第6話 蛇とジンベイザメ

奏の誕生日から一週間がたった。

あの日から、奏は柔らかくなり、話しかけてくれるようになった。

そして、毎日途切れないようにメッセージをお互い送り合い、修学旅行に向けて、近況報告をするようになっていた。


<奏、次、お土産とか、いろいろある所だね。

<そうだね、土産とか俺別にどうでもいいんだけどな。

<そんなこと言わないの、写真とかもいろいろ撮れるみたいだし、

<写真きらーい


そう連絡を取り合っている間にクラス別のバスは沖縄ワールドに到着した。

この場所では自由行動になっていて、集合時間に間に合えば、館内のどこにいてもいいという所だ。今回の修学旅行は二泊三日だが、ここと、水族館だけが自由行動になっていた。

だから、奏に会えるのは、チャンスの二回のみ。

私も遥翔もそのチャンスを逃せまいと、慌てて携帯を出す。

4人のグループには奏からの返信はない。


<琴菜、どこにいる?奏と一緒?

<違うよ…。奏は既に見当たらない。

<じゃあ、どこかでとりあえず、琴菜だけでも合流しよ。


「ったく、奏のやつ、どこにいるんだよ。まじ、自由人だな。」

「のらり、くらりの一匹オオカミだからね~」

そう、遥翔と話しているうちにスンとした顔で琴菜が合流した。

「来るとき、奏見なかったわ。」

「そう…、そうだ、せっかくの自由行動だし、二人で回ってきなよ。」

そうゆう、私にびっくりした顔で申し訳なさそうに遥翔が

「いいよ、美香一人にできないよ。」

「そうだよ、あんたも一人でフラフラしてたら、バスに間に合わなくなるかも。」

「大丈夫だよ、あっちの方にある蛇の博物館気になるし、携帯ちゃんと、確認するようにするから、行っておいで。」

そう言った、私に戸惑いながらも、二人は分かったと言って歩いて行った。

「さーて、見に行ってみますか。」


1人で歩き始めて、ハブのショーを見ながら時間つぶしをしていると、見覚えのある後ろ姿が見えた。

みんなショーに夢中で、前を向いている。

<奏、後ろ!!


メッセージに気が付いた奏が振り返る。

ショーが終わり、お客さんが出ていく中、出口の所で待っていると、奏がニコッと笑った。

「逢えたな」

「うん」

でも、時間がバスの集合時刻に迫っていた。

「急ぐぞ!!」

そう、手を取って走り出したのは、大きな白蛇のいる所だった。

「わあぁ」

その大きさにびっくりして、はしゃいでいると、

「すみません、二人で写真撮りたいんですけど。」

「かしこまりました」

と店員さんが先導してくれた。

「じゃあ、のせますよー、彼女さんは尻尾、彼氏さんはここを抑えてゆっくり頭を持ってくださいね。じゃあ、撮りますよー」

まさか、奏とツーショット…。それに、か、か、彼女さんって。

白蛇さんは大人しく、よく見るとシュッとしていてかっこよく見えた。

「じゃあ、こちら写真になります。」

渡された写真は二人とも笑っていて、すごくいい写真だった。

ん?奏、ネックレスしてる…。ま、まさか

「か、奏、そ、その!」

「時間だろ!!走るぞ!」

「時間!?あー!」

思いっきり、館内をダッシュ。

バスについた時点で点呼が取られており、先生に注意された。

ってか、ちがーう!確認したい、今すぐに!

と、一人で、悶々としながら、その日は終わったのだった。

私と奏は、軽く、お互いの担任に時間厳守でと釘を刺されてしまった。


3日目の最終日。最後の場所、みんなが待ちに待った水族館。

カップルたちは手をつなぎながら歩き、仲のいい友達達と満喫して、外の海風を満喫。

とは、なっていない私。

またもや、奏がいない。

そして、仲のいい友達もいない私は、また一人でフラフラとしていた。

水族館は、元と好きだ。暗くて、静かで、魚を眺める。

なんと、落ち着く場所なのだろう。

入り口にいる、綺麗なサンゴに熱帯魚、進むにつれて、深海魚になり、大きな中央大水槽にたどり着いた。そして目を疑った。

「でかい…」

のんびり泳いでいたのは、大きなジンベイザメ。初めて見た。

ぽかんと口を思わず開けながら眺めていると、頭をぽんっと後ろから抑えられた。

「奏…」

振り向くと、奏が居て、うるっと涙腺が緩んだ。

ネックレスに目をやっていると、

「よぉ、泣くなよ、なんで俺見ると、泣くんだよ。」

と、困ったように笑った。

「だって、探してもいなくて。」

「俺も探してた、もう少し時間あるから、一緒に回らないか?」

コクンと頷いた私に手差し出す。

まるで、周りから見たら、カップルではないか。

はずかしく思いながらも、もちろん手を取り歩き出した。

そこからは、本当に楽しかった。

クラゲを見たり、サメを見たり、いろんな魚の写真を撮った。

土産屋に付き、ジンベイザメのぬいぐるみを、見ていると

「ほしいのか?」

と奏が声をかけてきた。

「んー、弟に頼まれたから、買おうかなと。」

「お前は?」

「え?」

「何度も言わせんな。お前は欲しいのねぇの?」

「あ、え、えっと」

目の先には、青と緑のペアのキーホルダーがあった。

「あれか」

そう、一言言って、キーホルダーと取って、レジで会計をして渡してくれた。

「やる。」

そういって差し出されたのはジンベイザメのキーホルダー

奏はペアなのに2つとも渡してくれた。


それから言い出せないまま、修学旅行最後が終わってしまった。

意気地なし、自分

そう思いながら、2匹のジンベイザメを見つめる。

修学旅行の解散と告げられた後、奏を探す。

居なくならないで、待ってと。

「かなで!!」

見つけた奏は、驚いた顔をして、私の言葉を待つ。

「これ、奏が一つ持っててくれないかな、」

「なんで。お前にやったのに」

「緑は奏が似合う、それにこの方が、その…、嬉しい…です。」

俯きながら、照れた私に

「わかった、じゃ、俺がこいつの面倒みてやる」

そういって、受け取ってくれた奏は、嬉しそうに、携帯につけた。


家に帰って携帯についたジンベイザメを眺める。

次の日の早朝、朝焼けとともに、海に向かって写真を撮った。

ジンベイザメも一緒に。

「ありがと、奏、ジンベイザメさん」

そう呟いた、私の声は波にかき消されて、朝日が海を照らしていた。

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