勇者と魔王の娘がお互いに攻めだす話
二人は焚き木を囲みながら、焼き魚にかぶりついていた。
「凄い…! ただ焼いただけなのに、こんなにおいしいなんて…!」
ルキアが感嘆の声をあげる。
「新鮮な食材はそれだけで最高の調味料だからな~ とはいえ、塩があればもっと最高なんだがな…」
「でも魚が釣れることがわかったし、水もあるから、当分の間の食料問題はどうにかなりそうだね。」
「あぁ。だが、このままずっとここにいるわけにもいかないからな。さて、どうしたものか…」
アヴェルが考え込む。
「この谷を這い上がるのは難しいだろうし… となると、この川を上るか下るかしかないんじゃないかな…?」
「やっぱルキアもそう思うか。この辺りの川の流れはまだそこまで速くないが、上に行けば行くほど、流れは速くなるだろうし、河原みたいな足場が確保できるかもわからない。となると、俺は川を下った方が良いと思うんだが… ん? どうした? 俺の顔に何か付いてるか?」
「あ! いや! 凄い理知的に語ってるのが凄くカッコよくて… その… 思わず見とれちゃった…っ」
この女、ついに攻めだした。
(ど、どうしよう…っ 思い切って口に出しちゃった…! あ、アヴェル君照れてる…! 可愛い…! 好き…!)
「ちょ、からかわないでくれよ…! でもまぁ、ありがとう。」
(おいおいおいおい…! 何だ今の「見とれちゃった…っ」って! しかも上目遣いでぇ! 小悪魔的にぃ! あぁもぅ! 可愛いぃぃ!)
この男、性癖にどストライクだった。
「うふふ。いえいえ。私は川の事とかよくわからないから、アヴェル君についていくねっ!」
「お、おう。任せてくれ…!」
※※※
ひと眠りした後、川の流れにそって歩み始めた二人。進むにつれて、次第に霧のような靄がかかり始めた。そして…
「おいおい… まじか…」
二人は今、巨大な滝に行く手を阻まれていた。
「うわぁ、すごい大きな滝だね。」
「なんで谷底にこんな大きなものが… まいったな。」
アヴェルが額に手を当てる。
「飛び降りるわけにはいかないの? 最悪怪我しても、私の魔法で…」
「いや、やめといた方がいい。滝底には必ず、滝つぼってのがあるんだ。落ちてくる水で地面が抉られて、つぼみたいな穴が開いててな。その穴の中では、水流が凄い勢いで渦まいてて… 巻き込まれるともう助からない。」
「ひぃっ」
滝底を眺めていたルキアが思わず飛び退る。
(あ、可愛い…!)
「ど、どうしたのアヴェル君!? 私の顔に何か付いてる!?」
「いや、可愛いなと思って。」
「ちょっと! やめてよもぅ。 …ありがとう。」
(やばい! アヴェル君が直視できない…! あぁもう! 好き…!)
(ルキアがすっごい照れてる…! 耳真っ赤じゃん! 可愛い! もう好き!)
※※※
王城、エリーゼの部屋にて。
「なんだろう。理由はよくわからないけど、なんか凄いイライラする…!」
—————
エリーゼ
メルツ王国の王女様。勇者を溺愛している。勇者抱き枕(自作)を使用用、替え用、予備用、布教用、布教予備用の計5つを所持している。最近は録音の魔法を覚え、勇者に愛を囁かれるキットを開発している。
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