第4話
時刻は7時45分、予定の15分前。
駅前のモニュメントの前に立ちながら自分が緊張しすぎているのが自分でも分かるという自体に陥っている。もう手汗が凄い、何より手汗が凄い。周りの人の笑い声が自分のことを笑っているように聞こえてくる。
「……出てくれ」
たまらず聡へと電話をかける。
『惚気はいらないぞ、それじゃ』
「えっ……」
スマホからは無機質にツーという音が流れ続ける。
あいつ、言いたいことだけ言って勝手に切りやがった。俺が話したいから電話をかけたというのにこれじゃなんのためにかけたのか分からない。
「なんて自分勝手な奴だ……」
無意識に口から愚痴がこぼれていた。
「ふぇ、私の事ですか?」
いつの間にか隣にいた少女が俺の顔を見てそう告げる。
「……いや、全く関係ないぞ。俺の友人の話だ」
「そ、そうですか。す、すいません自意識過剰でキモいですよね」
さて……これ、なんて言ってあげるのが正解なの?
多分、何も言わなければ「そうですよね、私キモいですよね……」だし、なんか言っても「そんな事ないです、私はキモいんです」ってパターンだよね。だとしても何も言わないのは論外だよな。あぁ、わけわかんない。
「……も、もっと、自分に自信を持ってもいいと思うよ、その、君は可愛いんだしさ」
って、待て待て俺は何を口走っているんだ。いくら緊張しすぎていたとはいえ流石に今のは無い。最早、俺がキモい。初対面の人にこんなこと言われてもただ困るだけだ。困るというかこの場合「この人何言ってるの……」というパターンだ。
もう病みそう、今のは完全に精神に来た。今の一瞬で俺の心のライフは0になったよ。
「ふ、ふぇ〜。
「……ん?」
少女は耳まで真っ赤にして走り去る。周りの人も驚いて少女に道を譲っている。そしてそのまま俺の事を見ている。
なんか変な誤解を受けているのでは無いだろうか。
いや、違いますからね、俺は何もしてませんからね。お願いですから携帯をしまってください。
「うぅ、災難だ……」
てか、なんであの子俺の苗字を知ってるんだ?
少なくとも俺はあの子のことを知らないぞ。それになんか予想していた反応とかなり違うんですがそれは?
「御用は済みましたか?」
ちょんちょんと袖が引かれ、声のした方へ振り返る。
そこには黒髪ツインテールの少女が立っていた、昨日とは打って変わって真っ青なワンピースを身に着けて。
「……いつからそこに?」
「なんて自分勝手な奴だ、の辺りからです」
最初じゃん、超最初からじゃん。つまりこの人俺が恥ずかしい事言ったのも全部聞いてたんだよね。
「声をかけようとしたら、いきなり隣の少女をナンパし始めるので驚きました」
「そんな風に聞こえたの?」
「はい、君は可愛いんだしさ、でしたっけ」
「うわぁー、やめてくれ。誤解だ誤解だから、俺にそんなつもりはなかったから」
つまり周りからもそんな風に受け取られていたのだろう。そうなら俺ってとんでもない誤解を受けてない? 冗談抜きに通報されそうなんだけど……。
「ふふ、冗談です。私に本を譲ってくれるような優しい人ならあの子を元気づけようとするはずですから、ただ言い方が良くなかっただけです」
ツインテ少女はそう言ってはにかんだ。
***
「気持ちいですよね、海から吹く風は」
いろいろあった後、電車やバスに乗るわけではなくこうして2人で海沿いを歩いている。案外駅前というのは都合のいい場所なのだ。集合場所としても使えるし交通機関もそろっている、駅地下はそれこそデートスポットとしても名高い。
今歩いているのは昨日通っていた道と同じ道。けれど昨日とは全く違うように感じるのは隣にいる人が違うからだろう。
「あなたは嫌いなのですか?」
少し見上げる形で俺の顔を覗き込む。
「嫌い、ではないかな、少しべたつくのが嫌なだけで」
「ふふ、まるで女の子みたいなことを言うんですね。あ、そう言えば
「ん? 何がだ?」
「私の名前です。まだ言ってませんでしたよね?」
あぁ、そういうことか。いきなり何を褒めたのかと思った。しかし驚くほどにぴったりな名前だな。イメージ通りというかなんというか。
「私、何かおかしなこと言いましたか?」
「いや、おれは
むしろ白と呼んでもらいたい。
この名前だから俺のあだ名は小さい頃から相も変わらず白頭鷲だ。まぁ、白頭鷲はかっこいいからとりわけ不満があるわけでもない。アメリカの象徴みたいな鳥だしね。しかしなぜみんな俺のことをホーク、ホークと呼ぶのだろう。ちなみにホークというのは
何というか鷲と鷹を混同している人って多くない?
結構違うからね、もし何ならググって見てよ。
「かっこいい名前ですね」
「まぁ、かなり名前負けではあるけどね」
強く気高い鷲、穢れなき白、立派で物事の中心となる都。どれも俺にはないものだ。
「そんなことないと思いますけど……」
「それよりもどこに向かってるんだ?」
「う~ん、内緒です。ついてからのお楽しみということで」
泣いた顔が様になるのも美人の特権だけれどやはり女の子は笑っている顔が一番合っている。彼女の横顔を見てふとそんなことを思った。
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