第13話 溶けていく遠距離恋愛

半年前、ギリギリで提出した奏の論文が海外の学者の目に留まり、卒業後2年の間海外に行くことになった事が事の発端である。

「なんで適当に書いた論文がこうなるかな…」

「そんだけ才能があるんじゃないの。」

「でも、2年でしょ。地味に長くね。」

奏は今、大学近くの私の家にいる。

私はというと、高校卒業後、地元就職はせず、少し離れた町で修飾を市し、圭太を高校に通わせている。

あんな実家においておけない一身の決意だった。

奏も論文の件がなければ、就職をして圭太が高校を出た後、同棲するつもりだった。

「あ、おかえり、圭太くん」

「圭太、おかえり~」

奏を顔を見ると、圭太はぱぁっと明るくなった。

「圭太兄ちゃん。今日も食っていくの」

「そのつもり~」

既に引っ越してきた時点で、ほぼ毎日のように家に来ている奏は圭太の本当のお兄ちゃんのようになった。

圭太は、部活とバイトの両立をして、成績も普通。

問題なく来年の春には卒業できるくらい、いい子に育った。

「そういえば、圭太、卒業したらどうすんの。」

「あ、俺も聞きたい。」

圭太は、当たり前のようにすました顔で就職と答えた。

「だって、俺にも彼女いるし、問題なく卒業もできる。一人暮らししたいし。」

「そっか~」

「いい子に育ったな、圭太くん」

「それは、奏兄ちゃんが勉強見てくれるし、姉ちゃんだって家事とか仕事してくれてるからじゃん。」

「でも、普通の高校生ならグレてもいいんだぜ?」

「グレる理由なんてねぇよ」

「そっか~、だって。お姉ちゃん」

「やば、私泣きそ…」

本当に涙腺が緩んでしまう。

「なんだよ、気持ち悪いな」

笑いながら、ご飯を食べる。

まるで本当の親子のようだ。

でも、圭太にも言っておかなければならない。

みんなでご飯を食べた後、圭太に話を奏が持ちかけた。

「圭太くん。」

「何奏兄ちゃん。改まって。」

「俺さ、2年間海外行くことになったんだよね。」

圭太も驚いて、持っていたコップを落としそうになっている。

「おわっと…。あっぶね。てか、冗談でしょ」

「それが、マジなんですよ。圭太」

「姉ちゃんも知ってんの」

「さっき話した。」

「なんでまた」

「俺の卒業適当論文が海外の学者の目に留まりまして。」

「2年間の留学。」

「すげーじゃん!!めったにないよ、そんなの。」

「そうなんだけどね」

奏と共に私は俯いた。

「なに、行かせたくないの、姉ちゃん。」

「ん~、俺が心配なの。こいつ1年も一人にすんのが。」

納得の顔をした圭太は、こういった。

「じゃあさ、俺独り暮らし伸ばすわ。それでよくね。姉ちゃん割とため込むし。」

「えっ」

「でも、圭太、彼女と同棲したいんじゃないの。お年頃だし。」

「ん~、そうだけど、金も貯めたいし、1年くらいいいかなって。」

私と奏は顔を見合わせて悩んだ。

「それは申し訳ないな。」

「それな、ちょっとな~」

「なんでだよ、恩返しさせろよ。」

「「ん~」」

<テレン>

「メッセージだね」

「あ、琴菜」

「電話かければ」

「それもそうね」

<もしもし

<はーい。どしたの

<実はカクカク、シカジカで

<なるほどね、じゃあさ、こうすれば。

<お~ありだね。それ

<でしょ

<ありがと。うん、またね。

「なんだって?」

「たまに弟が見に行けばって」

「うーん」

「どしたの奏」

「俺は別にいいけど、奏兄ちゃん?」

「俺的に海外連れていきたいだけど。」

「なっ」

「お~」

私は驚いたが、圭太は目をキラキラさせている。

「か、海外なんて私無理。喋れないし、怖いし。」

「それは俺がいるじゃん」

「でも、仕事あるし」

「やめればいい。まだ20歳だよ?」

「いや、やっと軌道に乗ってきた。やめたくない」

「そっか。じゃあ仕方ない」


そう言って3か月後奏は海外に行く日。

「浮気すんなよ」

「これじゃあ、持っとけ」

指にはめられたのは…

「これ」

「こっちの箱は俺のね。持っといて。取りに必ず戻る。」

チュッ

「奏!!待ってる」

そう言った私に手を振って行ってしまった。

背中は大きかった。

そして、結婚指輪を置いてった。



~1年後~

「圭太、仕事明日からでしょ。」

「大丈夫だよ。それより、連絡とってるの、奏兄ちゃんと」

「たまに」

「なんだそれ。不安じゃないの。奏兄ちゃん結構整ってる方だし」

「知ってる!!さっさといけー」

「はいはい。またね」

「うん」

外は快晴。鳥が鳴いている。

「あ…」

ふと、面白い形の雲を見つけた。

「犬?ライオン?でも…」

写真に撮ったのは狼ってことにしておいた。

1人暮らし、3人でいた食卓は一人になり、少し最初は寂しく思えた。

でも、引っ越してきて働いてからもすることが変わらない事。

それは、写真。

風景やみんなの食卓。今日のご飯。

写真の枚数は増え、被写体も増えた。

でも、自分は撮らない。

ふと、奏の写真を眺める。

「カッコいいな…」

そうぼやいて、画面をなぞる。

そして、いろんな記憶が蘇る。

告白に修学旅行。海にお祭り。何もかも…

キスもセックスも匂いや仕草…

「奏…」

風景の写真は、サイトに投降したこともある。

社会人になって、1眼レフも買った。

写真が増えるたびに奏を思い出すようになり、依存していた自分に気づく。

そしてある日…

<奏…急に電話ごめん。忙しかった?

<ううん、大丈夫。どした

<いや、声聞きたくなって

<なんかあったの?

<ううん、とくに何もないんだけど

あぁ、落ち着く。

でも物足りない。

そう言って、自分の大事なとこを弄り始める。

<なにしてんの?息荒いよ?

<そ、そんなっ…ことない。

<そ?じゃあ、もう少しマイク下に向けて

何をしているのか察したのか奏がニヤリと笑った気がした。

<悪い子だね、音立てて…

<な、なにも

<ビデオ通話にでもしようか?

<だ、だめ…

<美香、浮気するなよ?

<しない。奏がいい

<そっか。じゃあ変態さんはもう半年待っててね。

<うう…

そう言って、電話がいきなり切れた。

何かあったのかな、どしたんだろ。

てか、そろそろ…。

ぼんやり、濡れた指を見て思う。

あー、奏まだかな。






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