卒業

紆余曲折あった高校生活も、今日でいよいよ終わりを迎える。卒業式は桜並木なんてのは誰かの作り話で、写真に映る背景は形の悪い雪山ばかりだった。


この3年間を振り返ると、コロナ休みとか、冬のイルミネーションとか、無くなった学祭とか、何気ない日常でさえ俺の青春はなんだかんだ、例の彼女に振り回されていたようないなかったような。


当の彼女は、髪がわずかに茶色く染まっていた。本当によく見ないと分からない程度なのだけれど、どういうわけか鈍感な俺も気づけてしまった。そして肩の長さでクリクリに巻いていた。まるでトイプードルみたいだ。


式が始まる前から卒業アルバムの寄せ書きを交換しに他クラスを巡っている彼女を廊下で見かける。あぁ、これはもう少しで俺のとこにも来るぞ......。

隣のクラスでお目当ての友達が見つからなかったらしく、案の定、廊下に居合わせてしまった俺のところにやってきた。

「あ、なんか書きたい?」

「なんで上から目線なんだ」

「いや、だってそんな書くことないでしょ」

「近所だしな」

何か書かされると思っていたのに、予想外な受け応えだった。


「あ、そうそう。これ、つけてくんない?」

ポケットから出したのは朝に配られた胸花だった。今年は在校生が出席しないから、花をつけるのはセルフサービスだったのだ。


「それくらい自分でつけろよ」

「だって......針、こわいんだもん」

「刺してやろうか?」

「ひぃぃ!」

と言いながらも花を渡してくるので、つけてやることにする。


左の胸ポケットから出るようにと指示されていたのに従うのだが......言うまでもなく女子高校生の胴体は歪な形をしている。制服の内側へ安全ピンを指したものの、どう留めればいいものか。実際はかなり苦戦したのだが、紳士な俺はなるべく身体に触れないように付けてやることに成功した。まぁ、仮に触れていたとしてもそれは事故だ。結局自分でつけろって話。


一方でその間も彼女は壁に寄りかかってニヤニヤと遠くを見ているのだから、今回も嵌められた気がしてならない。

まぁ、それもこの学校での最後の思い出になる。




「九ノ瀬 めぐみ」

「はいっ!」

聞き慣れない本名を呼ばれ、返事をする彼女を見ると、さらに卒業の実感が湧いてくる。


いい声だな。この一瞬のためにボイストレーニングをしてきたことも、なぜか俺は知っている。


彼女の制服姿も一旦見納めである。たぶんあの子のことだから、コスプレ用に取っておくんだろうけどな。


卒業証書を受け取りに登壇したところで、やはり少しだけバカなオーラが出ているのだが、凛々しく飾られた胸元の華がその均衡を保たせている感じがした。

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