしく、俺はたまたまレベルが存在するスキルは持っていない。
スキルレベルの上限は、ヘルプに書かれている通りならば10が最高らしいが……これは確認のしようがない。
他にも、ステータスの項目の詳しい説明もあれば、魔物の説明もあったが……。
『魔物とは、一定量の魔力が固まり、命が宿った存在』って、余計に訳が分からなくなった。
だが、分かったこともある。
魔物は、どうやら魔力の宿ったものでしかダメージを与えられないらしい。
だから俺があのゴブリンに草刈り機を向けた時、ダメージが入らず、ゴブリンの持っていた棍棒ではダメージを与えられたようだ。
……あの棍棒に魔力が宿ってると言うのも不思議な感じはするけどな。
そもそも魔物や魔力なんて、物語の中では……特にネット小説を多少は読む俺からすると見慣れた単語ではある。
だが、現実にそれが出現するとなると話は別だ。さらに言うとそれを現実で説明されて分かるわけがない。あれか、小説みたいに感覚で分からなきゃいけないのか?
ともかく、こんな感じでだいたいのことはヘルプで確認することができた。
そして、ヘルプの中に、気になる単語があった。
それは……。
「【世界の更新】……か」
この状況自体は【世界の更新】とやらのせいらしいが、俺が知りたいのはさらに踏み込んだところだ。
何故、その更新が来たのか。
確かにこの状況の原因は分かったが、その原因が発生した理由が分からないのだ。
ヘルプでも、この単語についてはまともな説明がない。
なんせ、説明が『世界が更新されること』って……んなもん字面で分かるわ。理解はできんけど。
「これ、原因が特になく、一定周期でこの星? 世界? で行われるものだとすると……」
とんでもなく酷い話だが、人類どころか地球上の全生物は、その更新に適応しなきゃいけないのだろう。
第一、その更新とやらは無事終了したのか……それすらも分からないのだ。まだこの後にでも『世界が変わりました!』ってハッキリ分かる何かがあるのだろうか……。
「【ヘルプ】なんだから、肝心のそこも載せといてくれよ……」
いや、ゲームとかのヘルプなんてこんなもんか。これはゲームじゃなくて現実だけど。ダメだ、頭がこんがらがってきた……。
そもそも、百歩譲ってこの状況が世界の更新のせいだと納得しても、何故それがステータスやらゲームチックな仕様なのかは全然分からない。
魔物みたいな、未知なる生物が出現するだけならまだ分かるが、ステータスとかは理解不能だ。
「本当に……ネット小説じゃないんだぞ……」
なんでのんびりスローライフを送ろうとしたとたんにこんな面倒なことに巻き込まれるんだ。
しかも、自分の身に起きた出来事をどこかしらの機関に説明しようにも、殺したはずのゴブリンの死体はないから証拠がない。
……いや、一応、洗濯機にはゴブリンの返り血まみれの服が入っているが、まともに取り合ってくれるかどうか……俺の精神を疑われて病院に連れてかれるのがオチだろう。冗談じゃない。
「……まあいい。未だに信じられねぇけど、この状況が現実だと信じて行動したほうがよさそうだ」
俺がそう考えたところで、【不幸感知】は特に働かないので、この選択は正しいだろう。……これは早速使いこなしてることになるのか? 俺。
それに、周囲には誰もいない一人暮らしなんだし、誰にも見られないからできることだな。人のいるところでステータスって口にするとか無理だ。
誰に迷惑をかけるわけでもないんだし、しばらくは一人で様子を見るか。
「……そうだ! この【倉庫】を確認すれば、現実かどうか分かるかも……」
というのも、ヘルプで【倉庫】のことを調べたところ、どうやらラノベやゲームでおなじみのアイテムボックスと同じものだと分かったからだ。しかも、容量は無制限というね。容量無制限がすごいことなのかどうかは不明だ。ゲームによっては、普通に容量無制限のものだってあるが……まあゲームで考えず、現実的に考えればぶっ飛んだ効果だよな。世の中の物流が根底から覆るぞ。
それはともかく、適当なものをこの【倉庫】に入れて、取り出すことができれば、また現実味が増してくるだろう。この【倉庫】という機能は、ネット小説でよく見るアイテムボックスと同じ役割らしいし。
ただ、試すために何を入れようか……。
そんなことを考えていると、俺はふとゴブリンを倒した時の棍棒を思い出した。
あれは、元々ゴブリンが持っていたものだったが、ゴブリンが消えた後もその場に残っていたのだ。
「考えれば考えるほど、草刈り機では倒せなかったのに、棍棒で倒せたのも不思議な話だよな……棍棒に負ける機械って……」
さっきの魔物の項目でも確認できたが、魔物は魔力の宿った武器でしかダメージを与えることができない。
だから、俺の持っていた草刈り機どころか、恐らくこの世界にある銃火器、何なら核兵器ですらダメージを与えられない可能性があるのだ。一応、ゴブリンに草刈り機をぶつけた時に鬱陶しそうというか、振動自体は感じてるみたいだったから、ダメージはなくても怯ませることくらいはできるかもしれないが、倒すことができないのなら意味がない。
それはこの世界の人間にとって、脅威でしかないのだ。
とはいえ、今の状況に遭遇しているのは、まだ俺だけっぽいし……。
「……まあそこら辺を気にしても仕方ないよな。ひとまず、あの棍棒を回収して、【倉庫】の機能を確かめてみよう」
そう言いながら、俺は先ほどゴブリンと遭遇した場所に移動する。
一応、家から出るときにまたゴブリンに襲われたらたまったもんじゃないので、慎重に移動する。
無事に棍棒を回収すると、急いで家に戻った。
そして、棍棒を手にした状態で【倉庫】と口にしてみた。
「うおっ!?」
俺の目の前に、黒い渦が出現した。
今までの流れから考えると、この渦が倉庫の入り口何だろうが……。
俺は恐る恐る棍棒を入れようとしたところで気づく。
「いや、待てよ? ここでこの棍棒を失うと、またあのゴブリンがやって来た時に対処できないぞ……」
危うく棍棒という唯一の攻撃手段で試しそうになったところを何とか思いとどまった俺は、家にあったボールペンを使うことに。
そして、すぐさまボールペンを倉庫の入り口だと思われる黒い渦に半分まで入れ、もう一度取り出す。
すると、特に変化した様子のないボールペンが俺の手に残った。
「渦に入れたからって、壊れたりするって感じじゃないな……」
それでも手を突っ込む勇気はないので、俺は渦目掛けてボールペンを放り投げた。
ボールペンは渦に吸い込まれると、そのまま渦と一緒に消える。
「……もうこの時点でかなりこの状況の現実味が増しているけど……ひとまず、取り出そう」
そして、もう一度【倉庫】と口にすると、全く同じ黒い渦が出現した。
「……え、まさか……この渦の中に手を突っ込まないと取り出せないの!?」
何も答えない黒い渦を前に、俺は愕然とするも、検証のため……でも、それで手が無くなったら……とか、散々悩みに悩んだ結果、俺の【鬼運】と【不幸感知】を信じて、手を突っ込んだ。後々考えれば、もっとやりようはあったのかもしれないが、この時はまだまだ混乱していての行動だった。
すると、手は何とも言えない不思議な感触に包まれる。
しかも、俺が手を渦に入れた瞬間、脳内に倉庫の中に入っている者がリストアップされた情報が流れ込んできた。
とはいえ、今倉庫に入っているのはボールペンただ一つだが……これなら、適当に入れても何を入れたか分からなくなることはなさそうだ。
無事、ボールペンを取り出し、ちゃんと機能することも確認する。
「……本当、なんだろうなぁ……」
もうすべてが俺の幻覚だというのなら完全にお手上げだが、目の前で改めてその不思議な力の一端を確認したからには、もう現実なのだと信じるしかない。
その後も軽く【倉庫】を確認して分かったことだが、別に【倉庫】と口にしなくても機能は使えるようで、さらに手に持っているモノを直接倉庫に送ることもできれば、逆に倉庫内のモノを直接手に出すこともできた。
……俺の勇気は何だったんだよ。
他には、倉庫の入り口を展開できるのは、俺を中心にだいたい三メートルの範囲で、さらに入り口は一個しか展開できなかった。その代わり、入り口は三メートルの範囲であれば、上だろうが下だろうが、好きな場所に入り口を展開することができた。
肝心の収納できる大きさや重さだが、所有者が俺、または破棄された誰のモノでもないモノであれば、どんな大きさ、重さであっても、触れてさえいれば収納できてしまうらしい。つまり、この今住んでいる家も、何なら山も、収納できてしまうということだ。……おい、トンデモねぇな、この機能。
その上、収納上限がないってんだから……本格的にこの能力だけで世界が混乱するぞ。恐ろしい。
「さて、残る機能は【ショップ】だが……」
ショップを見てみると、そこに売っているのは地球じゃまず見ることのないアイテムの数々だった。
それこそ、【初級回復薬】のような、ゲームに登場しそうなアイテムがたくさん売っているのだ。
ただ、その購入するための通貨を俺は持っていなかった。
このショップを利用するには、【魔石】が必要らしいのだ。
【魔石】とは、魔物が時々落とすアイテムらしく、そのアイテムをショップで使用することで、ショップ内通貨に還元されるらしい。
ゴブリンを倒した俺だが、棍棒以外何もなかったことを考えると【魔石】は落とさなかったのだろう。【鬼運】の持ち主とはいえ、やはりここぞってとき以外の運は普通だ……と思う。
いや、もしまた同じような状況に遭遇した時、対抗できる棍棒が手に入ったことを考えると、運が良かったのだろう。魔石を手に入れても、棍棒よりリーチが短いし、まともに攻撃できないだろう。
というか、本当にどこと取引するんだ? 謎機能過ぎる……。
「ふぅ……もう調べられるものは全部調べたし……残るは、BPをステータスへ割り振ることか……」
ヘルプで確認したところ、一度割り振ったBPは特殊なアイテムを使用しない限り再度割り振ることができないらしい。
「だから慎重に選ぶべき、なんだろうけど……」
まず、称号のおかげで俺は普通よりBPが多くもらえてるはずだ。
だから多少余裕があるともいえる。
それでも、どう割り振るのがいいのかはまるで分からない。特に魔法を使うために必要であろうMPなんて0だし、振る意味があるのだろうか。
……でも、こうしてステータスとして表示されるってことは、ここに書かれている項目はどれも大切なはずだ。そうじゃないとステータスに表記する意味がない……と、勝手に思ってる。
しかも、ゲームなら一点特化とか普通にするが、現実でそれをやる勇気はさすがにない。それこそ死にステータスとかあって、それに極振りしたとかなったら最悪だ。
それに、【不幸感知】も特に働いている様子がないし、まずは全部の項目に振り分けて、残りを……そうだな、また魔物に遭遇したら怖いから、逃げるための俊敏と、体を頑丈にしそうな耐久に振っておこう。
そう決め、実際に割り振った結果は――――。
名前:神代幸勝
年齢:22
種族:人間Lv:2
職業:
MP:0→3
筋力:5→8
耐久:5→9
敏捷:3→7
器用:4→7
精神:3→6
BP:20→0
SP:5
【オリジンスキル】
≪鬼運≫、≪不幸感知≫
【ユニークスキル】
≪システム≫、≪スキルコンシェルジュ≫
【スキル】
なし
【称号】
≪先駆者≫≪未知との遭遇≫≪原初の超越者≫
「よし、こんなところか。じゃあ、次はSPを使って――――があっ!?」
そこまで言いかけた瞬間、俺は体中に激痛が走った。
「な、なん――――があああああああああああああああああ!」
まるで全身に何かが張り巡らされているような……それこそ、新しい器官が作られているような……。
それだけじゃなく全身が作り替えられているんじゃないかと錯覚するほどの激痛が俺を襲う。
実際に体からミシミシと骨がきしむ音や、何かが切れ、蠢く音が聞こえる。
『ステータスを肉体に反映……開始。称号【原初の魔術師】を獲得しました』
そんな中、俺の目の前にふと新しいメッセージが出現した気がしたが……激痛と異音に耐える俺がそんなものに気を向ける余裕もなく、そのまま呆気なく気を失うのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます