83 幽霊の棲む神殿と、流浪の冒険者(6)
「アキラァ! 俺に合わせろよォゥ!?」
「オッケェイ!!」
まず敢然と敵に向かって行ったのは、ドラックとアキラ。
大刀を持っている骸骨龍の攻撃を、ドラックがまず受けて弾き。
「オラオラァッ!!」
アキラの左右の手に握られたトンファーの打撃が、骸骨龍の脚に襲い掛かる。
「ゴァァーーーーッ!」
どこに声帯があるのかは不明だが、攻撃を食らって骸骨龍は吠えた。
アキラの攻撃で、相手の骨にひびが入っている。
「行ける! 攻撃は通るよ!」
「どんどん行くぞォ!!」
バギィン! と強烈な音が鳴る。
ドラックが骸骨龍の膝頭に、自分の大ナタを振るったのだ。
その後も、片方が敵の攻撃を受けて弾き、もう片方が敵の体に直接攻撃を加える、というルーティーンをアキラとドラックの二人組が繰り返す。
「やりおるのうあやつら。ティールも後れをとるな!! わらわと小娘の矢で援護する!」
「了解」
フレイヤの指示が飛ぶ前に、ティールはもう走っている。
猛烈な疾走と共に、アキラたちとは別方向、獅子の頭を持った合成獣らしき魔物に挑みかかった。
同時にフレイヤとエルツーが放った矢が、相手の頭部に襲い掛かる。
飛び道具を、魔物は掌で払う。
懐に潜り込んできたティールには蹴りを放ったて対応したが、ティールは横に体を動かしてそれを躱し。
「せやッ!!」
渾身の、光る拳による右の正拳を、敵の下腹部に命中させた。
「ギュゥワォァーーー!!」
苦悶からか、地獄の底から放たれたような吠え声を出して、合成獣はうずくまった。
「シッ!!」
そしてティールの、やはり足の甲と脛がぼんやり光っている右の回し蹴りを頭部に喰らう。
ダメージを受けて後方によろけた合成獣だが。
「マズい! 深追いするな!」
ルーレイラの叫びで、ティールの追撃の手が止まる。
「シューーーーーーゥ!!」
神殿奥に鎮座している魔樹が、花の房から大量の毒気を吐きだしたのだ。
「クッソォ! このまま押しこみゃぁ、勝ちだったのによゥ!?」
苛立ちと共に、ドラックも叫ぶ。
アキラとドラックも的確に骸骨龍を追い詰めていたが、部屋の奥に行けば魔樹から放たれる毒気に曝されてしまう。
敵を奥に追い込めば、それだけ自分たちが危険な目に遭うのだ。
「魔樹をどうにかしないと……!」
「でもあの樹を倒すためには、前の魔物が邪魔だわ!」
ルーレイラとエルツーは悩み考えながら、どこかに活路がないか見出そうと努める。
「樹木の魔物には、核になる根がどこかにあるはずだけど……」
「ふむ。相手は樹木と言っても、魔物であれば瘴気に満ちた存在じゃ。瘴気の最も強い箇所が、その『核』なのではないかの?」
ルーレイラが呟いたことに対して、フレイヤが意見を返す。
「そうなのだけれど、こんな混戦状態でそれがすんなりわかれば、苦労はしないよ!」
「わかる、と言っておろうに」
フレイヤはそう言って、弓を手から降ろし、目を閉じた。
探知の魔法は、ここが使いどころだと判断したのだ。
「この間、わらわは無防備じゃからな。くれぐれも死なせるでないぞ」
「わかったわよ! こんな状況でも偉そうなお嬢様ね!」
エルツーは自分の矢を撃ち尽くしてしまった。
それでもフレイヤの弓矢を拾い上げて、敵に懸命に攻撃を仕掛ける。
「どうにか、ならねーのかよゥ!?」
「正直、しんどくなってきた! こいつ、強い!」
一進一退の攻防が続き、骸骨龍の強烈な攻撃にさらされていたドラックとアキラは、体力の限界が訪れつつある。
「小娘! 二人を回復してやるのじゃ! アキラとか言う男! いったん離れて、獅子頭の獣の相手に移れ!」
フレイヤが一同に指示を飛ばす。
「わ、わかった!」
「アキラ一人で、大丈夫かァ!?」
その言葉を受けて、アキラとドラックは一旦、戦線を下がってエルツーの強化回復魔法をその身に浴びる。
「ティール! わらわの真下の地中じゃ! そこを掘れ! 全力でじゃぞ!」
「ああ」
獅子頭の合成獣の相手をアキラと交代したティールが、フレイヤのもとに駆け寄る。
今度は地面を睨み、やはり右拳を引いて構えて、その体中に光を発する。
「霊光拳……四式!」
そう唱えて、まるで空手の試し割り、コンクリートブロックを粉砕するかのような、あのお馴染みのフォームで。
「砕ッ!!」
地面の真下に、渾身の右拳を打ち込んだ。
「お、おわぁっ!?」
近くにいたルーレイラが、確かに「地面の揺れ」を感じるほどの衝撃があり。
神殿の床地面が、大柄なドラッグでも頭まですっぽり入れてしまうかというほどの深さで、抉れ穿たれしまっていた。
「ヒ、ヒシュィ~~~~~~~~~~ッ……」
奇妙な音とも声とも定かならぬものを発し、魔樹は力を失って萎れて行く。
地面に大きな穴を穿つほどの、ティールの拳撃が、魔樹の核となる根を粉砕した、あるいは蒸発させたのだ。
それを見ていたルーレイラには、この技が果たして打撃なのか、魔法なのか、もう全く分からない。
しかし、やはりというかこの一撃で、ティールは力を使い果たしてしまったようである。
地面に、バタンと横向きに倒れ込んだ。
「アンタに倒れられちゃ、攻撃の手が足りないのよ!」
ティールの体に、慌ててエルツーが強化魔法をぶち込む。
エルツーの魔力、気力はここで見事に枯渇した。
「さっさと、倒してよね……戻るとき、誰か、おぶって……」
朦朧としながら言って、エルツーは尻餅をついた。
戦線に復帰したティールが、獅子頭の怪物のもとへと駆けて行き、叫ぶ。
「肝臓(レバー)!」
後ろからその声を浴びて、魔物と向かい合っていたアキラの体が自然に動く。
肘打ちに近いフォームで、左に握ったトンファーの打撃を相手の脇腹に、アキラはぶち込む。
「蟀谷(テンプル)!」
再びティールは叫んで、それを受けたアキラが右手でトンファーを棍棒のように振るい、敵の下がった頭に力の限りの打撃をかます。
「正拳ッ!!」
「押忍(オス)ッ!!」
そして、アキラの左正拳突きが敵の鼻面に。
ティールの右正拳突きが、敵の鳩尾(みぞおち)に直撃した。
ズゥン……と鈍い音を立てて、獅子頭の怪物は、地面を舐めるようにうつ伏せに、斃れた。
「おっしゃァ、こっちも、終わったぜェ!?」
ドラックも、骸骨龍の両足と片腕を粉砕し、敵を仕留めたところだった。
敵を仕留め終わった後、アキラは気付いた。
獅子頭の合成魔獣と、骸骨の龍とでは、おそらく格段に、合成獣の方が危険な相手だったのだ。
骸骨の魔物は知能も低く、手に持った大きな武器を単純に振り回すくらいの攻撃しかしてこなかった。
その一方で獅子頭の魔物は、ティールの相手をしながら、フレイヤやエルツーの矢の攻撃を防いでいた。
あえて危険な敵を最初に削るために、ティールは真っ先に向かって行ったのだ。
ティールの攻撃でずいぶん弱っていたから、アキラでも獅子頭の魔物を相手にすることができたのだろうと。
「みんな、ご苦労さん! 周囲に魔物の気配もないし、完全勝利だよ!!」
タタタタッとルーレイラがアキラたちに駆け寄って、祝福を述べた。
地面で仰向けに大の字になりながら、エルツーは涙を流していた。
「今度は、ちゃんと、できたわ……」
そして、おぼろげながら心の中で確信した。
もう、緑の魔物と、奴に殺された二人の依頼者の顔が、夢に出て来ることはないのだろうと。
「どこか、痛むのかの?」
よっこらせ、とエルツーの体を引き上げて肩を貸し、フレイヤが気遣う。
「なんでもないわ。目に砂が入ったのよ」
「そういうことに、しておくかの」
フレイヤという、この黒エルフのお嬢さまは、心や精神を察知する魔法が使える。
自分の心の中も見透かされているのだろうとエルツーは思った。
しかし、それが不愉快ではなかった。
今回、彼女が冒険依頼の仲間でよかったと、エルツーは心から思った。
こうしてアキラたち六人は、カイト神聖王国からの魔物討伐依頼を見事に達成し、ラウツカの街へと戻ったのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます