第6話
「はぁ~」
白は朝からデートを楽しんでいるっていうのになんで俺は朝から部活なんだ。
「君がため息とは珍しいね」
「
朝っぱらからこの顔をわざわざ拝まなきゃいけないなんて、それだけで今日という日を一日を損しているのではないかと思う。
「なんか失礼なこと考えてない?」
「考えてねぇよ。何で朝からお前の顔を見ないといけないのかって考えてただけだ」
「それって普通にグレーじゃない?」
「そうでもないぞ、いつもに比べたらピュアな方だ」
そう、いつもに比べれば今日は外野がうるさくないからな。普段は来た瞬間にうんざりする程の黄色い声援が飛んでいる。
と言うか今日はやけに静かだな。今日が夏休みの日曜日だからなのか?
「……詳しくは聞かないでおくよ。しかし何でため息なんてついていたんだい?」
「白は今日デートしてんだよ。俺も可愛い彼女とイチャコラしてーってだけだ」
そもそも昔から白は女子からかなりモテていた。というか今も現在進行形でモテている。顔も悪くないし何よりあの性格だ。普通にモテるわけだ、ただ本人は全く気が付いていないようだけど。もうあそこまでいくと鈍感というレベルを超えているように思う。
「へぇ、
「まだ確定じゃないが、昨日本を買いに行ったときにな」
「へぇ、まぁ彼は誰にでも優しいからね。聡も見習えば少しはましになるんじゃないかな」
「はっ、余計なお世話だ。ほら行くぞ、最初は乱打だってさ」
この学校にはテニスコートが全部で6面ある。その為1年でもコートが使えるのだ。他の高校に行った友達はコートが2面しかなくいつも球拾いだと聞いている。そう考えるとこの高校のテニス部はかなり恵まれているのだろう。
「……にしても、白都くんも白都くんだけど聡も聡だね」
対面に歩き始めた時、工藤が何かを呟いた気がした。
「ん? なんか言ったか?」
「いや、何でもないよ。僕からボールを出すよ」
はぁあ、全くどうしてこんなに、憎たらしい程に空は青いんだか。
澄んだ空にはいつもの半分程の声援とボールを打つ音がこだまする。
***
「1つ、気になったんだけど。白都くんは昔から鈍感だったのかい?」
午前中の練習が終わり昼休みへと突入し、木陰でウィダーをチュウチュウしていた時の事。
「ん? なんでそんなこと聞くんだ?」
「少し、気になって。どうにも白都くんは鈍感というよりかは鈍感を演じているように見えるから……」
「どうなんだろうな。少なくとも俺には最初から変わっていないような気がするけどな」
ただ明らかに白が変だった時期はあった、ような気がする。それがいつなのかどういう状況だったというのはこれと言って覚えている訳では無い。ハッキリたことは言えない、そもそもそんなことがあったのかも分からない。でも、一時期白は……。
「……とし? 聡、どうしたんだ?」
「ん? あぁ、何でもない」
この記憶? が本物かは分からない。そもそも記憶なんてそんな明確としたものじゃない。どちらにしても曖昧過ぎるし不明瞭、正直俺の思い違いの方が大きいようにすら思う。
「まぁ、僕の思い違いなのかも知れない。ただ何となく避けてるように見えたものだから」
気にすることは無いと言って工藤は去っていった。
避けてる、か。
確かに改めて考えてみるとそんな節があったような気がする。でもそれは作為的、自主的と言うよりかは自然的、だったような気がする。そもそも白に鈍感というステータスが無ければ普通に彼女が出来てるはずだ。鈍感ゆえに避けるのか、避けるゆえに鈍感になるのか、場合によってはどちらも有り得る。
「……まぁ、俺が考えてどうこうなる事じゃねぇな」
過程がどうであれ決めるのは白自身、俺がどうこう言えることじゃない。
けど、何かが引っかかる、そんな気を拭うことは出来なかった。
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