第5話 止まった時間と歯車

奏とは学校で逢っても、グループにいる時に話すぐらいで個人的には話さなくなった。メッセージのやり取りもなかったわけではないが、私から送って一言返事が来るだけ。

内心、正直寂しかった。

先生との噂のほとぼりは落ち着いたものの、学校での私の評価は悪くなる一方だった。今までの虐めは、琴菜や遥翔、瞬に功太、いつもの仲間が守ってくれた。

昼休みや放課後は迎えに来てくれるし、それがなければ、私もバイトに専念する日々が続いていた。


季節は移り変わり、12月修学旅行の話題になった。

私たちの行き先は、沖縄に決まり、クラス行動が多いため、グループが次第に固まっていった。私は正直、他のクラスの琴葉たちと回りたかったのだが、それは許されることがなかった。私は、遥翔に手招きされ、陰キャ側のグループに入れてもらった。遥翔が居れば、安心だ、そう思っていた。

準備が進むにつれ、噂が耳に入ってきた。

「奏の奴、クラスで一人行動するらしいぞ。」

「クラスの中に、特に仲のいい奴いないからな。」

奏はもともと一匹オオカミだから本人はまるで気にしていないようだけど、周りは黙っていないだろう。奏のクラスは陽キャのクラス。私が切り離した女子たちもいる。どんな事が起こるかまだわからない。


不安の積もる中、みんなでカラオケ行った時の事だった。

「奏、そういえば来週誕生日だよな」

「なんで、遥翔知ってんだよ、きもーいw。」

そんな男子たちの会話に私は、なにもしてあげることが出来ない事に気が付いた。

「じゃあさ、みんなで奏の誕生パーティしないか?」

功太も瞬もノリノリだ。

「じゃあ、どこでやる?カラオケっていうのもなんかなぁ。誰かんちでやる?」

琴菜もそんな事言い出した。

サバサバ系の琴葉が言い出すの珍しい。

「功太んちは?」

「いやー、その日はなぁ…」

「瞬とこは、遠いしな、琴葉の家は?」

「だめだよ。」

「「「ですよねぇwww」」」

「うち、たぶん大丈夫…」

ボソッと呟いた私に遥翔がすぐさま食いつき、修学旅行の一週間前に来ることになった。幸いその日は、家族総出で旅行。その日に帰ってくる事になっているけど、そこまで早くは帰って帰って来ないだろうと思い、了承したのだった。

奏の顔が見れない。私から言ったのに。

「奏は、別にそんな事しなくていいのに」

と、言っていた。

<なんか、ごめん、私から言ったのに、距離置こうって>

<いや、みんな乗り気で集まれる時間が欲しかったんじゃね>

<そうだよね、ありがと>

<ん>

そんなやりとりが夜に続いた。

こんなに話したのは久しぶりだった。怒ってなくて少しホッとしていた。



私は、ある日の帰り道に学校近くのアクセサリー店に入った。

誕生日プレゼントを買うためだ。本人に聞けば、100%いらないというだろう。

でも、少し迷惑をかけたし、まだ好きだし、渡したいと思い立ったのだ。

しばらく話していなかったが、でもなんとなく直観で選んだ。

「うん、似合うはず」

少し高かったが、奮発した。



「「「「「奏、誕生日おめでとう!」」」」」

ふーっと渋々ろうそくの火を消すと、照れくさそうに

「ありがと」

とに一言言った。

みんなで、ゲームしたり、テレビ見たり、ケーキを食べたり、

珍しくカメラに応じた奏は笑っていた。

(かわいい)

1人でニヤニヤしていると、耳元で琴葉が顔に出てると言って、背中を叩かれた。

ヒリヒリした背中を摩っていると、

「俺、トイレ行ってくる」

と、奏が立ち上がり、部屋を出て行った。

これはチャンスだと思い、私もさりげなく後を追いかける。

トイレから出てきた奏は、私を見るなり、何といって、逃げようとする。

「ここに座って。」

「なんで」

「いいから。」

渋々連れてこられら開いていた部屋のベットに座る。

私の部屋だ。

「目を瞑って」

「ん」

買ってきたネックレスを後ろからかける。

ヒヤッとした金属にビクッと一瞬させながらも動かないでいてくれた。

「いいよ、目を開けても」

目を開けた奏は、少し驚いた顔をして

「これくれんの」

と言って、ネックレスに触れた。

私が選んだのは、黒に近い歯車の形に周りが緑色で縁取られた物だった。

「その、いろいろ迷惑かけたし、これからも仲良くしたいなと…」

俯きながら言う私に、頭にポンっと手を乗せ、

「当たり前だろ」

そうに一言言って撫でてくれた。

嬉しかったし、安心したのか涙が出た。

「泣くなよ、俺様の誕生日だぞ。」

「う…うん。おめでとう、奏」

そう言って笑った私に、奏も笑い返して慰めてくれた。


この日は、忘れないだろう。

私たちの少し止まった時間が動き出したような気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る