第3話
『はぁ、お前はやっぱりお前だな』
結局あの後家へ帰り事の
『しかし、良かったのか? あれが手に入ることはおそらくもうないぞ』
「まぁ、俺は読めれば良いだけだし、何よりあのまま放置じゃ後味悪いからな」
あのまま少女を放置して帰るという選択肢がなかった訳でもない、きっと大半の人は見て見ぬふりをするのだろう。それが当たり前だと思うし、見て見ぬふりをしていようと俺はなんとも思わない。でも、俺は困っているなら助けてあげたい、苦しんでいるなら支えになりたい、そうやって生きてきた。だからそれを今更変えろと言われても出来ないのだ。気付けば体が反射的に動いている。
『ま、白がそれでいいなら俺から言うことは無いよ。しっかし白は誰にでもそうだから彼女が出来ねぇんじゃないのか』
「そんなもんか? 単純にスペックの問題だと思うんだけど」
勉強も運動も身長も平凡、平均的だが裏を返せば特技と言える特技がない。案外平凡というのは一番損していると思う。何をやっても目立つことは無く大きな失敗もない。失敗しないことはいい事だが大成功出来るような部分が無くては見せ場もない。モテるためには目立つ必要が出てくるのは自明、他人と比べて何かを突出したものが必要になる。そんな時、平凡というのは何にもならない。「なんて言うか、普通だねー」で終わりである。それ以上でもなくそれ以下でもない。
何はともあれなんかしらの特技は作った方がいいとは思っているのだけれど、
『それよりも聞いてくれよ』
「上手くいったのか?」
『もう全然ダメ、話しかけても彼氏がいるからって。全く相手にもされなかったな』
まぁ、至極当然だろう。そもそもこの時期に海に来るのは大半がカップルあるいは家族、友達が無いわけでもないけれど、可能性としては限りなく低い。夏といえば海、海といえばカップル、つまり夏といえばカップル、夏はどこを歩いてもカップルで溢れている。同様に冬もそうだ。特にクリスマスなろうものなら駅前はカップルで溢れかえる。カップルじゃない人を見つける方が苦労する。
そもそも彼氏持ちをどんなにアタックしたとしても焼け石に水、全く意味なんて持たない。そんなところでナンパしようものなら自らの精神がボロボロになる。
それくらいはわかっていると思ったのだが。
『なぁ、何がいけないんだと思う?』
大方の予想通り完膚なきまでに叩きのめされたのだろう。声からはいつものような元気が感じられない。
「自分の出来る範囲と想像の範囲が食い違ってるってだけじゃない。最も聡は自分の性格を見直した方がいいよ」
『んなこと言ったってやり方分からんのだが』
「なら、諦めろ。んじゃおやすみ」
『あ、ちょ待て』
これ以上話を聞いていても耳が腐るだけなので早々に通話を切る。
「ふぁ、本読むか」
***
「うぅ〜、こんな時間に誰だ?」
目覚まし時計はきっかり午前7時を指し示してる。夏休みと言えば寝坊と夜更かしはセットになり、お得になる。オールなんて言うのもざらだ。そのせいもありソシャゲのイベントは物凄い物になると聞き及んでいる。1日寝たら泣きを見るとのことらしくそれは相当過酷なものを連想させる。
総合的に考えて夏休みのこの時間帯に起きているのは高校生においては少数派だろう。ちなみにここにはオールの人は含まれない。とは言え、世の中オールばっかりしている人というのは少ないだろう。大抵の場合オールをしようとして寝落ちとしてしまうというのが多いはずだ。現に俺も昨日は本を読んでいて寝落ちをした。
本を読んでて寝落ちをすると最悪だ、どこまで読んだのがわからなくなるからまた最初から読み直す必要が出てくるし、下手をすれば本を傷つけかねない。幸い本は何事もなく無事だからとりあえずは安心だ。
そんなことを考えながら未だに鳴り止まない音源を探してベッドの中を手探る。
「あった、って誰だ?」
スマホの画面には知らない番号が映し出されていた。市外局番では無いから携帯なんだろうけど、俺と携帯で電話をするのは聡と家族くらいだ。それに家族と聡は名前が変えてあるからひと目で分かる。
「ふぁ、もしもし」
『もしかして今起きたのですか?』
電話の向こうからは澄んだ声が響く。
「えぇっと、どちら様で?」
『あなたは昨日話した女の子の声すら忘れるのですか? 私ってそんなに存在薄いですか?』
「あぁ、昨日の。何か用か?」
『何か用か? じゃないですわよ、私昨日はいつかかってくるのかなって楽し……気がかりでしたのに。なんであなたは悠々と寝てるのですか。私は寝てないのですわよ?』
「えぇっと、ごめん?」
『まぁ、いいです。それよりも今日空いています? 空いてないのならあなたが空いてる日を教えてくれません?』
「俺はいつでも暇だぞ、バリバリの帰宅部だからな」
登校することを大前提とした帰宅部は夏休みの間これといった活動は無い。当たり前だよな、登校しないのに帰宅など出来ないのだから。
『なら今日、1時間後に駅前に集合でも大丈夫ですか?』
「あぁ、問題ない」
そう言うと電話は向こうから切れた。これってもしかしなくてもデートのお誘いですかね。俺も遂にリア充への道のりを歩けるということなのか。
期待と緊張で心臓が限界を突破しそうな程に脈を打ち始める。
「ま、行かなきゃ分からないよな」
それに昨日私が納得するまでどうこうという話をした。彼女からしたらこれはそういうことでは無いのだろうか。だとしたら恥ずかしいぞ、勘違い野郎だけにはなりたくない。いつも通りに平静を装って……というか俺、彼女の名前を未だに知らないぞ。
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