Uターン系彼女
くにすらのに
Uターン系彼女
ここ数日間の爽やかな晴天から一転、今日はどんよりと雨が降っている。
よくデートの待ち合わせに使っていたカフェで私と彼氏は向かい合って座っていた。
「ごめん。俺、他に好きな人ができたんだ」
「うん。いいよ。別れよう」
神妙な面持ちの彼氏に対して、私は満面の笑みを浮かべていたと思う。
楽しいとか嬉しいとか、そういう感情ではないけれど、表情筋の動きで笑顔を作れていることはわかる。
「あと、別れたあともたまにはエッチを……」
「他に誰とも付き合ってない時ならいつでも。強引なのはやめてね」
笑顔で約束を交わすと、元カレのケンイチくんは声のトーンが若干明るくなった。
口元も少し緩んでいる。
「最後に一つだけ教えて欲しいんだけど、ケンイチくんはその人のどういう所を好きになった?」
「それは……」
いつも割り勘だったのに、今日はお詫びの意味を込めてとケンイチくんが奢ってくれた。
「それじゃあバイバイ」
小動物がモチーフのマスコットキャラのように、両手を小刻みに可愛く振りながら元カレの背中を見送った。
周りの女の子は私をビッチと呼ぶ。
世間からはそう思われても仕方ない。
だけど自分なりのルールがあって、彼氏が居る時は他の男の子とエッチしない。
付き合う時はちゃんと一人を大切にする。
時と場合によって男の子との関係が変わるんだ。
「さて、今はフリーだから」
LINEをチェックすると元カレのリョウタくん、ヒロユキくんから連絡が来ていた。
一つ年下のリョウタくんからは、話したいことがあるから予定を空けてほしいという内容。
ヒロユキくんはエッチのお誘いだった。
どちらに返事をしても良かったんだけど、ここは早い者勝ちでリョウタくんのお誘いを受けた。
***
「もし今、誰とも付き合ってないなら、また僕の彼女になってほしいです」
待ち合わせ場所に着くなり愛の告白を受けてしまった。
こういう情熱的というか、一直線なところがお姉さん心をくすぐる。
「うん。いいよ。またよろしくね」
3か月前、リョウタくんはバイト先の塾に務める社員の女性を好きになったと言っていた。
歳はだいぶ離れているけどオトナの色気があって、それでいて歳の差を感じさせない距離感の近さに惚れてしまったらしい。
だから私はリョウタくんと別れた後、できるだけ肌の露出を多くしてメイクも色気が出るように変えた。
その結果出会ったのがケンイチくんだ。
「あの……自分からお願いしておいて言うのも変ですけど、本当にいいですか?」
「もちろん。だって、その社員さんより私の方が魅力的なんでしょ?」
ここに来る途中でブラウスのボタンを1つ外しておいた。
たまたまだけど下着は黒のレースが付いた気合の入ったものだ。
リョウタくんの腕に絡みつくように胸を押し当てると、それだけで顔を真っ赤にしてくれた。
「一度離れることで気が付くことってあると思うの。リョウタくんはそれに気付いてくれただけ」
「は、はい!」
甘えん坊なヒロユキくんは一足遅くて残念でした。
私はリョウタくんを魅了する先輩になります。
「せっかく私のところに戻ってきたから教えてあげる。実は私、年下の男の子に飼われてみたいなって思ってるの」
「飼われる……とは?」
ゴクリと擬音が聞こえそうなくらい、リョウタくんは思い切り唾を飲み込んだ。
「それは私が教えてあげる。年上のお姉さんに甘えるだけじゃなくて、甘やかす悦びも知ってほしいな」
***
結局、リョウタくんとは長続きしなかった。
ヒロユキくんと一緒で甘やかされたい専門らしい。
だけど、私の方はしっかりと小動物系のキュートさを学習していた。
「わっ!」
「うおっ! ビックリした」
「えへへー。作戦成功」
待ち合わせ場所にいたケンイチくんの背後から忍び寄り、突然声を掛けた。
もちろん胸をしっかり押し当てている。
今は彼氏が居ないフリー状態なので今日はエッチのお誘いを受けにきた。
「なんか雰囲気変わったな」
「そう? ケンイチくんはこういう方が好きなんでしょ?」
瞳を潤ませ、下から顔を覗き込むように表情で訴える。
「ま、まあ」
「えへへ。嬉しいな」
私自身はフリーだけど、ケンイチくんに彼女がいるかどうかはわからない。
あくまで私が私のルールを守っているだけで、相手の状況は知ったことじゃない。
ただ間違いないのは、今のケンイチくんは私に夢中ということだ。
「なんつーか、少し時間が経つとお前のことを思い出すんだよ」
「嬉しい。私がまた一番になったっていうことでしょ?」
「そ。今はお前が一番」
別れた元カレが好きになった女よりも可愛く美しくあざとくなる。
そうすれば、きっと元カレは私のところにUターンしてくる。
何度でも何度でも同じことを繰り返す。
私こそが一番居心地の良い女であり続けるために、私は自分を磨き続ける。
次は、
Uターン系彼女 くにすらのに @knsrnn
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