93 街を守るものたち、街で生きるものたち(3)

 その日夕刻、太陽が沈む前。

 斥候、物見に馬を走らせていた衛士が戻って来て、敵の進行状況を報告した。


 情報説明を、中央城門の前で隊の編成を確認していたフェイも聞く。

 軍勢の大半は怨鬼と言う、小人のような姿をした化物。

 そして動く骸骨、動く腐った死体と言った容姿をしている、屍鬼(しき)という存在だった。


「ふむ。敵の歩み自体は速くはなさそうだが……あいつらは、休まんからな」


 魔物たちは、疲れるということを知らない。

 眠らず休まずひたすら動き続け、その動きを止めるときは、退治されて力尽きたときだけだ。


「はい。あとはやはり、空を飛んでいる大型の、トカゲのようなおかしな魔物が気になります」


 斥候に出ていたうちの一人は、フェイの後輩衛士、エルフ族のスーホと言う青年だった。

 彼が馬を操る技術は極めて高いので、長距離の連絡役などをこうして任されることも多々あるのだ。

 その口から出た魔物は、鳥でもコウモリでもない、もちろん伝説にある竜とも違う、羽の生えたトカゲ、あるいはワニのような怪物らしい。


「未知の魔物について、想像でああだこうだ言っても仕方がない。他に気になる魔物のことを聞かせてくれ」

「やはり、大緑とか言う、あの巨人でしょうか。他に、魔法のような呪いを行使する種別の、高位の屍鬼を確認したものがおります」


 アンデットモンスターの上位種、いわゆるリッチーというやつだ。

 骸骨とゾンビの中間のような、おぞましい姿をしている魔物である。

 知能が高いかどうかは謎だが、魔法に似た不思議な力を使う、これまた厄介な相手である。


「上位種の屍鬼が使うまじないは、過去に色々と情報があったはずだ。特に危険度の高い攻撃に対応できるようにしておくか」

「わかりました。各所にそのように伝えます」


 そう言って、スーホは他の関係者へ情報を伝えるため、再び馬を走らせた。


 フェイを含めたきっちり百人の衛士、主に北門守備隊から編成されたその部隊。

 彼らは城壁の外側、ラウツカ市郊外の中央に陣取っている。


 敵の群れを確認し、味方の別部隊が弓矢や投石、遠隔魔法などで相手の前面を攻撃したのち。

 彼らの隊は真正面から敵にぶつかって、騎兵による突撃を行う役目を担っている。


 フェイたちの後ろの陣、城壁に近い部分にはもっと人数の多い衛士の大隊が控えている。

 しかしそれはフェイの指揮下とは違う部隊で、先行突撃はしない。


 最も早い段階で会敵し、最も激しい戦闘に晒される役目は、フェイとその周りにいる九十九人だった。

 フェイを含めたほとんどの隊員たちは、その役目に志願し、フェイやその他の上官に選抜されてここにいる、若い隊士たちだった。


 全員が生きて帰れるとは、フェイも流石に思っていない。

 大きな仕事で仲間の衛士が死んでしまうことは、フェイにとっても初めてのことではない。

 しかし一人でも多くのものを生還させて、共に喜びの祝杯をあげることが、なにより重大な彼女の責務でもあった。


 馬に乗り、槍を携えてフェイは隊士全員の前に立つ。


 衛士隊の中には、フェイの髪がバッサリと切られて短くなったことを、残念に思っているものも多い。

 もちろんその逆に、今の方が良いと思って、憧れ以上の熱意で彼女を見つめるものもいた。


 さまざまなものがいて、こんな状況であっても様々な考えがある。

 フェイは現場を預かるものとして、彼らの想いを一つ同じくするために、語り始めた。 


「この中に、私に勝てる自信のあるものはいるか?」


 いきなりそんなことを言われて、若い衛士たちはみな顔を見合わせ、首を振った。


「こうして馬上で槍を構えている私を相手に、同じ条件で私を打ち負かすものが、一人でもいるか?」


 相変わらず、声を上げるものは一人もいない。

 そんな奴がいるわけはないだろうという、満場一致の反応だった。

 衛士の彼らは、それを恥と思っていない。

 むしろ誰よりも強い、一番隊隊長のフェイを、仲間として誇りに思ってさえいるのだ。


「いないか。しかし、今回のこの戦で『私を超える働き』をするものが、この中から出て来るかもしれんな」


 押し黙る衛士たち。

 その言葉の意味は、ハッキリしている。

 いくら強いフェイであっても、戦いの中でなにか不幸なことが重なれば、死ぬ。

 そして、幸運にもたまたま生き残るものは、フェイの他にいるかもしれない。


 しかしフェイがしたいのは、暗い話ではない。

 彼女は清涼な微笑みをその顔にたたえながら、話し続ける。


「私の生まれ故郷では『嚢(ふくろ)の中に入れられた錐(キリ)は、袋を破って飛び出してくる』と昔から言い伝えられている」


 嚢中(のうちゅう)の錐、と言う古代中国の故事である。

 その逸話をフェイは仲間たちに言って聞かせた。

 有能な人士は、集団の中であってもなお埋もれずに突出するものだ。

 ここぞという場面で用いられれば、必ず飛び出して活躍するのだと。


「お前たち一人一人が、今、戦場と言う袋の中に入れられた、一本の錐だ」


 眼の前に立つ若者たちの顔を、一人一人、フェイは真剣に見つめながら話す。

 この中にいる、誰の顔も、決して忘れないように。

 脳裏に刻みつけるように、フェイは彼らの顔を、しっかりと覚える。


「飛び出せ。貫け。突き破れ。敵を突き刺し、一匹でも多く仕留める、そんな錐になるんだ」


 視線がぶつかったものたちの、一人一人の瞳の中に。

 フェイの瞳に輝く炎が、青く揺らめいて、燃え移る。


「そして自分こそが誰よりも、強く鋭い錐であるのだと、見事に証明してみせろ」


 立ち並ぶ九十九人の瞳、そのすべてに、しっかりと炎が宿った。

 フェイは再び、最初と同じ質問を、眼前で闘志を燃やす衛士たちに向かって投げかけた。


「もう一度聞く! この中で、私に勝てるものがあるか!!」

「うおぉーーーーーーーーうッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 全員が、その問いに、喉も破れよとばかりに吠えて、応えた。

 百本の鋭く強い錐の束が、フェイのもとに集まって。

 分厚いく固い、戦場という袋の中で、大きく突き出さんとしていた。


 これこそが、ラウツカが誇る衛士たち。

 街の真の宝は白亜の城壁でも、豊かな海でもない。

 この街を守る、彼ら彼女らひとりひとりなのだと、フェイは誇らしく感じていた。



 城壁の外、その西側、上空から戦場を俯瞰した場合、左翼方面にあたる陣営。

 アキラたち冒険者の一団は、そこにいた。

 城壁前面に東西に分かれた二つの隊の、西側部隊として編成、配置されているのだ。

 フェイの隊による突撃や、中央のメイン戦力である衛士大隊が取りこぼした敵を始末し、魔物が市内に入るのを防ぐための部隊だ。


『もしもしアキラくん、ちゃんと聞こえてるかい?』


 アキラの左耳にはめ込まれた、小さな魔法の石が、別の場所にいるルーレイラの声を響かせる。

 魔法の力で小型のマイクスピーカーのように、遠く離れていても声を届かせることのできる、ルーレイラの秘蔵品だ。


「大丈夫、ちゃんと聞こえてるよ」


 アキラたちと反対側、東に配置された冒険者の一隊と連絡を取るためのアイテムである。

 そう、東側ではルーレイラが、冒険者たちの取りまとめを行っているのだ。


 この道具は数が少ないので、ルーレイラは自分が信頼する、ごく限られたものにしか渡していない。

 その数少ないうちの一人がフェイであり、ここにいるアキラだった。


『こんなとき、あの黒エルフのお嬢さま、フレイヤがいたらって思うよ』


 思い出話にするにはまだ早いことを、ルーレイラは話す。


「そうだね、フレイヤさんの魔法は、すごかったな……」


 アキラとルーレイラは先日にこなした、幽鬼の巣食う神殿の依頼を思い出していた。

 その仕事を共にしたフレイヤと言う少女は、敵や味方がどこにいるか、察知できる能力を持つ。

 まるでレーダーのように人や魔物の位置がわかる魔法を使うことができたのだ。


 しかし今、フレイヤはいない。

 フレイヤの供をしていた不思議な気功拳使いの、ティールとう青年もいない。

 もしもいればどれだけの戦力になり、活躍しただろうとアキラは思う。


 それを言っても始まらない。

 今ここにある力を合わせて、なんとかするしかないのだ。


『そこにエルツーもいるだろ? さっき斥候から聞いたおかしな魔物について、なんて言ってる?』


 アキラは、隣にいるエルツーにルーレイラからの質問を伝えた。

 それについてエルツーが自分の思いを述べた。


「空を飛んでる奴を攻撃したら、こっちの矢や投石が変な方向に行って『味方撃ち』になっちゃう可能性が高いと思うわ。敵が来る前に、部隊の代表者同士でそのことを話し合った方がいいと思う」


 エルツーは、未知の魔物である空飛ぶトカゲの対応について考えていた。

 相手の攻撃手段がわからなくても、こちらが相手を攻撃する手段はハッキリしている。

 矢や、投石や、魔法による攻撃だ。

 その狙いと扱いを間違えば、味方が大損害を受けることになると話した。


『確かにその通りだ! 上手い対処法がないかこっちでも話し合ってみるよ!』


 ルーレイラからの連絡は、そこでいったん途絶える。

 この石は内部に魔法力を溜め込んでいる、いわばバッテリー方式。

 無駄に会話を続けていると魔力が切れて、機能が失われてしまうのだ。


 エルツーは、城壁前の草原に展開する、自他の部隊を見回しながら言った。


「アキラ、フェイねえたちの部隊は、馬に乗ってて速いけど、飛車じゃないわよ。槍の車よ」


 フェイたちは、将棋で言う香車の役割の部隊であると。


「どういうことだ?」

「敵の群れに一度突撃したら、きっとフェイねえたちは簡単に方向転換する余裕がなくなってこと」

「確かに。馬ってそういう生き物だしな……」


 地面に棒で絵を描き、小石を敵勢力と味方の部隊に見たてて、エルツーはその動きを予測しながら説明する。

 その様子はまるで将棋であった。


「だからフェイねえたちはまず敵中央を突破しながら、真っ直ぐ奥まで突っ込んで、そこから方向を変えると思う」

「中央が空いたら、敵は左右に分散するな」

「ええ、その敵は斜めに走って来る感じであたしたちや、ルーレイラのいる方へなだれ込んでくるわね」

「だったら、中央よりも逆に左右に来る敵の方が多くなるんじゃないか?」


 アキラもエルツーの描く図と置く石を見ながら、予測と不安要素を呟く。


「そうかもね、でもあたしたちの横には銀と金の役ができる、衛士さんの部隊がいるじゃない」

「あ、そうか」


 東西に分かれる冒険者の隊の隣、戦線の両端には市中衛士を中心にした中規模の部隊が控えている。

 エルツーはその隊を、将棋の銀将金将にたとえた。


「私たちと衛士さんたちとで、できるだけ味方の多い、強い部隊のいる中央に敵を追い立てる感じになるわね。できそう?」


 アキラたちは、西端に陣取る市中衛士隊と協力して、城壁に向かってくる大量の敵を迎撃する形になる。 

 その際に、最も分厚い衛士大隊のいる、中央付近に敵を寄せ集めれば、効率よく敵を殲滅することができるだろう。 

 敵がまとまっていれば、それだけ城壁からの弓矢や魔法による遠隔攻撃の支援も、効果を発揮しやすい。


「が、がんばる」

 

 エルツーの考えについていけないところが出て来て、急に根性論を口にするアキラであった。

 表情を引き締めたエルツーは、さらに厳しい想定をアキラに突きつける。


「今回はフェイねえを大緑のクソ野郎に、集中させちゃダメなのよ。他の隊でどうにかしなきゃいけないわ」


 この場でのフェイたちの部隊は、全員が馬に乗り、槍やなぎなた状の、あるいは戦斧といった長柄武器を持っている。

 それは少しでも速く動き、一匹でも多くの魔物を狩ることが、フェイたちに最も期待された役割だからだ。


「フェイさんたちがせっかく馬に乗ってる機動力を、大緑の相手をすることで失っちゃ、ダメってことだよな」

「そ。フェイねえにはアイツに構うことなく、もっと広く派手に暴れてもらわないとね」


 アキラもうすうす感じてはいた。

 しかしこうやってわかりやすくエルツーに示されて、展開のイメージがはっきりしてきた。


「……あのデカブツが、上手く俺たちの方に来れば、いいんスけどねえ」


 グルルル、と小さく低く唸って、クロが言った。


「ええ、私たちが上手くやれば、アイツのせいで誰ひとり、死なせやしないわ」


 次は、負けない。

 アキラとクロとエルツーの想いは、同じだ。

 来るなら来てみろと。


 一方、その話を横で聞いていた半白髪の見習い冒険者少年、カル。

 大緑と言う巨人の魔物については、情報だけでしか知らない。  


「緑色のそいつ、武器とか炎が、効かないんだっけ」

「ええ、そうよ。ついでに毒も効かないわ。体は大熊以上。一発でも殴られたら死ぬと思いなさい」


 エルツーは、自分たちと大緑との戦いを、必死に頭の中で思い描く。


 高所から落とすという手は、周囲が平原なので使えない。

 塹壕や防柵、そして槍衾などの防御機構が、果たしてどれだけの効果をもたらすかも未知数だ。

 鎖や縄で捕縛するような統制のとれた攻撃を、混乱の戦場で採用できるあてもない。


 ぎゅ、とエルツーはアキラとクロの手を両手で握る。


「絶対に、あたしたちで倒すんだから。あたしたちなら、奴のことを、嫌と言うほど知ってるんだから」


 前回は、フェイに強化魔法をかけて倒してもらった。

 しかしあのときのエルツーの魔法は、疲労困憊の中で振り絞った、残りかす程度の効果だ。


 今はあのときとは違う。

 本気の全力でエルツーは魔法を使うこ準備ができている。

 むしろあの頃の自分より、魔法の力と技術は向上している自信が、エルツーにはあるのだ。

 

「負ける気がしねえっスね」

「だな」


 エルツーの手を握り返し、アキラとクロは笑う。

 もう、あの頃の自分たちじゃない。

 恐怖から悪夢を見てうなされていた日々とも、とうにおさらばできている。

 この三人で、あのときの雪辱を晴らすのだ。


「火が付きそうに燃えてんな、三人とも……」


 アキラたちの絆を、少し羨ましく思うように、カルはそう言った。

 彼は彼なりに考えていることがあるが、まだ秘密にしていた。



 城壁外、東側、右翼の陣。

 ルーレイラは、竜族獣人、いわゆるリザードマンの冒険者、ドラックと話し合っていた。

 ドラックは港で船の仕事の途中だったが、そっちを切り上げて討伐に参加している。


 古くからの馴染みであるウィトコの姿は、ここにはない。

 過去に負った傷の影響から足の調子が悪く、前線には出られないからだ。


「ウィー、大丈夫かな……」


 心配した声でルーレイラが呟く。

 ウィトコは城壁の上で、他の衛士や冒険者と一緒に、弓矢等の遠隔攻撃の部隊にいる。

 もちろん、ルーレイラはウィトコにも魔法の通信石を貸し与えていた。


 最近、ウィトコが要求する痛み止めの薬が増えている。

 強い副作用のある薬なのでルーレイラはあまり使って欲しくなかったが、ウィトコの膝を思うと、断れないのだった。


「ところで博士サマよォ。アキラがよこしたこの革袋は、いったい、なんなんだァ? 中身は”粉”みてェだが、薬かァ?」


 一方、手に持たされている小さな皮袋の中身を、ドラックは気にしていた。

 大事なものだから、とアキラが渡したものだ。

 事情があって、ルーレイラはそれを持つことができない。


「薬と言えば薬なのだけれどね、飲んではいけないよ。おそらく、いいことにはならない。あと、火元の近くには絶対に、置かないでね」

「わけが、わからねーなァ……」


 ルーレイラはその中身の粉を、できることなら使いたくはない。

 ぶっつけ本番で、上手く使えるかどうかも分からないのだ。


 その粉を使った有効な武器も、こんな短い準備期間では完成させられなかった。

 しかし、使わなければいけない局面が、訪れるのかもしれない。

 使い道を、ルーレイラは一つ、思い付いてしまったのだから。


「はあ……憂鬱だ」


 溜息をついて、ルーレイラは髪の毛越しに、自分の右目のあたりを触る。

 その眼窩には、かつて精霊の神にささげた右眼の代わりに、青い宝玉が収まっている。

 知恵と魔力を得るために、彼女は誓いを立てて、神に捧げる贄として右眼を差し出した過去があるのだ。


「あの誓いから、もう、百年かあ……」


 自身が最も崇敬する、火の精霊に、ルーレイラは今一度の祈りをささげる。


 ルーレイラの一族は、古くに伝わる赤エルフという種族だ。

 しかし、皆が皆、赤い髪の毛や赤い瞳を持って生まれるわけではない。

 彼女のように見事な真紅の髪の毛の持ち主は、数百年に一度しか生まれなくなっていた。


 父祖は代々、火の神を最も篤く信仰し、帰依していた。

 ルーレイラもそれは同じであり、彼女が瞳を捧げたのも火の神にだった。

 彼女は燃え盛る炎の中に、自分で右眼をくり抜いて投げ入れたのだ。


 ルーレイラは静かに、目を閉じて祈る。

 この戦いの勝利のため。

 愛するものを失わないために、この日もルーレイラは、かがり火を前に祈り続ける。

 そのためにならなんでもすると、新たな誓いを胸に抱いて。



 日が沈み、夜になる。

 それでもラウツカ市城壁の内外を問わず、多くのものが起きていて、戦の準備を進めていた。

 

 故郷の村を滅ぼされた、狼獣人の少女マリも、その一人である。

 彼女は城壁の内側でパンを焼いたり汁物を炊いたりする、炊事部隊の手伝いをしていた。


「はい、お兄さんお姉さんたち! 焼き立てだよ!!」


 階段から城壁の上に昇り、まだ温かいパンを見張りの衛士や冒険者たちに、マリは配って回る。

 その足の速いことに、みなが驚いていた。


「こりゃありがてえ」

「寒いのに大変ね、ありがとう!」


 冬の寒い時期の、風に吹きさらされる城壁の上だ。

 焼き立ての温かいパンが、どれだけ気力を復活させることだろうか。


 人々の笑顔と感謝を受けながら、懸命に食事を作り、戦士たちに届ける中で。

 マリは、とうとうその言葉を聞いた。


「敵影確認! 敵影確認!」

「数は不詳! しかして多数!!」


 見張りの衛士でも特に視力がいいものや夜目が利くもの。

 そして匂いや物音を察知するのに敏感なものたちが、魔物の群れを確認し、その接近を知らせる。


 城壁に構える部隊を統括する衛士の、号令の叫びが鳴り響く。


「各隊、迎撃準備ーーーーーーーーーッ!!!!!!」


 平時は部品ごとに分解されて、城壁内部の倉庫に保管されている投石機や大弩。

 今、城壁の上に展開されているそれらの迎撃兵器に、衛士や冒険者たちが石をセットし、矢を備える。


 またある場所では、はるか遠く離れた場所へも攻撃を放つことができる精霊魔法の使い手が並び立つ。

 準備の号令に合わせて、一斉に精霊神への祝詞を唱える。


「撃てーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」


 最初に魔物への一撃を食らわせたのは、果たして誰の、どのような攻撃か。

 

 そんなことは、その場で戦う誰にも、わからなかった。

 

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