第10話 俺と君のテリトリー

春も終わり、季節は夏。

残り半分となった高校生活は、いよいよ進路決めの季節に差し掛かっていた。

私は、弟の圭太を連れて、県内の専門学校へ。

オープンキャンパスとAO面接試験を終え、後は高校生活を満喫するのみとなった。テストの点数もこれ以上悪くなければ、卒業できるとのこと。

しかし、問題のやつらは多かった。

「俺、やりたいこととかねぇよ~」

「地元就職して遊べればいい。」

功太と瞬はそんなことを嘆いている。

「そんな訳に行かねぇだろ。まあ、俺決まってるけど。」

先に進路を決めている琴菜と遥翔は遠距離なってできる訳もなく、同じ学校に決まっている。

「お前らは、いいよな~。」

「同じ学校だもん」

「でも、美香大変じゃね、弟見ながらなんて。」

そう心配してくれてるのは遥翔。

私の家の話は、このメンツには隠し切れず話したのだった。

「そうよ、学校行きながらなんてもともと体弱いのに…」

この件に関しては琴菜も最初は反対だった。

でも、どうしてもと私はみんなの意見も聞かずバイトをしては、来年の資金集めに励んでいたのだった。

「それにしても、今日奏いなくね。」

「確かに。この時間には来ているはずなのに。」

「今日来ねぇみたいだよ、あいつ」

瞬が答える。

「風邪でも引いたんか?」

「いや、用事があるって親から電話があったらしい。」

「用事ねぇ~。」

珍しく寂しく感じる。

「美香、寂しいんか、旦那いなくて。」

そうやって瞬が茶化す。

「俺の胸開いてるよん」

そう言って、両手を広げる功太。

「遠慮しまーす。バイトなんでお先~」

そう言って、ニコッと笑って教室を後にした。

そうして、バイクに跨り、バイト先に向かった。

メッセージが届いた事も気が付かずに。


バイトが終わり、時間を確認する。

「ん~、まだ時間あるな。」

門限まで時間がある。

向かった先はもちろんいつもの場所。

ざざーざざー

波の音と潮風が心地い。

いつものようにカメラを開こうとすると、メッセージに気が付く。

「奏からだ…。」

<これ見ろ

そうして添付された写真には短期大学の校門が映っていた。

「海星?短期大学…」

どこかで聞いた事のある名前。

奏はもともと星が好きなのを知っていた。

学校の成績こそ悪かったが、ちゃんと勉強してないからであって記憶力だけは良い方だと思っている。

私は、カメラで写真を撮るのをやめて、大学について調べ始めた。

「これ…」

「驚いたか?」

そう言って、現れたのは奏だった。

まさに進出気没。

「な、なんでここに。」

ニヤッと笑って真っ暗な海?空を見つめる。

その横顔は綺麗で思わず、写真を撮ってしまった。

「おい、なんで撮るんだ!!消せ!!」

そう言って、携帯を取ろうとする。

「だって、横顔が綺麗だったから。月をバックに…」

そう言った私に奏は呆れた顔をした。

「俺は、言っただろ。お前、たまには被写体になれと。」

そう言って、頭に手を置いた。

「バイト後だから、臭いよ…」

「そんなこと、どうでもいい。」

そう言ってキスをした。

「そろそろ、慣れろよ。」

フッと笑った奏は真っ赤な私を抱きしめた。

私は素直に思っていることを聞いた。

「どううして、この大学なの、それにここって」

私の言葉を遮るように奏は、私の耳元で囁いた。

「なぁ、俺の事まだ好きか?」

その言葉に私は静かに頷き、奏の胸に顔を埋めた。

照れてるのを隠すように。

「そうか」

それだけ言って、奏はキスをしようとした。

でも女の子ならだれでもあの言葉が聞きたい。

そう思った私はキスを拒み、もう一回奏に抱き着いた。

「奏は、あれから変わったの?」

そう言った私に、真正面から私の目を見て答えた。

「俺は変わってない。でもお前を見る目は変わった。好きだ。」

そう言って、照れてるのを隠すようにキスをした。

クチュクチュと深いキス。

私、知らない、こんな、むさぼるような…。

「ん…んん~」

息が持たない。

必死に奏にしがみ付く。

苦しそうな私をやっと離した奏は最後に私の顔を見て、軽くキスをする。

「はぁ、はぁ…」

「鼻で息しろよ。」

そう言って、奏は笑う。

でも。

「その顔、たまんないな、とまらなくなりそ。」

そう言って、私にキスをする。

「ちょ、まって…。かな…で…んん」

そんな私の言葉はお構いなし。

私も変な気分になってきてしまった。

でも、心地いい。

奏の唇が、舌が私を離さないと言ってるようで。

奏は、また耳元で囁く。

「俺だけに言わせるつもり?言わないと止めないよ。それとも止めないで欲しいのかな?」

そう言って囁く耳元に熱い吐息がかかる。

こんな時までイジワルを言う奏。

「かな、で…」

「なに?」

「好きです…」

そう言った、私によくできましたと言って、首元をペロッと舐めて

「んん…、イタっ」

その反応に奏は楽しそうだった。


海の潮風と波の音

これが私の場所ではなく、私たちの場所になった日。

心地よくて、幸せな日。

でも、門限は過ぎてるし、お風呂に入って気が付く。

「なにこれ~!?」

私の鎖骨には赤黒く痕になっていた。

狼に食べられた痕。

そして携帯の履歴には、

海星短期大学と私の今度行く学校が記されていた。

徒歩10分と…。




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