第15話 次に見るモノ

私は、インターホンを覗く奏の姿に正直迷った。

居留守をしようか、それとも帰ってきてくれた奏に素直に喜ぶべきか。

「うーん…」

迷った挙句、静かにドアを開けた。

「やっと、開けてくれた…。アイス溶けるだろうが!」

ズカズカと我が家のように上がり込んだ奏は、重そうな荷物を下ろし買ってきたアイスを食べ始めた。

「え、えっと…」

「ん!」

そう言って、差し出されたアイスは、春の陽気だというのに、少し溶けていた。

「ありがと…」

そう言って、お互い会話のないままアイスを食べるシャリシャリという音だけが聞こえる。

なんだ、この時間…

奏は何を考えているんだ。相変わらず、読めない。

「あ、これ。みていいか?」

そう言って、カメラを手に取った。

「え、ハズイからダメ。」

そう言ったのに勝手に見始めた。

んで、勝手に笑っている奏。

「な、なにがおかしいの」

「これ」

ニヤッと笑った奏の顔は、高校の時と2年前と変わらなかった。

その笑顔に少しホッとした。

やっぱり、好きなんだなと実感する。

でも、見せられた写真で感情が急転した。

「それ…消したはずなのに。」

「自撮りしたの?可愛いじゃん。」

そう、あの海で撮った1人の写真。

すべてを壊している私の写真。

「どこが!!!全部壊してるじゃん!!!汚くて、醜くて・・・」

奏にぶつけていたら、涙が止まらなくなった。

自分は、奏に会って変われた。

人を信じる勇気と自分を好きになれっていう気持ちをもらった。

そう思っていた。

なんだか、いろんな言葉にならない気持ちが涙に変わって溢れてしまった。

なにも言わずに奏は、真正面に座って私の涙を拭いてくれた。

「奏…」

「なに…」

優しい声で奏は聞き返す。

「私、信じてあげられなかった…ごめん・・・」

フッと笑って、奏は私を強く抱きしめた。

「そんなのどうでもいい。最終的にお前は鍵を開けてくれただろ。それだけで十分だ」

私の目を見て、奏はそう言った。

「でも…」

「でもじゃない、俺もあんまり連絡できなかった。」

ううん、と私は首を振った。

真っ赤になった目は、腫れぼったくて、可愛いとは言えなかった。

それでも

「美香、」

「ん?」

「ただいま。」

そう言って、奏はキスをした。

あぁ、2年ぶりの感覚。

待ちに待った、奏。

「ん・・・」

奏も幸せそうに微笑む。

こいつ、こんな柔らかい表情できたっけ。

「美香、いい?」

何度も後輩を断り続けたかいがあったと、つくづく思う。

なんて心地いんだと。

「奏!!!」

そう言って、返事の代わりに抱き着いた。


気が付けば、夕方に奏を家に入れたはずなのに外は、真っ暗になり日も変わっていた。

「なぁ。」

「ん?」

「俺別れたとか、思ってねぇからな。返事してねぇし。」

「でも。」

「でもじゃない、何を美香が思ったか知らないけど、俺はなにも変わってない。あの頃のままだ。それに俺が他の場所にかぶれると思ったか?」

「思わないけど…心配はする。」

私がムスッとすると奏は笑った。

「俺は美香しか興味ねぇ。」

「なっ」

「あっちの女も興味ねぇ。」

そう言って、あやすかのように抱きしめた。

奏の言葉に終始照れながらも、奏の胸に顔を埋めた。

そして、久々にお酒の力も借りずに眠ったのだった。



「美香!!起きろ!!」

「んん・・・」

「出るぞ!」

そう言って、奏に起こされた。

机の上には朝ごはんが並べらえている。

「なにこれ、奏作ったの!?」

「えっへん。久しぶりに日本食を作ってみた。」

「っすご」

「食べるがいい!!」

朝起きたら、朝食できてるとか、神かよ。

てか、奏。料理できたんだ・・・

少々感心しながらも、恐る恐るご飯を口にした。

「うま・・・」

「だろ~」

そう言って、海外の話を奏に聞いた。

土産話は、尽きなかった。

お互いの時間を埋めるかのように高校の時のように話した。

ほんとにその何気ない時間が、私たちにはとても大切で、一番楽しい時間だった。


奏はしばらくしたら、また戻ってしまうらしい。

研究チームにそのまま就職という形を取ったらしい。

それまでに遥翔やみんなにも会いたいらしい。

そして、本腰を入れて拠点を変えるのだ。

天文学の考え方は、奏みたいな変わった考え方の人がたくさんいるらしい。

その人たちの中で、討論して研究していくなんて本当にすごい。


私はこれからどうなるのか、分かっていた。

いや、断られても決めていた。

自分の考えを、自分のために使って行動するのは初めてかもしれない。

私は、醜い汚れじゃない。

それを証明するために動くことを決めた。



前を歩く奏の見て、私は声をかけた。

「次は、なにを観ようか?」

と。


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