第12話 卒業とそれぞれの道

窓からは桜が見える。

長かったようで短かった高校生活。

今日、卒業する私たち。

「では、これから卒業をし、それぞれ新しい道に進む皆さん~」

ヒソヒソと声が聞こえる。

確かに式辞がそれぞれ長い。

「美香、長くね。」

隣の遥翔が声かけてきた。

「確かに、これに関しては長いよね。」

「早く終わって、打ち上げして~」

「静かに…、バレるよ」

「最後ぐらいいだろ」

泣いてる生徒もいる。

まぁ、私たちは泣かないだろうな、誰一人。

だって、これからも何回も逢うだろうから。


「あぁ、終わった~」

「だるかった」

「それ、半分寝てたわ。」

「奏、寝てただろ。」

男子たちがまたいつものくだらない会話をしてる。

琴菜はそれを見て苦笑い。

廊下で話していると、3人の女子たちが男子たちに話しかけてきた。

琴菜と様子を覗っていると、奏に用があるようだった。

「奏先輩!!お話いいですか?」

奏たちはびっくりしている。

イケイケでもない私たちゲーム集団に話しかけて来たのだから。

しかも、年下の生徒が1匹狼の奏にだ。

功太や瞬なら部活や委員会で人当りもいい。

遥翔も少し後輩に友達もいる。

でも、呼ばれたのは奏だ。

私は、まさかと思ったが、そのまさかだった。

「奏先輩、入学してから部活や行事を拝見させて頂くうちに好きになってしまって。遠距離でも構いません。リボンとネクタイ交換してしただけませんか。」

そう、私の学校では、女子はリボン、男子はネクタイ。

交換すれば、交渉成立。何度も過去の先輩たちはそれでカップルを成立させてきた。

「わ、わたしお姉ちゃんがいて他にもリボンあって…」

奏はチラッとこっちを見てニヤッと笑った。

「そっか。俺と付き合いたいのか。ネクタイ交換してもいい。」

その言葉に私は、びっくり。そしてモヤっとした。

そして、諦めている自分がいる。

その様子を見てたみんなは、口を出そうとした。

でもすぐ奏は言葉を続けた。

「でも、悪いが付き合えない。」

「え、なんで。交換してくれるんじゃ…」

その女子は泣きそうだ。

いや、泣きたいのこっち何だけど。と内心思う。

奏は私のとこに歩いてきて、頭に手を乗せてきた。

「おれは、こいつにしか興味ない。だから付き合わない」

「奏…」

そう言って、ネクタイを女子に投げた。

「これで気が済むならやるよ」

そう言って、私の顔を確認する。

私はムスッとして、そっぽを向いた。

「奏先輩のイジワル!!」

そう言って、ネクタイを投げ捨てて帰った。

廊下には奏のネクタイと私たちだけが残った。

「ぷっ」

「ぷっふふ」

瞬と功太が笑いを堪えられず笑っている。

「なんだあの振り方!!」

「奏先輩のイジワル!!だってー」

「やれやれ・・・」

「ヒヤヒヤした。」

「どうだ、俺の悪人っぷり。」

自慢げに奏は言う。

私は奏のネクタイを何も言わず拾って、奏に渡した。

「美香?」

「ふんっ」

そう言って、他の教室の友達のとこに逃げた。

奏の馬鹿。

そんなことを思いながら。

「ありゃ、後輩に先越されて怒って行っちゃったよ。」

「違うでしょ。」

「奏が悪い。」

「俺なら、穏便に済ますのに。」

そう口々に奏を責めた。

「なんだよ、笑ってたくせに。」

瞬が口を開いた。

「5時に予約店取ってるから。いつもんとこ。」

「俺たちはゲーセンにでも行きますか。」

「さんせー」

「奏、美香どうにかしてから来てね」

そう言って、奏だけが残された。

「まじかよ。まあいっか」


もう、奏の馬鹿。

そう言って、いつもの海でパックのリンゴジュースを飲み干す

「制服で二人で撮りたかったつうの…」

「素直に言えばいいのに」

「こっち見たくせに」

「それはついね~」

「って、奏!?」

「やっと振り向いた」

そう言って、隣に座る奏。

「嫌だった?」

「別に」

そういうと、奏に顔を両手で挟まれた。

「にゃにしゅるんだよぉ」

私の顔を見て笑っている。

「あほずら」

「うりゅしゃい、はにゃせ」

「じゃあ、素直に言う?」

「にゃにを…」

「思ってること」

私の思ってること。素直に。

私の顔を見て、手を放した。

「少しづつでいい、俺だけでいい。素直になって話せる誰かを作れ。」

その言葉に泣きそうになる。

私は小さな声で話した。

「私は、人の事を簡単に信用できない。顔色も窺う。それは癖になってる」

「うん」

「だから、奏の事も完全に信用してるわけじゃない…」

「うん」

「奏が交換してもいいって言った時、諦めている自分がいた。」

「うん」

「こいつもいなくなったって。」

「うん」

「だから…」

奏は優しく相槌を打ちながら、私を抱きしめた。

「わかってる。でもそれでもいい。」

「奏…」

「お前がそうなったのは、お前のせいじゃない。それも個性だ。」

「でも、奏もいつか愛想つかしていなくなる。」

奏は私の目を見て言った。

「俺は、居なくならない。俺は、お前のそばにいる。」

と。

私は泣いた。子供のように泣きじゃくった。


「遅かったな、って美香、目が」

「お前、また泣かせたな!?」

「おいおい、門出の日だぞ」

「美香、目、冷やしな」

「ありがと」

それから写真を撮ったり、ゲームをしたり、たくさん話をした。

なにも変わらないこの仲間がまた集まれますようにと。


「じゃあな、みんな。また帰って来いよ」

「奏、美香泣かせたら承知しないぞ。」

「わかってる」

「寂しくなるな~」

「また会えるでしょ。」

「みんな、またね」

そういって、手を振って別れた。

それぞれの道に…。



~二年後~

「遠距離か~」

「しかたないね~」


続く…


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