第2話 お菓子につられて

たまにすれ違っていたかもしれない。いや、忘れていただけで彼は同じクラスだった。

不思議な彼は、影が薄いわけではないのだろう、むしろ、影を自発的に消しているのかもしれない。陰キャでも陽キャでもない。そして、どこのグループにも属さない、まるで、一匹オオカミ。噂によると、自分からは話さないタイプだが、少し打ち解けると、ノリが良いはっきり物を言うタイプらしい。また、一つ頼み事をすると、嫌だと言いながらもやってくれて優しいらしい。いわゆる、ツンデレというやつか。人女子受けも悪くない。彼の幼馴染に聞いたところ、母親がPTAの副会長でよく地域貢献もしている動ける方に多趣味な父親。家族関係も悪くないらしい。彼女歴は0。

人の事は言えないが、私も学校での表向きは、裏表のないみんなと仲良くできる、必然的にいろんなグループを行き来する情報屋のような立ち位置だから、知ろうと思えばそれなりの情報は耳にする。私も自分で思う、変な役回りだと思う。みんなから必要とされるのは悪い気分ではない。でも、1つしくじると、この前のように信頼を失い、人が一人ずつ消えていく。だから、私を必要と関わる人間は友達であり、一種のアプリユーザーみたいなもの。だから、心の中では信用していないのだ、菊枝美香という一人の人間の心は。

それにしても不思議な存在だな、個人的に興味が湧く。こんなに人に恵まれているのに。直接接触しようか?いや、リスクが高い。相手から必要とされない限り、私から動くのは情報漏洩の可能性がでてしまう。うっかり口が滑って、なんて事は許されない。それだけの嘘もついてきたのだから。

彼女歴0なのもひっかかる。女子受けも悪くないのに一人くらいいてもいいのではと思う。確かに表情がいまいち読めないからかもしれないが。

こんなにも、表情が読めない奴は私の人生の中で初めてだった。


そんなモヤモヤした中で、関わりを持つ日がたまたま起こった。私の腐れ縁の親友琴菜に彼氏ができたらしい。勘違いしていただきたくないが、私にだって親友の一人くらいはいる。

そして、彼氏の遥翔君は私と同じクラスでよく知っている人だった。その遥翔にくっついてきたのが一匹オオカミだった。

「初めまして、菊枝美香、同じクラスだから顔はわかるだろうけど。」

「んー、まぁよろ」

そう言って彼は持っていた〇っキーを一本くれた。

「ありがと」

受け取ろうとすると、ひょいっと自分の口に運んだ。

「え!?」

い、今何が起こった!?

「くれるんじゃ…」

「一言もそんなこと言ってねぇもん、ほしいなら、くださいだろ」

そんなドS発言。顔はニヤッと笑っている。

頭が少し、パニックになったが、遥翔がやればいいだろと言ってくれたおかげでようやく自分の口に運べた。何がツンデレだ。ただのドSだろ!心のそう思いながらもニコリと

「ありがとう」

ともう一度言った。



それからというものの、私たちは一つのグループになった。とても、打ち解けていたと思う。しかし、私自身が変わるわけではないのだ。取り繕った笑顔と言葉。みんなを後悔させないような場作り。

まぁ、それなりに楽しかったし、私の素も少しはも無意識に出てたかもしれない。

でも。そんな日々にある噂を聞かれた。

学校に残って高校生活最初のテスト勉強とゲームの周回をしていたときにクラスメイトが持ち出した。

「美香って奏と付き合ってるの??」

奏?なぜ、私と一匹オオカミが付き合わなけばならんのか。あいつは意地悪だし、すぐひねくれるし、食べ物も人の好き嫌いも激しい。はっきり言ってめんどくさい。

確かに琴菜と遥翔の付き添いで私と奏も遊んだり、お祭り回ったりしてたけど。。。

あ、周りから見たらダブルデートに見えたのか。高校生の恋愛脳は怖いものだな。

すぐ何かと、くっつけて、周りが盛り上がりたくなるのだろう。

まぁ、恋愛対象で言えば、正直嫌いではないひねくれているが、根は優しいのがわかるし、趣味も合う。ノリや考え方だって、最近似ているなと、思うくらいだ。

でも、クラスメイトの問いには

「付き合ってないよ、四人でいるのが楽しいだけ」

そう、答えておいた。

過去に好きになった人も付き合った人もいたが、大体相手に合わせていただけ。楽しくなくても楽しい素振り。結局素を出せずに友達のほうがよかったとフラれてしまう。

付き合えたとしても、正直困らせてしまうだろうし、期待はしていない。

だからクラスメイトには付け加えた。

「好きな人はいないけど、気になっている人はいるかな。その人は他の人と違う雰囲気だし」

そう付け加えたのに、楽しそうに

「試しに付き合ってみれば」

と、言い足した。

気になって入る。それは、本当で、もともと興味だってあったし。

からかうついでに、告ってみようかな、なんて悪ノリを思ってみる。

告ってもっと近づければ、知ることだってできるし、情報だって得られるかもしれない。

いっそ、勢いでラインで送ってみよ

<好きなんだけど、付き合ってくださいませんか?>

ドキドキで待っていると、数んしてすぐに

<考えさせて、時間が欲しい>

と、返ってきた。わかった、とだけ返してラインを閉じた。

てか、私から告っちゃったよ、と内心ドキドキしながらも勉強机に目を戻した。

このまま返事がなく、スルーされるだろう。私だってバイトはしている。恋愛に割く時間は必要ない。だって、こんな興味本位の告白なんて誰も受けたくないだろう。だから、期待なんてしない。


バイクにまたがりいつもの海に行く。携帯を取り出し、カメラを起動させて撮る。

海と空の境目を。

「なんか今日は靄がかかっているね」

うっすらと雲がかかり、綺麗とは言えない。

今日の私にふさわしいのかもしれない。


私は、人を信じる事を辞めた偽善者なのだから。

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